目次 [表表示]
鼻水が出ている
陸ガメが呼吸器の感染を起こすと、鼻からの分泌物(鼻水)、呼吸の異常、食欲や活動性の低下が見られます。ただし、鼻からの分泌物は鼻汁ではなく、嘔吐(胃からの逆流)を区別しなければなりません。胃の逆流は、消化管内異物などで起こりやすいです。緑から茶色の唾液が鼻から出てくるので、鼻汁と間違いやすいです。そして爬虫類はもともと呼吸数が少ないので、呼吸の異常は分かりにくいのも特徴です。
呼吸器感染症
呼吸器の感染症は上部気道炎と下部気道炎に分けられますが、上部気道は鼻腔を始めとする口に近い部分を挿し、下部気道は気管や肺などの奥の部分を指します。鼻炎である上部気道炎と肺炎である下部気道炎の鑑別も、見た目での判断は難しいです。カメの呼吸器も1本の気管、二股に分かれた気管支、2つの肺があります。
原因
呼吸器の異常の原因は非感染性と感染性に分けられます。それぞれ単独の原因というより、複合して発生することが多いかもしれません。
非感染
非感染では、脱皮不全、異物、ビタミンA欠乏症〔Jacobson et al.1991〕、アンモニア臭などが鼻炎や肺炎の発生要因となります。
- 脱皮不全
- 異物
- ビタミンA欠乏
- アンモニア臭
鼻の穴の周辺の脱皮した鱗や皮膚が鼻腔を塞いだり、床材や粉塵などの異物も鼻に入りこむこともあります。ビタミンA欠乏症が起こると、鼻腔や肺の粘膜が変性して感染を起こしやすくなります。掃除を怠ると排泄物のアンモニアが呼吸器に刺激を与えます。また、横隔膜で胸部と腹部を明確に分けられていない爬虫類では、腹膜炎あるいは腹水が肺に影響をして、呼吸の異常が起こります。消化管うっ滞や便秘によって拡張した消化管が肺の動きを抑えたり、メスだと卵黄が破裂して腹膜炎を起こし(卵黄性腹膜炎)、炎症が肺にまで及ぶ事例が多いです。
感染
感染は、細菌、真菌、ウイルスなどが原因で、稀にWCでは寄生虫感染もあり得ます。やはり感染は爬虫類の免疫低下が引き金で発症します。
- 細菌
- マイコプラズマ
- 真菌
- ウイルス
- 寄生虫
カメの鼻炎と肺炎の原因は、細菌とマイコプラズマが多いです。特に陸ガメではマイコプラズマ感染症が問題となり、Mycoplasma agassizii が主な原因と言われています〔Jacobson etal.2014〕。真菌は環境中に存在しているものが多く、免疫低下した際に発症する皮膚や甲羅に感染しますが、全身性感染ならびに鼻炎・肺炎まで引き起こします〔Murray 1996〕。また、カメは長くて折れたたみこまれた気管のために、肺が閉鎖的になりやすく、真菌性肺炎になりやすい解剖学的な特徴があります。カメのウイルス性肺炎は、ヘルペスウイルスとラナウイルスが原因となることが多く、結膜炎や鼻炎などの上部気道炎に加えて、気管や口腔内に黄色の化膿巣ができて肺炎を併発します。他にも神経症状、肝炎や腸炎も引き起こします。ヘルペスウイルスは地中海沿岸に生息するギリシャリクガメやヘルマンリクガメ、ヨツユビリクガメなどでの感染で無症状のキャリアになりやすいことが問題とされ〔Origgi et al.2004〕、通常は口内炎くらいしか起こらないです〔Marschang et al.1997,Origgi et al.2004〕。ヘルペスウイルスは他の種類のカメへも感染することが知られ、ウイルスの種類の多様化も進んでいます。分類上ではそのウイルス名が混乱しており、Chelonivirus(カメウイルス)という新たな分類名も提案されています〔Bicknese et al.2010〕。ラナウイルス(イリドウイルス)はカエルに大量死をもたらすウイルスとして有名ですが〔Anonymous2008〕、カメにも肺炎と口内炎などを起こし、全身に蔓延して死亡することもあります〔Johnson et al.2008〕。カメのウイルス性肺炎では、マイコプラズマとの重複感染によって、症状がひどくなることもあります〔Johnson et al.2008〕。陸ガメでは寄生虫である核内コクシジウムが全身に蔓延し、その結果肺炎も引き起こして死亡することも少なくはないです〔Garner et al.2006,五箇ら 2009-2010〕。
症状
カメの呼吸器症状は、苦しくなるために空気を吸おうとして首と前肢の小刻みに出し入れする動作が頻繁に見られます。陸ガメでは鼻水が見られ、鼻ボコちょうちんができることもあります。陸ガメの鼻水は、透明だと非感染性が疑え、感染が重篤になると黄色や緑色の膿性に変化し、湿った鼻の呼吸音が「ピーピー」と聴取されきます。いずれのカメも症状が進行すると深い呼吸をして、開口や閉眼が見られ、活動性も低下します。この段階だと食欲もほぼ廃絶しています。、結膜炎や中耳炎が併発することもあります。
