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パンデミックなウイルス病
兎出血性疾患ウイルス/兎出血病ウイルス(RHDV:Rabbit hemorrhagic disease virus)はウサギに兎ウイルス性出血性疾患(RHD)/兎出血病を引き起こす感染力が強い致命的なウイルスで、これまで数億頭のウサギが死亡しました。1984年に中国で最初にRHDが報告されて以来、アフリカ、南北アメリカ、アジア、ヨーロッパ、オセアニアの40か国以上に広がり、世界のほとんどの地域で流行しています。日本でも静岡や北海道でウサギから分離された報告が出ていました。
日本では家畜伝染病予防法における届出伝染病に指定され、そのために海外からウサギを輸入する場合などは、空港や港において、検疫が行われています。アメリカでは2019年から中西部で流行し、日本でも2020年に特定の地域で発生が起こり、人での新型コロナウイルスも蔓延していた状況から、「ウサギの新型コロナウイルス」とも言われ、話題になりました。
ウイルスの株
本ウイルスはコロナウイルではなく、カリシウイルス科ラゴウイルス属に属します。カリシウイルスは頻繁に変異するため、複数の株または血清型があり、RHDVはRHDV(RHDV1または古典的なRHDとも呼ばれます)、RHDVa、およびRHDV2(RHDVbとも呼ばれます)の3つに分けられています。
RHDV1/RHDVa
RHDVは1984年に中国の江蘇省で最初に報告されました〔Liu et al.1984〕。成体のヨーロッパアナウサギにのみが影響を受け〔Rocchi et al.2018〕、 1年足らずで中国地域に蔓延して1億4000万頭のウサギが死亡しました〔Abrantes et al.2012〕。 韓国は中国からウサギの毛皮を輸入した後に発生が見られた次の国でした〔Abrantes et al.2012〕。その後、中国から、ヨーロッパ、オーストラリア、その他の多くの地域に蔓延しました〔Kerr 2013〕。ヨーロッパでは、スペインでの野生のウサギの大規模な個体減少が起こり、捕食者である猛禽類も減少しました〔Platt 2011〕。RHDVやRHDVaによる発病の特徴は、ヨーロッパアナウサギでは成体で高い感染率(最大100%)および死亡率(40〜100%)を示しますが、6〜8週齢の若いウサギは感染する可能性が低く、4週齢未満の幼体では発病しません〔Gleeson et al.2020〕。アメリカやメキシコでもワタオウサギの孤立的な発生が報告されましたが、それらは局所化されて根絶されました〔Southwest US faces lethal rabbit disease outbreak 2020,Abrantes 2012〕。
RHDV2
RHDV2はヨーロッパで2010年以降に出現し、特異的な遺伝抗原性および病原性を示しました。ヨーロッパアナウサギはもちろんのことノウサギ、ケープノウサギ、ユキウサギなどの様々なLepus属でも致命的な症状を引き起こします〔Rocchi et al.2018,Velarde et al.2007〕。以前にRHDVワクチンを接種したウサギでも発病させ、幼若体のヨーロッパアナウサギにまで影響を与えました〔Bárcena et al.2015,Gleeson et al.2020〕。その後にヨーロッパだけでなく、オーストラリア、カナダやアメリカ、日本にも拡散しました。当初のRHDV2は毒性が弱かったのですが、病原性は強くなり、現在はRHDVやRHDVaで見られる病原性と類似し、RHDV2による死亡率は、5〜70%と変動が大きくなります〔Bárcena et al.2015,Gleeson et al.2020〕 。
どうやって感染するの?
