【病気】チンチラの尿結石

尿結石は名前の通りに、尿路に結石が形成し、排尿障害を起こす疾患です。尿を生成する腎臓、そして膀胱へつながる尿管、排尿する尿道で結石が発見されます。しかし、チンチラの尿結石のほとんどが膀胱または尿道に発生します。

原因

発生要因として、尿量の減少、高カルシウムの餌、飲水不足などが挙げられます。チンチラは乾燥地帯に棲息し、本来は飲水量が少なくても対応できるため、尿量が少ないことも結石が形成されやすいのかもしれません。運動不足の場合も尿中のカルシウム結晶が沈殿して結石の核になりやすくなります。チンチラで発生した尿結石の88%が炭酸カルシウムであったとの報告もあり〔Osborne et al.2009〕、文献によって見解が多少異なります。しかしながら、チンチラはウサギと異なり、摂取した餌に含まれるカルシウムの大部分を腸から排泄し、尿からの排泄は 1〜3%に過ぎないため〔Hansen 2011〕、ウサギほど高カルシウムの餌は影響しないかもしれません。

チンチラの尿結石

症状

膀胱結石が長期間膀胱に停滞すると膀胱壁が炎症を起こして充血や浮腫が見られ、膀胱炎も起こしています。結石が膀胱の出口や尿道に移動して尿道閉塞を起こすと、頻尿ならびに排尿障害、血尿を引き起こすことではじめて異常に気付きます〔Mans et al.2013〕。排尿姿勢をとり、力んでいたり、漏れるような少量の尿が滴り落ちるような状態が見られます。しかし、完全閉塞になると尿毒症になり、チンチラは食欲も排泄して、虚脱し動かなくなります。尿が出にくい時や血尿などの初期で異常に気づいて尿結石が発見されれば、初期対応で軽く済む場合もあります。つまり結石が小さければ、排尿量を増やせば、結石が排泄することもあります。

発生

尿結石はオスに好発し〔Mans et al.2013,Martel-Arquette et al.2016〕、比較的若い個体でも発生します。オスは尿道が細くて長いため、尿結石がつまりやすいことから、発見されやすいのかもしれません。一方でメスは尿道が太くて短いため、結石がつまることは少ないです。発症年齢は平均30(11〜132)カ月齢という報告があります〔Martel-Arquette et al.2016〕。

診断・検査

大部分の尿結石はX線検査で判断されますが、チンチラはX線における腎臓・膀胱陰影が不明瞭なため、超音波検査を併用して形成箇所を確認することもあります。尿あるいは結石を分析検査により、結石成分を判別します。尿毒症の確認は血液検査で行います。

チンチラの尿結石のレントゲン

治療

尿結石のほとんどは炭酸カルシウムであるため、薬剤による溶解は期待できません。しかし、小さい結石であれば水和により尿量を増やすことで排泄されることもあります。基本的には皮下補液ならびに経口での飲水が行われます。チンチラは乾燥地帯に棲息し、水分が少なくても適応できる生理機能を備えているので、大量に水を飲まなくても生活ができますが、日本での乾燥したペレット中心の生活であれば十分な飲水が必要になります。ある研究では,給水ボトルよりも皿タイプの給水器の方が飲水量が多くなると報告されています〔Hagen et al.2014〕。しかし、大きな結石は外科的に摘出するしかありません。尿道閉塞になっているようであれば緊急手術で結石を摘出する以外に方法はありません。放置すると数時間のうちに尿毒症で死んでしまいます。尿道結石はペニスにカテーテルを挿入し、水圧をかけて結石を膀胱内に押し戻してから摘出手術になります。

チンチラの尿結石手術

予防(結石再発チンチラは短命?)

興味深いことに,膀胱結石の外科的摘出後に再発した症例は予後不良になるという報告があります。膀胱結石を外科的に摘出したチンチラは10頭中5 頭の割合で再発し、再発までの期間は平均68(9〜440)日で、再発を伴うチンチラの生存期間は初診後平均391(74〜1,074)日でした。一方で、外科的摘出後に再発を伴わないチンチラの初診後の生存期間は平均2204(1914〜2535)日でした〔Martel-Arquette et al.2016〕。

尿結石の防策は以下の通りです。

  • 餌のカルシウムを減らす
  • 水を飲ませる
  • カルシウムの少ない水にする
  • 運動させる

餌のカルシウムを減らす

尿のカルシウムを減少させるには、カルシウムの少ない餌を多く与えます。牧草にはマメ科(アルファルファなど)とイネ科(チモシーなど)がありますが、カルシウムが少ないイネ科の牧草を与えて下さい。

