【病気】フェレットの生殖器疾患

背景

フェレットは発情および繁殖に伴う高エストロゲン血症が致命的な病態を引き起こすため、ペットでは素人の繁殖を避けるようにしています。そのため流通個体の大半は雌雄ともに生殖腺を摘出されているため、フェレットの一次生殖器疾患はまれです。しかし、流通個体の早期性腺摘出は副腎皮質疾患との関連が確認されているため、この背景的な問題はペットのフェレットでは多くの論議がなされています。

繁殖生理

フェレットの繁殖期は南半球では9~12月、北半球では3~8月に起こる長日の季節繁殖動物で、12時間以上の光を与えると繁殖活動が促進されます〔Amstislavsky et al.2000〕。北半球では、オスのテストステロン濃度は1月末に上昇し、2月末~7月下旬までピークのプラトーが維持されます。精巣サイズの増加は1月下旬に始まり、4月にピークに達します。フェレットの精子形成の段階と周期期間は、他の肉食動物で報告されているものと似ています〔Nakal et al.2004〕。

同じく、北半球のメスのフェレットでは、発情前期は通常1月か2月に起こり、外陰部が腫大して丸くなります〔Lindeberg 2008〕。

しかし、実際の発情期の到来は幅広く、1月下旬から8月上旬にかけて見られます。交尾排卵動物であるため〔Amstislavsky et al.2000〕、交配されるまで最長5ヵ月間発情が持続し、エストロゲン過剰症が起こることがあります(高エストロゲン血症)〔Lindeberg 2008〕。排卵が誘発されると、妊娠または偽妊娠が起こります。

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雄性生殖器疾患

停留精巣

フェレットの精巣は通常、胎児の発育中に陰嚢に下降しますが、完全に下降するには出生後数ヵ月を要する場合があります。停留精巣の発生は稀で、1597頭のオスのフェレットのうち 1% 未満で報告されています〔Bodri 2000〕。停留精巣は腫瘍性になる可能性があり、外科的に除去する必要性もあるかもしれません。

精巣腫瘍

精巣腫瘍は中年から高齢のフェレットでは珍しくなく、停留精巣ではより一般的であるとも考えられています〔Kammeyer et al.2014,Williams et al.2003〕。

前立腺疾患

前立腺疾患は中年以上の去勢されたオスのフェレットにおける尿路疾患および尿道閉塞の主な原因で、副腎疾患と関連しています。

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陰茎病変

干し草の敷き芒で飼育されている雄のフェレットでは、草の芒が包皮に引っかかると、陰茎に損傷が生じることがあります。繁殖期の雄も、縄張りを示すために股間を押し付けながら地面を歩くときに、損傷を受けることがあります。包皮内の異物を取り除くためにフェレットを麻酔し、次に局所用抗生物質コルチコステロイド軟膏を塗布します。包皮腺腫瘍はフェレットでは比較的よく見られる。病変は悪性であることが多く、積極的な治療が必要となる。少なくとも1cmの余裕をもって陰茎切断を含む外科的切除を行う必要がある〔van Zeeland Yet al.2004〕。

雌性生殖器疾患

高エストロゲン血症(エストロゲン中毒)

高エストロゲン血症は、避妊されていないメスのフェレットが発情によりエストロゲンが過剰分泌を起こして、再生不良性貧血を起こす致命的な病態です。

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子宮水腫

子宮水腫は、黄体が残存している状態で子宮内に無菌液が蓄積する病気で、通常は卵巣疾患を伴います。子宮水腫を伴う子宮部分閉鎖も、2 歳のフェレットで報告されています〔Batista-Arteaga et al.2007〕。根治治療は卵巣子宮摘出術になります。

膣炎

フェレットでは原発性膣炎はまれです。より頻繁には、持続発情、卵巣遺残、副腎疾患、またはエストロゲン分泌腫瘍による高エストロゲン症に続く慢性外陰部の腫れが膣炎の原因となります。あまり一般的ではありませんが、膀胱炎、結晶尿、または攻撃的な交尾行動によって外陰部の腫れが発生します。また、飼育管理が不十分で衛生状態が不十分な場合、発情期に干し草、麦藁、または削りくずが腫れた外陰部に付着すると、粒状の敷料で飼育されている繁殖用フェレットで膣炎が促進されることがあります。膣炎は、大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、プロテウス、またはクレブシエラ属などの細菌の過剰増殖に関連してます〔Fox et al.2004〕。膣炎は、病歴、膣細胞診の結果、粘液膿性膣分泌物の存在、生殖管の超音波検査によって、発情期に伴う腫れと区別することができます。全身抗生物質を投与し、必要に応じてエストロゲン レベルを下げるなど、根本的な問題を治療します。

参考文献

  • Amstislavsky S,Ternovskaya Y.Reproduction in mustelids. Anim Repro Sci60‐61:571‐581.2000
  • Batista-Arteaga M,Alamo D,Herráez P, et al.Segmental atresia of the uterus associated with hydrometra in a ferret. Vet Rec161:759-760.2007
  • Bodri MS.Theriogenology question of the month.J Am Vet Med Assoc217:1465–1466.2000
  • Fox JG,Bell JA. In Biology and Diseases of the Ferret 3rd ed.Fox JG,Marini RP, editors.Wiley Blackwell; Oxford, UK: 2014. Diseases of the genitourinary system; pp. 335–362.2014
  • Kammeyer P,Ziege S,Wellhöner S et al.Testicular leiomyosarcoma and marked alopecia in a cryptorchid ferret (Mustela putorius furo) .Tierarztl Prax Ausg K Kleintiere Heimtiere42:406-410. 2014
  • Lindeberg H.Reproduction of the female ferret (Mustela putorius furo) Reprod Domest Anim. 2008;2:150–156.2008
  • Lindeberg H,Amstislavsky S,Järvinen M et al.Surgical transfer of in vivo produced farmed European polecat (Mustela putorius) embryos.Theriogenology57:2167–2177. 2002
  • Marshall FHA.The estrous cycle in the common ferret.Quart J Microsc Sci. 1904;48:323–345.1904
  • Nakal M,Van Cleef JK,Bahr JM.Stages and duration of spermatogenesis in the domestic ferret (Mustela putorius furo) .Tissue Cell36:439‐446.2004
  • Williams BH,Weiss CA. Ferrets: neoplasia.In Ferrets,Rabbits,and Rodents:Clinical Medicine and Surgery.2nd ed.Quesenberry KE,Carpenter JW eds.WB Saunders.Philadelphia:p91–106.2003
  • van Zeeland YR,Lennox A,Quinton JF, Schoemaker NJ.Prepuce and partial penile amputation for treatment of preputial gland neoplasia in two ferrets.J Small Anim Pract55:593-596.2014

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。