【解剖】カメの嘴(歯が無い理由)

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嘴の理由

カメは歯の代わりに口に嘴を持っています。上顎骨と下顎骨を角質層の鞘で覆われ〔Gaffney 1979; Pritchard and Mortimer 1999〕、この硬い嘴を備えた顎を用いて、餌を剪断したり、引き裂き、咀嚼します〔Schwenk 2000〕。なお、カメは餌を飲み込むために舌を用います〔Moldowan et al.2016〕。カメはの祖先であるプロガノケリス(Proganochelys) 〔中生代三畳紀後期の約2億1000万年前に生息し、現在は絶滅しています〕には歯が生えていたと言われていますが、歯は次第に退化し、鳥類のように嘴に置き換えられたと考えられています〔Davit-Beal et al.2009,Lautenschlager et al.2013〕。鳥の祖先である始祖鳥(Archaeopteryx)〔中生代ジュラ紀後期の約1億5000万万年前に生息し、現在は絶滅しています)は歯が生えていましたが、嘴の獲得の理由は、体重の軽量化、飛行に翼(前肢)が関与するため口内での食物の検索の簡略化、孵化までの短縮などと考えられています。しかし、カメの歯が喪失した理由は不明です。甲羅で覆われた体は保護には有利ですが、器用に前肢を使っての採食はできないために、歯が欠如し、引き裂いて餌を食べたり、水中で吸い込むように食べることに特化したのかもしれません。カメの嘴は過長したり、あるいは破損することがあります。欠けても時間とともに再生されるようになっていますが、根本の法で欠けると再生しないこともあります。

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嘴の動き

角質の嘴は咬耗することで整形されますが〔Wyld et al.1983,Homberger et al.1986〕、ある程度は上顎骨や下顎骨の形状に沿った形をしています〔Schwenk 2000,Gerlach 2001〕。口が閉じている時は、下嘴は上嘴の内面に隣接して位置し、 下顎は上顎内に収まり、口がハサミのような動きで開閉します〔Schwenk 2000〕。

嘴の形

摂食習慣に関連したカメの種類によって、嘴の形状は異なります。植物を食べるリクガメの嘴は斧のような直線状あるいはわずかに凹んだ形状をしており〔Lilywhite 2008〕、一部の種類ではかみ砕くために鋸状にギザギザになっていたり〔クーター属のカメ(Pseudemys spp.)に多い 〕、かみ砕くために厚くなっていることもあります〔Joyce 2007〕。

攻撃的で肉食性のカミツキガメやワニガメは嘴の先端が尖っています〔Moldowan et al.2016〕。

卵歯

カメには歯は生えていませんが、代わりにクチバシが生えています。しかし生まれる前のカメには普通の歯とは異なる卵歯というのが生えています。鼻の下にナイフのような突起状の角質で、卵から生まれる時に、卵殻をこの卵歯で割るのが目的で、卵から生まれて数日立つと、卵歯は取れてなくなります。しかし、卵歯はトカゲやヘビにも見られますが、上顎骨に関係した骨からできています〔Hermyt et al.2020〕。

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参考文献

  • Davit-Beal T,Tucker AS,Sire JY.Loss of teeth and enamel in tetrapods: Fossil record, genetic data and morphological adaptations.Journal of Anatomy214:477-501.2009
  • Gaffney ES.Comparative cranial morphology of recent and fossil turtles.Bull Am Mus Nat Hist164:65–73.1979
  • Gerlach J.Tortoise phylogeny and the ‘Geochelone’ problem.Phelsuma9:1-24.2001
  • Homberger DG,Brush AH.Functional-morphological and biochemical correlations of the keratinized structures in the African Grey Parrot, Psittacus erithacus (Aves).Zoomorphology106:103-114.1986
  • Hermyt M,Metscher B,Rupik W.Do all geckos hatch in the same way? Histological and 3D studies of egg tooth morphogenesis in the geckos Eublepharis macularius Blyth 1854 and Lepidodactylus lugubris Duméril & Bibron 1836.J Morphol281(10).1313-1327.2020
  • Joyce WG.Phylogenetic relationships of Mesozoic turtles.Bull Peabody Mus Nat Hist48:3-102.2007
  • Lautenschlager S,Witmer LM,Altangerel P,Rayfield EJ.Edentulism,beaks,and biomechanical innovations in the evolution of theropod dinosaurs.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America110:20657-20662.2013
  • Lilywhite HB.Dictionary of herpetology.Krieger Publication Company,Malaba.2008
  • Moldowan P,Litzgus JD,Brooks RJ.Turtles with teeth:Beak morphology of testudines with a focus on the tomiodonts of painted turtles (Chrysemys spp.).Zoomorphology135:121-135.2016
  • Pritchard PCH,Mortimer JA.Taxonomy,external morphology,and species identification.In Research and management techniques for the conservation of sea turtles4.Eckert KL,Bjorndal KA,AbreuGrobois FA,Donnelly M eds.IUCN/SSC.Marine Turtle Specialist Group Publication:p21-23.1999
  • Schwenk K.An introduction to tetrapod feeding.In Feeding: form, function and evolution in tetrapod vertebrates.Schwenk K ed.Academic Press.San Diego:p21-61.2000
  • Wyld JA,Brush AH.Keratin diversity in the reptilian epidermis.J Exp Zool 225:387–396.1983

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。