モルモットは肝臓においてD-グルコースからアスコルビン酸を生成するのに必要なLグロノラクトンオキシターゼという酵素を欠くため、食餌から補給する必要があります〔Nishikimi et al.1992〕。哺乳類の中でビタミンCを体内で作ることができない動物はモルモット以外に、人、猿、オオコウモリです。ビタミンC合成酵素であるL-グロノラクトンオキシダーゼ遺伝子の活性が、これらの動物種のなかでそれぞれ独立に失われました〔Nishikimi et al.1992,Martinez del Rio 1997〕。これらの動物が遺伝子変異によるビタミンC合成能力を失った理由は、普段から果物、野菜等のビタミンCを豊富に含む食餌を日常的に得られる環境にあったためと言われています。サルにおいてこの酵素の活性が失われたのは約6300万年前で、直鼻亜目(酵素活性なし)と曲鼻亜目(酵素活性あり)の分岐が起こったのとほぼ同時である。ビタミンC合成能力を失った直鼻亜目にはメガネザル下目や真猿下目(サル、類人猿、ヒト)を含んでおり、ビタミンC合成能力を有する曲鼻亜目には原猿類のキツネザルなどが含まれます〔Pollock et al.1985〕。
実験モルモット
モルモットは人と同じくビタミンCが合成できないことから、実験動物でも使用されています。ビタミンCの必要量は15~20㎎/㎏/日です。しかし、病気やストレスがかかった時、妊娠や授乳期は、ビタミンCが大量に消費されるため、30㎎/㎏/日以上が必要になります〔Guide for the Care and Use of laboratory Animal 1985〕。モルモット用ペレットにはビタミンCが添加されていますが、保管状態によっては劣化しやすいです。
ビタミンC(アスコルビン酸)は、結合織の主成分であるコラーゲンの生成に関与しており、欠乏すると、皮膚、骨、歯、血管等の脆弱化をもたらします。またコラーゲンの合成は傷の治癒を促進することで知られています。血管の脆弱化は、毛細血管の内皮細胞間の小孔が開大し、漏出性出血による出血傾向がみられ、つまり出血と傷の治癒不良がメインの病態となります〔Mahmoodian et al.1999〕。 臨床的には、関節出血、骨膜下出血、粘膜出血、皮下出血、筋肉内出血、歯肉出血などが典型的な症状としてみられます。関節出血は滑膜血管の損傷と骨の微細骨折によるもので、 特に成長期の幼若個体では、成長板が弱いこともあり、顕著に骨の障害を与えます〔Collins 1988〕。具体的には肋軟骨接合部の腫脹、長骨端変性による骨の変形などがみられます〔Collins 1988〕。また、腸粘膜での出血が起こり、腸炎も起こします〔Clarke et al.1980〕。被毛のケラチンのアミノ酸であるシスチンはシステインというアミノ酸が2つがジスルフィド結合をしていますが、アスコルビン酸が欠乏するとこの結合に影響し、 脱毛と被毛粗剛を起こします。歯槽のコラーゲン形成に影響すると、歯の動揺がみられ、不正咬合を引き起こします〔Collins 1988〕。
症状
全身症状は、虚弱、食欲不振、軟便や下痢、破行、体重減少など非特異的です。 完全な欠乏いわゆる飢餓状態だと、2週間以内に症状が発現します〔Williams 2012〕。ビタミンCは免疫にも大きく関与し、欠乏すると白血球の走化性不全 〔Johnston et al.1991〕、胸腺の縮小 〔Majumder et al.1987〕、リンパ球の機能不全 〔Fraser et al.1980〕 が起こることで、易感染症になりやすくなります。
ビタミンCは加熱すると空気中の酸素や水分との反応が促進され、酸化されてデヒドロアスコルビン酸となり、さらに加水分解されたジケトグロン酸へ分解しやすくなります。デヒドロアスコルビン酸は人体内でアスコルビン酸に還元され利用されますが、ジケトグロン酸にはビタミンCのような生理活性はないとされています。ビタミンCが配合されているモルモット専用ペレットも高温や高湿度、長期間の保存が劣化の原因となります。具体的には専用ペレットも、約10℃以下の保管あるいは90日以内に消費しないと劣化するそうです〔O’Rorke 2004〕。また、ビタミンCのサプリメントを飲水に添加したり、経口的に毎日投与する方法もとられています。ただし、水に添加する場合は、水中で劣化したり、銅などの金属もビタミンCを劣化させるため、金属製の容器は使用を避けます。プラスチックあるいはガラス製の容器であれば、24時間経過後でも約50%の有効率が残ります〔Wagner et al.1976〕。
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