【病気】フェレットの前立腺疾患(オシッコ出なくなるよ)

発生原因

前立腺疾患は中年以上の去勢されたオスのフェレットにおける尿路疾患および尿道閉塞の主な原因で、副腎疾患と関連している〔Coleman et al.1998〕。フェレットの副腎疾患は、早熟時の日常的に行われる性腺摘出と相関関係にあり〔Schoemaker et al.2018,Shoemaker et al.2000、特に無菌性前立腺嚢胞の発生と関連しています。詳細な病因は不明ですが、循環性ステロイドホルモンの高レベルが前立腺組織の増殖を刺激するようです〔Coleman et al.1998〕。前立腺疾患はどの年齢でも発生しますが、少なくとも3歳以上の去勢されたオスに多発します。嚢胞は顕著に大きくなり、尿道を圧迫して尿道閉塞を引き起こします〔Coleman et al.1998〕。

嚢胞が長期間持続すると、性前立腺炎や膿瘍が発症する可能性があります。前立腺腫大に伴う尿のうっ滞は、細菌尿および細菌の前立腺組織への局所的移行を促進する可能性があり、細菌は血行性にも前立腺に入ります。前立腺炎は、大腸菌のほか、ブドウ球菌、非溶血性連鎖球菌、プロテウス、およびシュードモナス属などが分離されます。

症状

前立腺腫大による下部尿路疾患の兆候は、頻尿、血尿、排尿困難、または無尿です。フェレットは過度に舐めて、包皮に炎症を起こすことがあります。いきむことで下痢を起こしたり、まれに直腸脱を起こしたりすることがあります。脱毛、掻痒、または行動の変化などの副腎疾患の兆候が現れることがあります〔Bartlett 2002,Nolte et al.2002〕。前立腺炎を起こすと、陰茎から白色~黄色の濃い分泌物が見られ、重篤になると膿性の分泌物が出ることがあります。膿瘍が巨大になると、膀胱の近くに丸い構造物が触知され、腹部膨満ならびに腹痛緊を感じることがあります〔Powers et al.2007〕。いずれにせよ、前立腺疾患を治療せずに放置すると、尿道閉塞ならびに急性腎不全(尿毒症)、そして死に至る可能性があります。

検査/診断

X線検査では、前立腺腫大は膀胱の尾背側の腫瘤病変として確認され、膀胱を頭腹方向に変位させます。

造影膀胱造影検査では、膀胱頸部周囲の不規則な閉塞が見られます 。

特超音波検査では、副腎、腎臓、膀胱、および前立腺を評価します。CT検査では、前立腺と周囲の構造と膀胱よの接触を詳細に特定できます。前立腺嚢胞には、前立腺領域に低エコーから無エコーの液体が含まれ、前立腺膿瘍の高エコーの液体として描出され、それらは混在すること珍しくありません。

超音波ガイド下穿刺吸引細胞診で嚢胞液を採取し、細胞診検査、嫌気性培養を含む菌分離を行います。

前立腺炎や膿瘍だと、吸引された液体は濁っているか凝集しており、黄色から緑色を呈しています〔Powers et al.2007〕。

細胞学的検査の結果、化膿性滲出液が明らかになります。

治療

薬物療法は一般に第一選択治療として試みられますが、これには潜在する場合の尿道閉塞および副腎疾患の管理が含まれます。膿疱や膿瘍が巨大な場合は外科治療が優先されます。副腎疾患対しての薬物療法には、4.7mgデスロレリン酢酸塩インプラント〔Lennox et al.2012,Lennox et al.2009〕、GnRHアナログの酢酸リュープロレリンの注射(100~250 μg/kg/1ヵ月毎 IM)〔Wagner et al.2001〕が優先されます。高用量の酢酸リュープロレリンを投与すると、12~48時間以内に前立腺組織が収縮し、フェレットが尿道カテーテルの周囲で排尿し始めることさえあります。経口メラトニン(0.5mg/kg PO )を併用投与することもあります。副腎疾患の標準的な治療に加えて、抗前立腺薬であるフルタミド、ビカルタミド、フィナステリドなどの抗アンドロゲン剤の使用が提案されています。フェレットによっては数日以内に効果が現れる場合もありますが、肝疾患のある患者には注意が必要です。これらの薬剤の使用に関する研究結果が不足しているため、その有効性と安全性はまだ不明です。前立腺炎や膿瘍では強化サルファ剤やフルオロキノロン剤など、前立腺被膜を通過することが知られている脂溶性抗生物質を暫定的に選択して投与しますが、培養と感受性の結果を使用して治療を調整し、抗生物質を少なくとも 4 ~ 6 週間投与します。抗菌薬は重要な補助治療ですが、抗生物質は一般に前立腺全体の有効な組織レベルに到達できません。

外科的療法には副腎摘出術が含まれ、大きな前立腺嚢胞や膿瘍には外科的切除が必要になります〔Bartlett 2002〕。嚢胞は切開して開放にし、頭蓋被膜を可能な限り切除し、内腔をレーザー焼絡して縫縮する手術を行います。

造袋術および大網形成術を含む外科的治療も考慮されることがあります〔Bartlett et al.L.2002,Beeber 2000〕。造袋術では、感染した前立腺を洗浄し、腹壁に造袋します。

大網形成術は、犬で説明したものと同様の技術(排膿後に壁に大網※を貫通固定する)を使用して行うことができます〔Bartlett et al.L.2002,Beeber 2000,Powers et al.2007〕。選択した手術法に関わらず、進行した嚢胞や膿瘍は再発性膀胱炎や腹膜炎などの合併症が起こる可能性があり、尿失禁、尿腹症、尿道皮膚瘻の形成リスクが高まります〔Bartlett et al.L.2002,Beeber 2000〕。

大網は組織接着、血管新生、止血、腹膜リンパドレナージ、線維素溶解、免疫機能を促進すると考えられています〔Hosgood 1990〕

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参考文献

  • Bartlett LW.Ferret soft tissue surgery. Semin Avian Exot Pet Med11:221–222.2002
  • Beeber N.L. Abdominal surgery in ferrets.Vet Clin North Am Exot Anim Pract3:647–662.2000
  • Coleman GD,Chavez MA,Williams BH.Cystic prostatic disease associated with adrenocortical lesions in the ferret (Mustela putoris furo) Vet Pathol35:547–549.1998
  • Hosgood G. The omentum‐the forgotten organ: physiology and potential surgical applications in dogs and cats. Compend Contin Educ Pract Vet12:45–5.1990
  • Lennox AM,Wagner R.Comparison of 4.7mg deslorelin implants and surgery for the treatment of adrenocortical disease in ferrets.J Exot Pet Med21:332–335.2012
  • Nolte DM,Carberry CA,Gannon KM, Boren FC.Temporary tube cystostomy as a treatment for urinary obstruction secondary to adrenal disease in four ferrets.J Am Anim Hosp Assoc38:527-532.2002
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  • Wagner RA,Bailey EM,Schneider JF,Oliver JW.Leuprolide acetate treatment of adrenocortical disease in ferrets.J Am Vet Med Assoc218:1272‐1274. 2001
  • Wagner RA,Finkler MR,Fecteau KA,Trigg TE.The treatment of adrenal cortical disease in ferrets with 4.7-mg deslorelin acetate implants.J Exot Pet Med18:146-152.2009

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。