感染した生体ならびに死体、尿や糞などの排泄部物、呼吸器分泌物、および被毛と直接接触することによって発生します。体外に排泄しても。ウイルスは最大2ヵ月間感染する能力があります〔Gleeson et al.2020〕。衣類、食品、ケージ、寝具、給餌器、水などの汚染された媒介生物もウイルスを拡散させ、ハエ、ノミ、蚊はウサギの間でウイルスを運ぶ可能性があります〔Kerr et al.2013〕。ウイルスは環境に対して非常に耐性があり、長期間の凍結に耐えることができ、またウイルスは、感染した肉だと数ヵ月間生存する可能性があります。ウサギ肉の輸入は、新しい地域へのウイルスの蔓延の主な原因になる可能性もあります〔Gleeson et al.2020〕。
症状
RHDVaの潜伏期間は1〜2日、RHDV2の潜伏期間は3〜5日です。 RHDVウイルスは肝臓で増殖して肝炎ならびに肝不全を引き起こし、それが播種性血管内凝固(血管内での止血機能と血流れをよくする機能のバランスが崩れた状態)、肝性脳症(肝機能低下によって神経有毒物質が蓄積する状態)などにつながります〔Kerr et al.2013〕。止血作用がある凝固因子と血小板が使い果たされた結果、出血が起こります。RHDV2に感染したウサギは、RHDVaに感染したウサギよりも亜急性または慢性を示す可能性が高くなります〔Gleeson et al.2020〕。RHDVaやRHDVaは、成体のウサギで高い死亡率を伴う流行が典型的ですが〔Kerr et al.2013〕、RHDV2による感染では幼若体のウサギでも死亡します。
急性
ウサギは通常、前兆なしに死んでいるのが発見されることも珍しくありません〔Rocchi et al.2018〕。ウサギは発熱により、嗜眠と沈鬱が見られ、鼻、口、または外陰部からの出血性分泌物あるいは血便・血尿が一般的です。横臥して昏睡状態になり、ケイレンを死亡前に観察されることもあります〔Kerr et al.2013〕。急性型では通常、発熱から12〜36時間以内に死亡します〔Rocchi et al.2018〕。
亜急性(急性と慢性の中間)から慢性
急性よりも長期にわたる経過は、RHDV2で一般的に見られます。症状は嗜眠や沈鬱、食欲不振、体重減少、黄疸などが起こり、胃腸の拡張、不整脈や心雑音、および神経症状も見らえる可能性があります〔Gleeson et al.2020〕。通常、発症から1〜2週間後に死亡します〔Rocchi et al.2018〕。
無症状キャリア
全てのウサギが明らかに発病するとは限りません。一部のウサギは強い免疫を発達させてキャリアになり、病気の兆候を示すことないのですが、数ヵ月間ウイルスを排泄し続けます〔Kerr et al.2013,Gleeson et al.2020〕。
最近の流行事例
アメリカでの大流行
2020年にアメリカ南西部で大流行している報道が続いていました。ペットのウサギのRHDVaの孤立した発生はこれまでいくつか報告されていました(最初の例は2000年にアイオワで発生〔Rabbit calicivirus infection confirmed in Iowa rabbitry 2019〕)、その後に他の州でも発生しましたが、これらの発生のそれぞれは封じ込められました〔Kerr et al.2013〕 RHDVaはアメリカ在来種であるワタオウサギやジャックラビットに影響を与えませんでしたので、風土病にはなりませんでした〔Anna 2020〕。しかし、アメリカでのRHDV2の報告が、2016年にケベック州の農場で発生し、2018年には野生のアナウサギで大規模に流行し〔Rabbit hemorrhagic disease in British Columbia,Canada 2020〕、その年の後半にオハイオ州のペットのウサギでも確認されました〔First report of Rabbit Hemorrhagic Disease Type 2.In US found in Ohio 2019〕。 2019年にはワシントンとニューヨークのペットのウサギ報告され〔McGann et al.2019〕、2020年には、アリゾナ、ニューメキシコ、コロラド、テキサス、ネバダ、カリフォルニア、ユタでのペットのウサギ、そして野生のワタオウサギやオグロジャックウサギでの発生が報告されました〔Rabbit haemorrhagic disease,United States of America 2020〕。このアメリカ南西部で流行しているウイルスは、RHDV2とは異なり、具体的な株は現在不明です〔Rabbit haemorrhagic disease,United States of America 2020〕。
日本での大流行
日本では2002年を最後に発生していませんでしたが、2019年に動物園や動物展示施設での感染の報告が相次いで起こりました。最初の事例は愛媛県立とべ動物園で、2019年5月に10頭のアナウサギと1頭のノウサギの計11頭が感染しました。その後、茨城、千葉、栃木などで散発的な発生がありましたが、ウイルスの型は不明でした。しかし、6~7 月岩手県盛岡市動物公園でキュウシュウノウサギとトウホクノウサギ計8頭が死亡し、そのうち5頭からRHDV2が検出されました。
診断したら届出!