検査
肺炎はX線検査で診断しますが、爬虫類ではX線で明確な肺炎を診断できるケースは少なく、重症になって初めて診断できます。下のX線像はX線透過性に見える肺に、不透過性が亢進しているため肺炎が疑えます。
下のX線像では向かって左側にはX線透過性の肺があり、含気していますが、右側には含気した肺は確認しておらず、無気肺の可能性があります。
CT検査では鼻炎や肺炎の早期診断が可能でで、有用な検査と言えます。
治療
鼻汁から細菌や真菌を検査し、抗生物質や抗真菌剤を投与します。ウイルスの検査は難しく、例え診断されても特効薬はありません。
参考文献
- Anonymous:Aquatic Animal Health Code.Office International des Epizooties.11.2008
- Bicknese EJ,Childress AL,Wellehan JFX.Jr.A novel herpesvirus of the proposed genus Chelonivirus from an asymptomatic Bowsprit tortoise (Chersina angulata).Journal of Zoo and Wildlife Medicine41(2):353-358 ref.44.2010
- Garner MM,Gardiner CH,Wellehan JFX,Johnson AJ,McNamar a T,Linn M,Terrell SP,Childress A.Jacobson ER.Intranuclear coccidiosis in tortoises:nine cases.Vet.Pathol43:311-320.2006
- Jacobson ER,Gaskin JM,Brown MB,Harris RK,Gardiner CH,LaPointe JL,Adams HP,Reggiardo C.Chronic upper respiratory tract disease of free-ranging desert tortoises (Xerobates agassizii).J Wildlife Ds27(3):296-316.1991
- Jacobson ER et al.Mycoplasmosis and upper respiratory tract disease of tortoises: a review and update.Vet J.201(3):257-264.2014
- Johnson A,Pessier A,Wellehan J,Childress A,Norton T,Stedman N,Bloom D,Belzer W,Titus V,Wagner R,Brooks J,Spratt J,Jacobson E. Ranavirus infection of free-ranging and captive box turtles and tortoises in the US.J Wildl Dis44(4):851-863.2008
- Marschang RE,Gravendyck M,Kaleta EF.Herpesviruses in tortoises:investigations into virus isolation and the treatment of viral stomatitis in Testudo hermanni and T.graeca..Zentralbl VeterinarmedB44(7):385-94.1997
- Murray MJ.Pneumonia and normal respiratory function.In Reptile Medicine and Surgery.Saunders.Mader DR ed.hiladelphia.PA:396–405.1996
- Origgi FC,Romero CH,Bloom DC,Klein PA,Gaskin JM,Tucker SJ,Jacobson ER.Experimental transmission of a herpesvirus in Greek tortoises (Testudo graeca).Vet Pathol41(1):50-61.2004
- 五箇公一,宇根有美.侵入種生態リスクの評価手法と対策に関する研究(2)随伴侵入生物の生態影響に関する研究.F-3-103-127.環境問題対応型研究領域.生態系保全と再生(第4分科会).環境研究総合推進費.環境省.2009-2010