【病気】ヒョウモントカゲモドキの眼疾患(目つむっていない?)

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発生

飼育下のヒョウモントカゲモドキの目に関与するトラブルは一般的です。112頭のうち52頭(46%)が眼疾患を患っていたと言う報告もあり、理由は不明ですが、メスよりもオスが発生率が高く、発生年齢は加齢とは無関係のようです〔Wiggans et al.2018〕。飼い主は頻繁に目を閉じたり、目の周りに目ヤニが付いていることで気付きます。これらの問題は家庭で一般的で治療可能なものから、非常に深刻なものまで様々です。

症状・疾病

目の症状ならびに病気は以下のようです。

  • 目を細めている
  • 目を閉じている(閉瞼)
  • 目を擦る
  • 目のケイレン(眼瞼痙攣)
  • 目ヤニ(眼脂)
  • 角膜のかすみ(角膜潰瘍/角膜炎)
  • 目が白い(角膜潰瘍/角膜炎)
  • 目が赤い(角膜炎/ぶどう膜炎)
  • 目が大きい(緑内障/眼球炎)
  • 目の中の脱皮の蓄積(結膜嚢の角質堆積)
  • 目の周囲のカサブタ(脱皮不全)
  • 目の周りの膿(顔面の膿瘍)
  • 目や周囲の腫れ(眼瞼腫脹)
  • 見えていない(失明)

目を細めているだけでは気が付かないことも多いですが、閉じている時間が長くなり初めて異常と確認されます。

角膜炎角膜潰瘍を起こし、また自ら舐めることで角膜浮腫が起こり白濁します。

角膜浮腫により白濁し、穿孔することもあります。

角膜炎ぶどう膜炎が起こると、充血が見られて目が赤くなります。

ぶどう膜炎が原因で、房水が貯留して緑内障になることもあります。

目の中の脱皮の蓄積は、結膜嚢の角質の堆積が起こっているため、眼瞼が腫大して見えます。

ビタミンA欠乏症が涙腺などの眼組織に関与し、感染が起こると顔の膿瘍が発生します〔Philippe et al. 2017,Alejandro Bayón del Río 2002〕。

最終的に失明しても、ヒョウモントカゲモドキは生活ができます。コオロギなどの生き餌を捕まえるのに苦労しますが、その時は補食するのを飼い主が手伝う必要があるかもしれません。

発生要因

ヒョウモントカゲモドキは、パキスタン、インド、アフガニスタンなどの砂漠地帯に分布しており、半乾燥地帯に生息しています。しかし、生息地は夜間は涼しくなり、空気は湿った状態で、夜露や朝露が発生します。ヒョウモントカゲモドキはイモリと異なり可動性の眼瞼を持っています〔Wiggans  et al.2018〕。したがって、ヒョウモントカゲモドキの飼育では、目の周りの脱皮を促進するための適切な湿度と、そして適切な栄養のバランスがとれた餌が必要です。ヒョウモントカゲモドキの目は頭の大きさに比例して大きく〔Tony et al.2015〕、感染症や異物混入しやすいため、他の動物よりも発生しやすい理由の1つです。

ヒョウモントカゲモドキ

具体的な原因

ビタミンA欠乏症

ビタミンAは皮膚や粘膜ならびに分泌腺を維持するのに役立ち、 爬虫類において欠乏すると皮膚や粘膜が乾燥して角質化を起こし(扁平化生)、ハーダー腺や唾液腺の変性、鼻腔、肺、腸管、中耳などに感染を引き起こしやすくします〔Boyer 2006〕。ヒョウモントカゲモドキの餌はビタミンAが少ないコオロギやワームであるため、そして餌のカロチンからビタミンAに転換できるかが不明であることも発生要因にあげられています。ビタミンA欠乏症のヒョウモントカゲモドキは、眼瞼の内側に固形物の細胞片(角質)や塊が蓄積したり、角膜潰瘍や角膜炎、または眼周囲の分泌腺の膿瘍を発生させやすくなります。初期の場合はビタミンAが含まれている餌や総合ビタミン剤を与えて予防します。総合ビタミン剤にはβカロチンでなく、ビタミンAが配合している製品が無難です。

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カロチンがビタミンAに転換できない理由
近年、爬虫類のビタミンA欠乏症において、体内に存在するビタミンA及びβカロチンの吸収・代謝の中心的な役割を演ずるβカロチン中央開裂酵素(β-carotene 15,15′-monooxygenase:BCMO)が注目され、研究が進んで色々なことが解明されてきました。肉食や雑食性の爬虫類の方がビタミンA欠乏症を発症しやすく、草食性の爬虫類は発症しにくいそうです〔Mans et al.204〕。その理由は、肉食や雑食性の爬虫類ではBCMOが発現せず、草食性の爬虫類ではBCMOにより植物のβカロチンからビタミンAを転換しているという考えからきています。しかし、BCMOは各爬虫類に存在するのか、ビタミンAにどの程度転換されるのかなどは現在研究されている段階です。βカロチンの餌を与えたヒョウモントカゲモドキでは十分にビタミンAに転換できるという結果も報告はされていますが〔Cojean et al.2018〕、詳細は不明です。

