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歯のトラブル
ウサギは前歯も奥歯も伸び続けます。伸びすぎたり、異常な方向に伸びることで、エサが食べれられなくなったり、口の中を傷つけたりします。この病態を不正咬合と呼びます。
歯の知識
ウサギには切歯と臼歯があり、全部で28本あります。
切歯は1年で10~12cm伸び、ハサミの刃のように鋭い咬合面で、植物を小さくカットします。上顎の切歯は、正面からのぞいている大きい歯とその後に小さな歯(小切歯)があります。
臼歯は上に6対、下に5対あり、口の中をのぞいてもなかなか見ることができません〔奥田ら 1999〕。切歯でカットした植物を石臼のような動きで細かくすり潰します。
切歯も臼歯も餌である植物を食べることで磨耗しますが、ウサギの歯は常生歯(じょうせいし)といって、一生伸び続けます。歯の根っこ(歯根)に歯を伸ばす細胞があり、歯を成長させているのです。摩耗しても歯が短くならないように、ウサギの歯は生涯にわたって伸び続けます。
原因は?
原因は以下のことがあげられ、それぞれが組み合わさって起こることもあります。
- うまれつき(先天性)
- 餌
- 事故
- 老化/骨粗しょう症
生まれつき
近年、頭と顔が小さくて丸いウサギが人気です。鼻先も短い顔が好まれ、このようなウサギを短頭種と呼ばれています。ネザーランドドワーフなども代表的な短頭種の一つで、ロップイヤーもその傾向があります。頭が丸いと、とてもかわいらしく見えます。
短頭種は頭蓋骨の形状が野生のウサギと異なり、上顎や下顎にも影響が見られます。下顎過長症(かがくかちょうしょう)や下顎突出症(かがくとっしゅつしょう)と呼ばれる下顎が前方に突出する病態が有名です。下の前歯も前方に突出して伸びてしまいます。
事故
ケージを切歯でかんだり、高い所から落下して、前歯が異常な方向に変位したり、折れることがあります。その結果、前歯の咬み合わせが悪くなり、ずれて不正咬合が起こります。
摩耗が少ない餌
歯の摩耗が少ない餌を食べると歯が伸びやすくなります。葉野菜やペレットは、牧草と比べると歯の摩耗が少なく、ペレットが好物なウサギもいます。特に餌の影響は歯に大きな影響を与えます。
老化/骨粗鬆症
年をとるとウサギも骨が薄くなり、歯を支えている歯槽骨も弱ってきます。歯がぐらぐらして、異常な方向に生えて不正咬合が起こり、抜けてしまうこともあります。
餌のカルシウムが欠乏して、骨質の減少症が起こります。不正咬合では頭蓋骨の骨質の減少症が発生要因になります。これを後天性歯科疾患の進行性症候群(PSADD:Progressive Syndrome of Acquired Dental Disease) 」と呼ばれています。PSADDになると以下のようなことが起こります〔Harcourt-Brown 2010〕。
歯根の過伸長とエナメル質の形成不全
歯の頂点を支えている歯槽骨が弱くなると、歯根が伸長します。
後天性不正咬合
支えている歯槽骨が弱くなり、餌をかむ時に発生する力に応じて歯が曲がることもあります。歯根膜の隙間が拡大すると、場合によっては歯槽内の歯が変位したり、拡大した歯根膜の隙間には細菌が入り込んで膿瘍になります(根尖周囲膿瘍)エナメル質の変形や歯が変位することで、かみ合わせが上手くいかなくなり、不正咬合の原因となります。
歯の成長の停止
最終的に歯根での変化によって、歯根の歯を伸ばす細胞が死滅し、歯の成長が止まります。歯の成長が止まると、歯の侵食、破折、吸収が起こります。歯は短くなったり、完全に吸収されることもあります。
症状
前歯も奥歯もどちらも、伸びすぎたり、異常な方向に伸びることが様々な症状を引き起こします。臼歯は歯のエナメル質が棘の様に尖り(スパイク)、うまく口を動かすことができなくなります。食欲はありますが、食べれない、あるいは食べにくくなるような症状がみられ、涎も多くなります。涎を口から流しているウサギをスローバー(Slobber:ヨダレをたらす人)と呼ばれます。涎のせいで口の周りや顎下が濡れたり、脱毛や皮膚炎になります。
胸の肉垂の毛が濡れている状態はウエット・デューラップ(Wet dewlap:濡れた肉垂)と呼ばれます。二次的に細菌感染を起こしやすいです。
ウサギは涎の垂れた口の周囲を前足でこするので、前足の脱毛や皮膚炎になったりすることもあります。伸びすぎた歯が邪魔になって毛繕いが上手くできず、体全体の毛ツヤが悪くなり、涎のために毛が粗剛になります。
歯は口の中で伸びる余地がなくなると、歯根も過長します。
- 食べづらそうにしている、食べたそうだが食べられない
- 涎が出ている
- 口の周や肉垂が濡れて、脱毛している
- 涙が出ている
- 目の周りの毛が濡れている
- 目が飛び出ている
- 下顎が膨れ上がっている
切歯はこうなる!
