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卵と病気
発情したメスのトカゲでは多数の卵胞の発育や卵の形成によって、腹部膨満や食欲不振などがみられ、一見病気と間違えやすく、さらに卵巣や卵管の病気(卵巣・卵管疾患)もよく起こります。さらに卵が上手く埋めずに、卵管で停滞することを卵塞(卵の閉塞、卵管閉塞)と呼ばれ、これら全ての産科のトラブルを卵関連疾患と言います。
抱卵期の症状と行動
メスは無精卵を持つことならびに卵関連疾患は、それぞれのトカゲの繁殖期に起こります。
種類 | 繁殖期 |
ヒョウモントカゲ | 飼育下 周年繁殖 |
フトアゴヒゲトカゲ | 季節繁殖(9~翌3月の春~夏) 飼育下 周年繁殖 |
グリーンイグアナ | 季節繁殖(発情期 12月-翌1月/産卵 交配後の1-3月後) |
メスのイグアナはオスの有無に関わらず年に1回産卵し、産卵数は70個にも及びます〔Rodda 2003〕。そのため、トカゲの中でも最も卵関連疾患が起こりやすいのです。発情期は卵胞が発育する卵胞期と卵が形成される卵形成期に分けられます。この時期に特有の行動と症状が見られます。
- 徘徊して地面を掘る
- 腹部膨満
- 食欲不振
- 呼吸促拍
- 後肢の麻痺
徘徊して地面を掘る
産卵に適した環境を求めて非常に広い範囲を移動し、産卵適所を見つけると地面に深い穴を掘ります。
腹部膨満・食欲不振・呼吸促拍・後肢の麻痺
多数の成熟卵胞や卵は腹腔の大半を占めるので、腹部が張れてきます(腹部膨満)。
腹部膨満のために、食欲不振、呼吸促迫、後ろ足の麻痺などが見られますが、健常なトカゲには治療は不要で、産卵後に症状が回復します。
イグアナは産卵前に食欲が低下し、飲水だけを行いますので、病気と間違いやすいです。しかし、イグアナの健康状態が悪いと衰弱して死亡することもあり、外見的な症状だけで異常と判断することは容易ではないので、動物病院で検査を受けましょう。
抱卵期の対応
産卵させるには、産卵させる環境、栄養、温度と湿度、光がポイントになります。
- 産卵環境
- 栄養
- 温度と湿度
- 光
- 異性
産卵環境
適切な産卵場所を設けないことが難産を招くと言われており、卵を持ったトカゲに徘徊できる広い産卵ケージや産卵床を用意して下さい。ヒョウモントカゲやフトアゴヒゲトカゲは体が入る程度の容器の産卵床を用意して下さい。容器に、軽く湿らせた土を敷いたものを用意します。産卵床に使う床敷は、バーミキュライト、黒土、水ゴケなどが使われます。容器に出入口の穴と通気孔をあけた蓋をし、ヒョウモントカゲが自由に出入りできるようにして下さい。容器の内部は保温し、適度な湿度があった方がよいので、産卵床の下にフィルムヒーターなどを敷き、定期的にスプレーなどで水を撒きます。イグアナには固い側壁と天井のついた構造の巣(産卵床)を提供し〔Barten 1993〕、巣穴を掘りやすい水で湿らせた床敷を入れて下さい〔Schumacher et al.2003〕 。
栄養
体脂肪の蓄積も生殖活動に必要で、十分なエネルギーの蓄積がなければ卵巣の活動は低下し、繁殖活動に影響します。
温度と湿度
イグアナは外気温動物で、保温と加湿をすることが基本です。体調を崩さないよう管理して下さい。
光
光は内分泌に大きく影響します。光行性の爬虫類なので昼は明るく、夜は暗くして、明暗をしっかりつけて飼育します。
異性
発情したら、オスとの接触した方が自然ですが、現実的に繁殖を試みないが多く、1頭で飼育している場合は接触できません。
繁殖期の卵巣・卵管
メスは左右一対の卵巣と卵管からなり、繁殖周期によって、外貌が劇的に変化します。
(排卵前)卵胞期
卵巣に多数の小型の卵胞が発育して、次第に卵胞が発達します。
卵巣は複数の黄身を含んだ大きな卵胞になり、卵巣の表面を覆い、ブドウの房のようになります。
(排卵後)卵形成期
成熟卵胞は卵管に排卵されて、卵殻が形成されます。
卵胞吸収
発達した卵胞は閉鎖して吸収されることもあります。卵胞は排卵する前の過程で発達を止めて、不完全な卵胞を排除し、卵胞の数の調節とも言われています〔Rodda 2003〕。卵巣の成熟卵胞が完全に吸収されることがあります。
どれくらい待って産卵しないとやばいのか?
