トカゲの膀胱結石〔Ver.2〕

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イグアナに多い?

トカゲで膀胱結石が好発する種類は、理由は不明ですがイグアナとチャクワラです。

原因は?

膀胱結石は主に尿酸塩の結石になりますが、カルシウムが尿酸と結合した結石の報告もあります〔McKown 1998,Lightfoot 1999〕。尿酸結石は高蛋白のエサ(イグアナ用ペレットなど)、飲水の不足、乾燥した環境も発生要因になり、運動不足で膀胱内で尿酸が沈殿することで結石ができやすくもなります。カルシウム結石はカルシウムのサプリメントの与えすぎが原因です。他にも膀胱炎や遺伝的な理由なども結石を作りやすくします。

症状は?

腎臓で生成された尿は尿管を介して直接腎臓に運ばれずに、総排泄腔に流出し、そこから膀胱へ移動します。したがって小さな膀胱結石は無症状ですが〔Carpenter 2008,Frye 1991〕、結石が大きくなって初めて症状が発現し、診断されることも珍しくはありません。また、検診や膀胱結石とは関係のない問題のX線検査で偶発的に膀胱結石が発見されることも多いです。膀胱結石は、数ヵ月または数年を要して形成された可能性があります〔Rijberk et al.2009,Carpenter 2008〕。巨大な膀胱結石は、骨盤腔内で直腸を圧迫して便秘や起こしやすくします。結石が移動して膀胱から総排泄腔に移動すると骨盤腔に詰まり、排便だけでなく排尿障害も見られ、強い力みが起こります(総排泄腔結石)。便秘や排尿障害が起こることで、食欲不振や活動性の低下なども見られます〔Frye 1991,Junghanns et al.2011〕。トカゲでは下腹部を触診すると、大きな結石であれば容易に分かります〔Plunkett 2007,Rijberk et al.2009,McArthur et al.2004〕。力みにより結石が自然に排泄することもあります〔Mader et al.2002,Lightfoot 1999〕。

検査は?

膀胱結石はX線検査で診断されます〔Rijberk et al.2009,McArthur et al.2004,Meredith et al.2002〕。 ただし、尿酸の成分が多い結石はX線で透過気味になり、写り難いのが特徴です。

一方カルシウムが多いとX線不透過性になり、明瞭に確認できます。爬虫類の結石は、哺乳類の結石と比べると脆く、特に尿酸による結石は層状に形成され、指で破砕できるような固さのこともあります。爬虫類の結石は、X線やCT検査において同心円状の層を持つ放射線不透過性の構造物として確認されることが多く、崩れることもあります。

尿酸結石はX線では明確にうつらないため、詳細はCT検査を行います。

治療

小さな尿酸結石であれば柔らかいことが多く、大量に水を飲ませて尿量を増やすことで、溶けたり崩れたりすることもあります。しかし、大きな結石の場合は外科的対応しかありません〔Meredith et al.2002,Mader 2006,Frye 1991〕。なお、総排泄腔に移動した結石は、総排泄孔から結石が確認できますので、孔から結石を破砕して取り出すことができます。

予防

尿酸結石は高蛋白の餌(ペレットなど)、ビタミンAやD欠乏症膀胱炎(尿路感染)、カルシウムやシュウ酸塩の過剰摂取などが発生要因になりで、飲水不足や乾燥環境による脱水によって膀胱や結腸からの水分吸収が増加し、運動不足によって膀胱内で尿酸などの老廃物が沈殿することで結石が形成されやすくなります〔Kwantes 1992,Mader et al.2002,Meredith et al.2002,Keller et al.2015〕。結石形成の原因に関しては様々な仮説があるままで、完全には解明されていません〔Keller et al.2015,Mader 2005〕。したがって、飲水量を増やす環境整備を行います。温浴の頻度を増やすことはもちろんのこと、水分摂取を目的とてキュウリやレタスなどを多く与えるのも一方法です。尿酸が膀胱内で沈殿しないように、毎日しっかり歩かせて運動させましょう。カルシウムのサプリメントも大量に与えないで下さい。

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参考文献
■Carpenter JW.Exotics Animal Formulary 5th ed.WB Saunder Co.New York.2008
■Frye FL.Reptiles Care,an Atlas of Diseases and Treatment Vol.I.TFH Publication Inc.New Jersey.1991
■Junghanns MEK,Pees M,Reese S,Tully T.Diagnostic Imaging of Exotic Pets;Birds,Small Mammals,Reptiles.(Hanover (Germany):Schlutersche Verlagsgesellschaft Co.2011
■Kwantes LJ.Surgical correction of cystic urolithiasisin an iguana.Can Vet J33:752-753.1992
■Keller KA.Hawkins MG,Weber EP.3rd.Ruby AL,Guzman DS,Westropp JL.Diagnosis and treatment of urolithiasis in client-owned chelonians:40cases(1987–2012).J Am Vet Med Assoc247:650–658.2015
■Lightfoot T.Bladder necrosis secondary to cysticcalculus in a green iguana.Exotic DVM1:29-33.1999
■Mader D.Calculi:urinary.In Reptile Medicine and Surgery 2nd ed.Mader DR ed.Elsevier.St. Louis:p763–771.2015
■Mader D,Ling GV,Ruby AL.Cystic calculi in theCalifornia desert tortoise: evaluation of 100 cases.Proc 6th Int Symp Pathol Reptiles Amphibians.St.Paul.MN:p177-178.2002
■Meredith A,Redrobe S .BSAVA Manual of Exotic Pets 4th ed.Glocester:p122.2002
■McKown RD.A cystic calculus from a wild western spiny softshell turtle (Apalone [Trionyx] spiniferus hartwegi).J Zoo Wildl Med29:347.1998
■McArthur S,Roger Wilkinson R,Meyer J.Medicine and Surgery of Tortoises and Turtles. Blackwell Publishing.Oxford.2004
■Plunkett SJ.Emergency Procedures for the Small Animal Veterinarian 2nd ed.WB Saunders.London.2007
■Rijberk A,van Sluijs SJ .Medical History and Physical Examination in Co 2nd ed.Saunders Elsevier Edinburgh.NY.2009
■Reavill DR.Urinary Tract Diseases of Reptiles.Journal of Exotic Pet Medicine 19(4):280-289.2010

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。