発生
幼若体のチンチラにてんかん発作を起こす個体を見かけます。発作は突然に沈鬱になり、涎を流し、呼吸も促拍になり、強直性の発作のために横臥することもあります。しかし、これらの発作の多くは5分以内でおさまり、成長とともに発生しなくなったり、例え継続して発作が発生しても、一般生活には支障をきたさず、食欲や活動性にも影響しません。重篤にはならないことから、明らかな器質的な原因や識別可能な病変を持たない特発性てんかんが考えられています〔Frankel 2009〕。チンチラの性格的にも緊張しやすい個体などが起こりやすいのかもしれません。多くは時間の経過とともに悪化するようなことはないため、脳炎を引き起こす深刻な細菌またはウイルス感染の可能性は低いと考えられます。チンチラの癇はてんかんはこれまでの文献においても逸話的にしか報告されておらず、情報は皆無に近いことが現状です〔Hollamby 2009〕。
スナネズミの遺伝性てんかん
スナネズミは遺伝的にてんかんを起こすげっ歯類で、グルタミン酸を異化する酵素であるグルタミン合成酵素の欠乏が発作の原因で、取り扱いやストレスによって引き起こされます。スナネズミでは、発作が永久的な損傷を引き起こすこともなく、治療は不要になります〔Scotti et al.1998〕。チンチラにおいても遺伝的な素因があるのかは不明ですが、騒音などの聴覚刺激が引き金になる可能性があると考えらえています。その他、多くのげっ歯類がてんかんの実験動モデルとして長年にわたって使用されていますが、 Frankel は発作が特定の感覚刺激によって引き起こされることを指摘しています〔Frankel 2009〕。
脳脊髄炎
脳や脊髄の広範囲な炎症がみられる脳脊髄炎が潜在していると、てんかん発作以外にも前庭症状や意識障害などの顕著な脳神経異常がみられ、また食欲や活動性だけが低下し、数日で突然死することもあります〔Mancinelli 2015〕。チンチラの実験感染ではリステリアを含む細菌感染がよく知られています。しかし、衛生的な飼育管理技術の向上によりリステリア症は現在、古典的な食物媒介感染症とみなされており、毛皮用の産業動物では一般的に発生していましたが、個々で飼育されているペットでの発生はまれです〔MacDonald et al.1972,Finley et al.1977)。リステリア症は、内臓および神経学的徴候に関連する急性症状を示しやすく、チンチラでは敗血症がみられ〔Gorham et al.1955〕、経過が速く急死したり〔Cavil 1967,Wilkerson et al.1997〕、一部では脳脊髄炎を起こします〔Donnelly 2003,Wilkerson et al.1997,MacKay et al.1949〕。他にも人のヘルペスウイルス1 型はチンチラにも感染はあり得ます〔Wohlsein et al.2001〕。中耳炎・内耳炎の原因菌が脳神経を介して脳や脊髄に炎症が波及する可能性もあり得ます。リンパ球性脈絡髄膜炎(Lymphocytic choriomeningitis)は、実験動物のマウスに感受性の高いウイルス性疾患ですが、チンチラにも感染する可能性はあります〔Wallach et al.1983〕。細菌やウイルス感染以外にも、アライグマ回虫(Baylisascaris procyonis)の幼虫移行症による脳寄生〔Sanford 1991〕、熱中症、ビタミンB1(チアミン)欠乏症〔Wallach et al.1983〕、低血糖症や低カルシウム血症、カリウムの異常、頭部外傷、中毒などが考えられます。しかし、脳脊髄炎になるとてんかん発作以外にも前庭症状や意識障害などの顕著な異常がみられ、また異常行動を呈したり、突然死することも珍しくはありません。
検査
血液検査やX線検査で鑑別を行い、てんかんの診断の確定診断はMRI検査が必要になります。しかし、チンチラの脳の正常像が確立されていないことや、病巣が小さいと診断がつかないなどの問題があります。
ただし、MRI検査は全身麻酔が必要となります。
治療
治療は、てんかん発作ならびに神経症状が重篤であれば、ジアゼパム、ミダゾラム、フェノバルピタールなどの抗癲癇薬を、根本的な原因に対処しながら発作の症状を緩和するために投与します。幼若体の突発性てんかんであれば投薬せずに、様子観察のみで問題ないはずです。脳神経の状態改善のために、ビタミンBの投与などが進行を予防できるかもしれません。
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参考文献
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