RHDの診断は、特徴的な臨床的外観に基づいて行われることがよくあります。届出伝染病であるため、典型的な症状を示した場合、あるいはウサギが死亡した場合は、獣医師は保健所に届け出をするべきです。
予防
消毒とワクチンになります。
消毒
カリシウイルスは環境中で安定しており、不活化が困難です。アルコール系は効果はなく、塩素系(次亜塩素酸)、ヨウ素系、又はアルデヒド製剤が推奨されています。
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ワクチン
粘液腫症にのワクチンは、この病気が風土病である国で販売されていますが、日本にはありません。 RHDVaと兎粘液腫症の両方を予防するワクチンがあります〔Nobivac Myxo RHD|Overview 2020〕。またRHDVaを予防できてもRHDV2が予防できなかったことから、新しくRHDV2のみに対するワクチンも製造されるようになりました〔Eravac 2020〕。さらにRHDVとRHDV2の両方を予防するワクチン〔Filavac VHD K C+V 2020,Le Minor et al.2020〕、さらにRHDVaとRHDV2の両方、および粘液腫症に対してのワクチンも開発されました〔Nobivac Myxo-RHD PLUS.2020b〕。
https://www.msd-animal-health-hub.co.uk/Products/Nobivac-MyxoRHD-PLUS
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参考文献
■Abrantes J et al.Rabbit haemorrhagic disease(RHD)and rabbit haemorrhagic disease virus(RHDV):a review.Vet Res10.43(1).2.2012
■Abrantes J.van der Loo W,Le Pendu J et al.Rabbit haemorrhagic disease(RHD)and rabbit haemorrhagic disease virus(RHDV):a review.Veterinary Research43.12.2012
■Anna S.Rabbit Hemorrhagic Disease.The Center for Food Security and Public Health.Retrieved27.2020
■Bárcena J,Guerra B,Angulo I et al.Comparative analysis of rabbit hemorrhagic disease virus (RHDV) and new RHDV2 virus antigenicity, using specific virus-like particles.Veterinary Research, BioMed Central46 (1).p106.2015
■Eravac.NOAH Compendium.Retrieved26.2020
■Filavac VHD K C+V.NOAH Compendium.Retrieved26.2020
■First report of Rabbit Hemorrhagic Disease Type 2.In US found in Ohio.Ohio Department of Agriculture.Retrieved22.2019
■Gleeson M,Petritz OA.Emerging Infectious Diseases of Rabbits.Veterinary Clinics of North America:Exotic Animal Practice23(2).249–261.2020
■Kerr PJ,Donnelly TM.Viral Infections of Rabbits.Veterinary Clinics of North America:Exotic Animal Practice16(2).437–468.2013
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■Le Minor O,Boucher S,Joudou L,Mellet R,Sourice M,Le Moullec T,Nicolier A,Beilvert F,Sigognault-Flochlay A.Rabbit haemorrhagic disease:experimental study of a recent highly pathogenic GI.2/RHDV2/b strain and evaluation of vaccine efficacy.World Rabbit Science27(3).143.2019
■Liu SJ,Xue HP,Pu BQ et al.A new viral disease in rabbits.Animal Husbandry and Veterinary Medicine(Xumu Yu Shouyi)16(6).253–255.1984
■McGann C.Deadly rabbit disease confirmed on Orcas Island(Press release).Washington State Department of Agriculture.Retrieved 6.Olympia WA.2019
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■Nobivac Myxo-RHD PLUS.NOAH Compendium.Retrieved26.2020b
■Platt JR.Deadly Rabbit Disease May Have Doomed Iberian Lynx.Scientific American.2011
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■Rocchi MS,Dagleish MP.Diagnosis and prevention of rabbit viral haemorrhagic disease2.In Practice40(1).11–16.2018
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■Velarde R,Cavadini P,Neimanis A,Cabezón O,Chiari M,Gaffuri A,Lavín S,Grilli G,Gavier-Widén D,Lavazza A,Capucci L.Spillover Events of Infection of Brown Hares (Lepus europaeus) with Rabbit Haemorrhagic Disease Type 2 Virus (RHDV2) Caused Sporadic Cases of an European Brown Hare Syndrome-Like Disease in Italy and Spain.Transbound Emerg Dis64(6).1750-1761.2017