Rodda(2003)の交配後2ヵ月以上を要して産卵するという報告、Schumacherら(2003)の受精から卵を持つまで40~70日であるという報告から、約2ヵ月とが一つの基準と考えてよいでしょう。2~3ヵ月以上産卵しない場合は、病気かしれないので、検査を受けるべきです。また、卵を持つと食欲不振などが見られますが、ぐったりするなどの症状がある場合は急いで検査して下さい。
卵巣・卵管疾患
抱卵期の症状以外にも、腹痛(じっとして腹を地面につける姿勢)、活動性の低下、痩せる、後ろ足のむくみ(浮腫)が見られたら、何か卵巣や卵管に病気が発生している可能性が高いです。
卵胞うっ滞
成熟卵胞のまま排卵しない状態を卵胞うっ滞と呼ばれることもあり、ペットの爬虫類では一般的に発生します〔Backuws et al.1994,Sykes 2010〕。卵巣の活動が低下し、卵胞が十分に発育せずに卵管に排卵しない、あるいは卵胞が吸収もできない状態になっています。排卵あるいは吸収するかの過程を要観察しますが、現状がそれくらいの期間続くと異常なのか、生体の体力がもつぼかということが懸念されます。
また、卵巣炎や卵巣腫瘍のために卵胞が変性して排卵できなくなります。生理的な卵巣の閉鎖や萎縮も卵巣組織に対して炎症や変性を起こし〔Knotek 2014,Hadley 2010〕、卵巣炎が卵巣腫瘍の発生要因に大きく関与します〔Schildger et al.2003,Knotek et al.2016〕。卵巣炎では肉芽腫性卵巣炎と診断されることが多く、腫瘍との鑑別ために病理組織学的検査が必要となります。卵巣炎は変性卵胞が卵巣に残る以外にも単に感染が原因になるとも考えられます。原因菌として真菌やマイコバクテリア菌〔Soldati et al.2004,Mitchell 2012〕、サルモネラ菌〔Le Souef et al.2015〕などが分離されます。
卵閉塞
卵が産卵をせずに卵管内で停滞を起こすことがあります。卵管の蠕動低下が原因ですが、卵管炎や変性卵のために排卵できない、あるいは蠕動に関与するカルシウム欠乏(低カルシウム血症)も関与します。落ち着きがなくなり、力んでいるのに産卵できないような状態は、緊急性の高い状態で〔Hedley 2016〕、難産と呼ばれることもあります。原因は閉塞性または非閉塞性に分類されています。閉塞性は通常、卵管炎や変性卵などの卵の異常、卵管捻転または腫瘍などによって引き起こされます。非閉塞性は、飼育環境の不備、ストレス、または基礎疾患に関連し、初産のメスに最もよく見られます。特に卵停滞や卵閉塞は、ヤモリにおいて頻繁に起こりやすいです〔Hochleithner et al.2014〕。
卵黄性腹膜炎
卵胞が破裂したり、卵墜が起こって卵黄成分が腹腔に漏出して腹膜炎を起こすことがあり、大量に卵黄および液体が貯留すると腹水(卵黄性腹水)として発見されます〔Rivera 2008,Cruz Cardona et al.2011〕。肉芽腫性卵巣炎では変性卵胞が形成されやすく、特に卵胞が破裂しやすくなります。腹膜炎だけでなく、卵黄は胃腸や肝臓に癒着を起こすと腹痛を示します〔Stacy et al.2004〕。
卵巣腫瘍
グリーンイグアナでは卵巣における乳頭状嚢胞腺癌や顆粒膜細胞腫の報告もありますが、両症例とも変性卵胞を伴う卵巣炎も併発していました〔Cruzc ardona et al.2011,Stacy et al.2004〕。なお、卵巣腫瘍はホルモンのアンバランスが発生要因になっている可能性もあります 〔Bowles 2002,Bowles 2006,Hadley 2010〕。
検査
一般的にX線検査や超音波検査を行いますが、精密検査としてCT検査をすると詳細が解明されます。全身状態の評価は血液検査になり、貧血や肝不全や腎不全、カルシウムの値などを確認します。
治療
卵巣炎や卵巣腫瘍などの疑いが強い場合、あるいは長期の卵胞うっ滞で予防的な処置目的で 卵巣卵管摘出手術が行われます〔Gibbons et al.2009,Funk 2002〕。
まとめ
メスは1頭で飼育しても毎年、無精卵を産みますので、年末の繁殖期はドキドキですね。卵ができずに卵胞が吸収して無くなることもあるなんて不思議ですね。適切な環境作りがポイントですが、卵がどうなっているか、病気になっていないか心配ならば、動物病院で健診を受けましょう。
参考論文
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