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ペレットもチモシーが主原料となっているペレットを与えましょう。しかし、カルシウムを制限した餌のみでも、完全に結石を予防することは難しいです。与える野菜もカルシウムが少ない種類に変更し、可能であれば水分も摂らせるために葉野菜にした方が良いでしょう。

種類カルシウム
パセリ290
モロヘイヤ260
大根の葉260
ケール220
水菜210
ヨモギ180
小松菜170
春菊120
クレソン110
チンゲンサイ100
人参の葉92
タイサイ79
明日葉65
リーフレタス58
サラダ菜56
カイワレ大根54
ホウレンソウ49
白菜43
セロリ39
ブロッコリー38
サヤエンドウ35
スナップエンドウ32
人参28
キュウリ28
レタス19
表:野菜のカルシムの量(mg/可食部100g)

一概に尿結石を予防する野菜のカルシウムの量の基準は決まっていません。100mg以上の野菜は避けるべきです。Dr.ツルはレタス、キュウリ、ニンジンなどはカルシウムが少なく、水分が多いきとから勧めています。

尿結石のことを考えて、カルシウムが少ないペレットを選んであげましょう。

最も最小値カルシウム0.5%

ハイペット 恵 チンチラ 300g

水を飲ませる

毎日しっかりと十分な水を飲めば、尿量が増えて、カルシウムも体から排泄されます。しかし、無理に沢山の水を飲ませて下痢をしないように注意して下さい。

ウサギ給水ボトル

小動物専用の電解質飲料も販売されいます。粉製剤なので水に溶かしてシリンジを使って飲ませたり、給水ボトルに入れて下さい。電解質飲料になるので体の隅々まで水分がいきわたり、尿量が増加します。

電解質飲料粉!

ハイペット アクアコール 10g

カルシウムの少ない水にする

ミネラルウオーターなどはカルシウムが多く含まれている可能性が高いので、できれば避けて下さい。飲み水のカルシウムをはじめとするミネラルを除去する給水器で、カルシウムを除去してくれるカートリッジが付いています。

ジェックス ピュアクリスタル ドリンクボウル ラビット

カードリッジ2個

ついに出た!カルシウム除去給水器!尿結石になりやすいウサギに吉報です!ハイブリッドタイプで、飲み水の余分なカルシウムを除去できるの給水器が販売されました。カートリッジが付いており、カルシウムを除去してくれますが、どれくらい効果があるのかはまだ分かりません。給水器のフィルターを毎日すすがないといけませんが、それほどの手間ではありません。

飲み水のミネラルを除去してくれるスティックもあります。健康に良い水素水を作るものですが、水道水のカルキを除去し、過分なミネラル分を除去してくれます。水にスティックを入れてカルシウムが少ないお水を与えましょう。

ペット用水素発生スティック

B-blast 魔法のスティク 小動物用

運動をさせる

カルシウムの結晶は膀胱の底に沈殿しやすく、運動をすると膀胱内の結晶が舞って排泄されます。かえって白濁した尿が出ている方が安心かもしれません。肥満のモルモットは積極的に動かないので、尿結石ができやすいと言えます。

おまけ

人では結石を溶かしたり、結石を出す作用があるといわれているウラジロガシと金銭草をドライリーフのおやつにした商品です。与えているペレットや牧草に混ぜて与えて下さい。

メディマル Dr.Pureナーシングハーブ

尿結石の予防ポイント!

・主食の牧草をチモシーにする
・野菜はレタス、キュウリ、ニンジン
・低カルシウムペレットを選ぶ
・肥満を解消するために運動をさせる
・サプリメントもあり

まとめ

基本的にオスの尿結石のつまりは緊急事態ですので、適切な対応が早急に必要となります。そして再発する個体は予後不良なため、しっかりと予防対策をしましょう。

参考文献

  • Mans C,Donnelly TM.Update on diseases of chinchillas.Vet Clin North Am Exot Anim Pract16(2):383-406.2013
  • Osborne CA,Albasan H,Lulich JP et al.Quantitative analysis of 4468 uroliths retrieved from farm animals,exotic species, and wildlife submitted to the Minnesota Urolith Center:1981 to 2007.Vet Clin North Am Small Anim Pract39(1):65-78.2009
  • Hansen S.Studies on Calcium Metabolism and Tooth Development in the Chinchilla.(In German).doctoral dissertation.College of Veterinary Medicine.Hannover.2011
  • Martel-Arquette A, Mans C. Urolithiasis in chinchillas: 15 cases(2007 to 2011). J Small Anim Pract57(5):260-264.2016
  • Hagen K,Clauss M,Hatt JM.Drinking preferences in chinchillas(Chinchilla laniger),degus(Octodon degu)and guinea pigs(Cavia porcellus). J Anim Physiol Anim Nut(Berl)98(5):942-94.2014

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。