【病気】水ガメのエロモナス感染症

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エロい細菌?

エロモナス(Aeromonas)属の細菌は、川や湖沼などの水のある場所の常在菌で、古くから魚類、爬虫類、両生類などの外気温動物(変温動物)に様々な類の感染症を引き起こすことで有名です〔Austin et al.1987,Heywood 1968〕。主に淡水環境に多く生息するため、鯉、鰻、ニジマスなどの養殖魚あるいは観賞魚などの水産業において問題となります。本菌と同定 されるものの中には菌種によって生物学的性状の相違があるものが含まれており、さらに多数の血清学的菌型にも分類され、病原性の変化や寄生魚種の感受性の違いについては報告が少ないです。

魚やカエルの感染症

エロモナス感染症の魚や両生類に共通する症状として体表の出血や赤斑があります。さらにエロモナス菌以外の細菌感染を含めて物理的に刺激を受けやすい部を強調して、カエルのRed legs disease(レッドレックス病/赤肢病)、ニジマスのRed mouth disease(レッドマウス病)、ウナギの鰭赤病およびRed diseaseのように感染症の呼称がよく 使われてい ます。こ れら体表の病変のみならず、臓器、特に肝臓、腎臓 、胃腸にも蔓延し、鯉や金魚では腹水症を呈します。A.hydrophila (エロモナス・ハイドロフィラ)は鞭毛を持つ運動性エロモナスと呼ばれ、水温25~30℃の高中水温を好んで増殖し、金魚に皮下出血性の赤斑を生じる赤斑病、鱗が逆立って松かさ状になる立鱗(松かさ)病の発症に関与します。A.sobrai(エロモナス・ソブリア)は、鞭毛を持たず、20℃以下の比較的低い水温で増殖し(好冷性)、魚の鱗が剥がれ落ち、真皮や筋肉が露出するようになる穴あき病の原因菌になります。

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カメでの発生

高中温を好む運動性エロモナスは変温動物以外にも恒温動物(哺乳類)の感染にも関連し〔Gosling 1995〕、世界中に分布する土着的な水生細菌で、爬虫類においても健康な水ガメは無症状のキャリアになる可能性があり、免疫が低下することで発病をします(日和見感染)〔Kim et al.2013〕。低温飼育や栄養不調などのストレスの多い条件下で、口内炎肺炎皮膚炎敗血症を引き起こす可能性があり〔Kim et al.2013〕、甲羅の感染も見られ、シェルロット(Shell rot)ならびにSCUD(Septicemic cutaneous ulcerative disease:敗血症性皮膚潰瘍性疾患)の原因となることで有名ですす。しかしながら、近年は世界中でエロモナス菌による水ガメの大きな被害が問題となっています〔Wimalasen et al.1997〕。イタリアでは、捕獲されたカメで A.hydrophila 感染のアウトブレークが発生したり〔Pasquale et al.1994〕、中国でも養殖のスッポンでA.sobrai–A.veronii 複合 感染が深刻な経済的損失をもたらしました〔Chen et al.2013〕。

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人獣共通感染症

好冷性の非運動性の鞭毛を持たないエロモナス菌よりも、A.hydrophila (エロモナス・ハイドロフィラ)のような高中水温を好む運動性エロモナスは、魚や爬虫類などの外気温動物以外の恒温動物(哺乳類)に感染しやすいとされています〔Gosling 1995〕。哺乳類での感染では、主に胃腸炎や創傷感染が起こり〔Janda et al.1988,Washington 1972)、特に人では腸炎をよる下痢が多く〔McCoy et al.2010〕、エロモナス菌の中でも、A.hydrophila および A.sobriaは食中毒原因菌に指定されています(人獣共通感染症)。そして、人ではエンテロトキシンによる敗血症も起こします〔Krovacek et al.1993,Wimalasena et al.2017〕。爬虫類由来の人獣共通感染症はサルモネラ菌感染症が有名ですが、エアエロモナス属の細菌も水生環境に広く分布しており、水ガメを含む健康な爬虫類から頻繁に分離され、情報は非常に少ないですが、人獣共通感染症として人への感染のリスクに注意しなければいけません〔Janda et al.2010,Kingombe et al.2010 ,Ottaviani et al.2011〕。

治療・予防

基本的に抗生物質を投与します。しかし、エロモナス属の細菌の薬剤耐性菌の増加が報告され〔Piotrowska et al.2014,Usui et al.2016〕、抗菌剤感受性試験を行ったうえで抗生物質を選択したほうが賢明です。カメが免疫低下して日和見感染を引き起こした場合は、温度設定やライト類、餌の見直しをして下さい。そして人獣共通感染症でもあるため、飼い主の手洗いや消毒、生体のケージや水槽の掃除や水替えを行い、以下のクリーナーなどを使用して衛生管理に務めます。

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まとめ

エロモナス菌による感染症は日和見感染なため、健康体であれば感染が起こりません。健康に保てるような適切な飼育環境整備に努めましょう。

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参考文献

  • Austin B,Austin DA.Bacterial fish pathogens:disease in farmed and wild fish.Ellis Horwood Ltd.Chichester.West Sussex.England.1987
  • Chen J,Zhu N,Kong L,Zhongyang H.First case of soft shell disease in Chinese soft- shelled turtle (Trionyx sinens) associated with Aeromonas sobria–A.veronii complex.Aquaculture:406‐407,62–67.2013
  • Gosling PJ.Aeromonas species in disease of animals.In The Genus Aeromonas.Austin B,Altwegg M,Gosling PJ,Joseph SW eds.John Wiley &Sons Ltd.Chichester:p175-196.1995
  • Heywood R.Aeromonas infections in snakes.Cornell.Vet58:236-241.1968
  • Janda JM,Abbott SL.The genus Aeromonas:taxonomy,pathogenicity,and infection. Clin. Microbiol.Rev23:35–73.2010
  • Janda JM,Duffey PS.Mesophilicaeromonads in human disease:current taxonomy,laboratory identification and infectious disease spectrum.Rev.Infect.Dis10:980-997.1988
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  • McCoy AJ,Koizumi Y,Toma C,Higa N,Dixit V,Taniguchi S,Tschopp J,Suzuki T.Cytotoxins of the human pathogen Aeromonas hydrophila trigger,via the NLRP3 inflammasome,caspase-1 activation in macrophages.Eur J Immunol40:2797‐2803.2010
  • Ottaviani D,Parlani C,Citterio B,Masini L et al.Putative virulence properties of Aeromonas strains isolated from food, environmental and clinical sources in Italy:a comparative study.Int J Food Microbiol144:538-545.2011
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  • Washington JA.Aeromonas hydrophila in clinical bacteriologic specimens.AnnIntern Med76:611-614.1972
  • Wimalasena SHMP,Shin GW,Hossain S,Heo GJ.Potential enterotoxicity and antimicrobial resistance pattern of Aeromonas species isolated from pet turtles and their environment.J Vet Med Sci79(5):921‐926.2017

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。