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脱皮不全

脱皮不全のヒョウモントカゲモドキは、目に問題がある可能性が高いです〔Wiggans et al.2018〕。眼の周りならびに眼瞼の古い皮は、結膜や角膜に影響しますが、眼瞼の内側(裏地)にある結膜嚢に角質が蓄積することがあります〔Reavill et al.2012〕。これが継続的に発生すると、角質のさらなる増殖が起こりプラグ(栓子)が形成され、眼球の圧迫を起こしたり、角膜がプラグと融合し、永久的な眼の損傷を引き起こす可能性があります。初期の場合は、綿棒などを使用して古い脱皮をはがしたり、目のプラグを除去します。眼瞼の皮を剥がす時は、眼瞼の裏地も剥がれていることを確認しないと、結膜嚢にのプラグの原因になります。密閉されたシェルターに湿ったバーミキュライトやミズゴケを入れて、湿気のある隠れ場所を提供したり、温浴をさせて脱皮を促進させます〔Reavill et al.2012〕。

ヒョウモントカゲモドキの脱皮不全

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目の異物混入

床材などの砂などの粉塵や小さい粒子が目に混入して、結膜炎角膜潰瘍角膜炎を引き起こします。これらの異物は生理食塩水または他の洗眼剤で目から洗い流す必要があります。ペーパータオルなどの粉塵が少ない床材であると目のトラブルは少ないです〔Wiggans et al.2018〕。

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感染症

細菌や真菌、ウイルスの感染症は、角膜潰瘍や異物混入が原因で二次的に感染を起こします。シュードモナスなどの細菌感染で炎症が起こることで、緑内障眼球炎が起こります〔Philippe et al. 2017〕。真菌感染の報告もあります〔Christian et al.2019〕。

外傷

自分自身による引っかき傷、同居個体からの咬傷、ケージ内の枝やシェルターなどで目を傷を付けることがあります。これら損傷から二次的に感染を引き起こします。

ヒョウモントカゲモドキの飼育

遺伝性素因

近親交配の結果として小眼球症単眼症無眼球症など、遺伝的異常による先天性眼異常があります。先天性の眼瞼変形や癒着のヒョウモントカゲモドキも発見されており、潰瘍や感染症を二次的に引き起こす可能性があります〔Franck 2015〕。アルビノ種では、明るい光に敏感になり、目を細めることが多いかもしれません。

舌で目を舐める行動

ヒョウモントカゲモドキは舌で自らの目を舐めることができ、これは体表についた水分を摂取する目的とも言われています。眼疾患があると、それを舐めることで症状を悪化させることがあります。また、治療のための点眼薬を舐めとってしまいます。

予防

目の問題を防ぐ方法として以下の策を考えて下さい。ケージ内を一貫して清潔で安定した環境を提供します。 温度、湿度など、テラリウムの最適な状態を維持します。水と床材も清潔に保ちます。特に床材に素材についても慎重に選択して下さい。砕いたクルミの殻、砂利、木片などの特定の種類の素材は、目に影響しますので避けるべきです。レイアウトの流木やシェルターも、目を突いたり引っかいたりする可能性のある鋭いエッジやポイントがないことを確認して下さい。脱皮不全が起こらないように、湿度を保つ環境作りもして下さい。餌もカルシウムはもちろんビタミンA(βカロチンでないもの)が不足しないように考えて、総合ビタミン・ミネラル剤を与えましょう。ただし、目の病気だけでなく、他の理由で目のトラブルを起こしているかもしれません。内臓疾患や呼吸器感染症などにより深刻な問題があると、目の治療だけでは問題が解決しない場合があります。

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参考文献

  • Alejandro Bayón del Río.Reptiles Ophthalmology.WSAVA 2002 Congress
  • Boyer T,Scott P.Nutrition, nutritional diseases, nutritional therapy.In Mader’s Reptile and Amphibian Medicine & Surgery.3rd ed.Diver SJ,Stahl SJ,eds.Elsevier Saunders.St.Louis.MO.2019
  • gChristian M et al.Acremonium and trichosporon fungal keratoconjunctivitis in a Leopard Gecko (Eublepharis macularius).Veterinary Ophthalmology22.6:928-932.2019
  • gCojean O,Lair S,et al.Evaluation of β-carotene assimilation in leopard geckos(Eublepharis macularius).J Anim Physiol Anim Nutr (Berl)102(5):1411-1418.2018
  • Franck R.Congenital ankyloblepharon in a leopard gecko (E ublepharis macularius).Veterinary ophthalmology 18:71-73.2015
  • Mans C,Braun J.Update on common nutritional disorders of captive reptiles.Vet Clin North Am Exot Anim Pract 17:369-395.2014
  • Philippe DV et al.The leopard gecko manual: expert advice for keeping and caring for a healthy leopard gecko. i5 Publishing LLC.2017
  • Reavill D,Schmidt RE.Pathology of the reptile eye and ocular adnexa.19th Annu Conf Assoc Reptilian Amphib Vet.Proceedings.87-97.2012
  • Tony G et al.Into The Light:Diurnality Has Evolved Multiple Times In Geckos. Biological Journal Of The Linnean Society, vol 115(4).p896-910.Oxford University Press (OUP).2015
  • Wiggans KT,Guzman DSM,Reilly CM  et al.Diagnosis,treatment,and outcome of and risk factors for ophthalmic disease in leopard geckos (Eublepharis macularius) at a veterinary teaching hospital:52cases(1985-2013).J Am Vet Med Assoc1.252(3):316-323.2018
  • Ophélie Cojean,Stéphane Lair,Claire Vergneau-Grosset.Evaluation of β-carotene assimilation in leopard geckos (Eublepharis macularius).J Anim Physiol Anim Nutr (Berl)102(5):1411-1418.2018

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。