切歯はウサギを抑えて唇を広げれば観察が容易にできます。
正常は上顎の切歯が下よりも前方にずれています。しかし、反対に下顎の切歯が上よりも前に出ていたり、長く伸びた切歯はさらに湾曲して伸びます。上顎の切歯は左右に八の字に広がりながら伸長することもあり、ウルフ・ティース(Wolf teeth:狼の歯)と呼ばれます。下顎の切歯が前方につきでるとバック・ティース(Buck teeth:雄の歯)と呼ばれます。伸びた歯が唇にあたって傷つけることもあります。
上顎と下顎の切歯の先端がぴったりぶつかっている状態は、バッティング(Batting)と呼ばれます。
切歯が伸びて口がきちんと閉じれなくなっています。そのために口が開き気味になり、臼歯も伸びてきます。
反対に切歯が短くなっていたり、いつのまにか生えていなかったりしていますが、これは歯が失活したり、歯根に炎症や膿瘍があるために、本来は常生歯である切歯が伸びなくなっているのです。切歯のみに異常があると、採食しずらくなるので、牧草や野菜をかみ切れなくなり、食べるのに時間がかかったり、餌をくわえたあと、上を向いて食べる仕草などもみられます。
臼歯はこうなる!
ウサギの臼歯は正面から見ると下のイラストのようにほぼ垂直に生えており、上顎の左右の臼歯は下顎の臼歯よりも幅広く位置しているのが特徴です。
臼歯の摩耗が減ると上顎の臼歯は頬側に、下顎の臼歯は舌側に向かって湾曲したり、臼歯の一部が棘のように鋭く尖って伸びます。
この棘はスパイク(Spike)と呼ばれ、舌や粘膜を傷つけますの、ウサギはとても痛がります。
ひそかに歯の根っこもやばい!
上顎の切歯の歯根が伸びるとやっかいです。歯根が涙の排水路である鼻涙管(びるいかん:目頭から鼻へ涙を排泄する細い管)の近くに位置するため、伸びた歯根は鼻涙管を閉塞させたり、狭くする(狭窄)ので、涙が鼻に排泄できなくなり、涙目になります。
慢性的に涙目が続くと目頭の毛が濡れて、脱毛や皮膚炎がおこります。不正咬合を持つウサギではよく涙目になっており、ランニーアイ(Runny eye:濡れた目)と呼ばれます。
上顎の臼歯の歯根は目の下に位置するので、伸びると目や涙線にも影響がでて、眼球突出が見られます。
下顎の臼歯が伸びると周囲の骨を押しやるので、下顎を触ると骨が凸凹しているのが分かります。
膿瘍はかなりやばい
歯根に感染が起こり、膿がたまってしまった状態を根尖膿瘍(こんせんのうよう)と呼びます。膿瘍が起きた歯は腐ってくるので伸びなくなります。歯根の周囲の骨も破壊され、さらに骨は膿によって膨らんできます。この状態になると完治は困難です。
根尖膿瘍になると頬や下顎に膨らみができてきます。
上顎の臼歯に膿瘍ができると急速に顔の形が変わったり、目が飛び出て白い膿性の涙が出てきます。下顎の臼歯に膿瘍ができると下顎が大きく膨らんできます。口の中に膿が排泄され、ウサギが膿を飲み込んでいることがあります。根尖膿瘍の細菌が鼻に到達するとスナッフルがみられ、内耳・中耳炎を起こして斜頸を起こすことも多いです。
このよううな状態になると、多くは前歯も奥歯も同時に悪化して進行していることもあります。
検査は?
基本的には切歯を肉眼で観察し、口の中に耳鏡などを入れて臼歯を観察します。肉眼で観察できるのは歯肉からでている歯の上の部分だけです。
歯根はX線検査をで評価をします。しかしながら、X線検査は左右、上下が重なってうつるので、全ての異常を確認することはできません。
正確に診断するにはCT検査が必要になります。最近はCT検査の機械が進化して短時間で撮影ができるようになり、無麻酔で行えます。CT検査では個々の歯の評価が可能ですが、一部の動物病院にしかない機械です。
治療は歯をけずるの?
伸びすぎた歯は薬で治すことはできませんの、歯を削る必要があります。前歯は無麻酔でカットすることができます。
臼歯も伸びすぎたり、スパイクが出来ているなら、削る必要がありますが、ウサギはおとなしく口を開けてくれないので、全身麻酔が必要になることがほとんどです。全身麻酔にはリスクが伴いますが、獣医師とよく相談して下さい。
根尖膿瘍が発生している場合には、原因となっている歯を抜歯し膿瘍を切開、浄する処置が必要ですが、完治は難しいでしょう。
予防
不正咬合になると多くの場合は生涯にわたって、治療が必要になりますので、重要なのは予防になります。ウサギは自然界では主に草を食べており、歯を磨耗させることが一番のキーポイントになります。餌は柔らかいものでなく、歯と歯を擦りあわせる必要のある繊維質に富んだ牧草を多く与えることが最も効果的です。齧り木や牧草で編んだおもちゃやマットなども、ウサギが気に入れば有効でしょう。カロリーの高いおやつやペレットをたくさん与えると、ウサギはそれだけでおなかがいっぱいになってしまい、牧草を食べる量が減ってしまいます。もう一度ウサギのエサを考えなおしてみましょう。
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参考文献
■Harcourt-Brown F.Diseases Related to Calcium Metabolism in Rabbits.World Small Animal Veterinary Association World Congress Proceedings.2010
■奥田綾子監修.げっ歯類とウサギの臨床歯科学.ファームプレス.東京.1999