どうしよう?専門獣医師が解説するウサギの股関節脱臼

股関節脱臼とは?

股関節は骨盤と大腿骨を接続する関節で、大腿骨頭という球状の形をした骨が骨盤の一部である寛骨臼という窪んだ骨にはさまれた関節です。

股関節脱臼は、骨盤から大値骨がが外れてしまうことです。股関節脱臼はウサギの脱臼の中でも最も多く発生します〔Gallego et al.2019〕。

原因

脱臼の原因は先天性と外傷による後天性があります。先天性股関節脱臼は遺伝による奇形で、関節が変形しています。軟骨異栄養症である開張脚の二次現象で脱臼を生じることもります。なお、ウサギでは先天性股関節脱臼と診断された場合は治療はできません。後天性の股関節脱臼は、股関節に強い力が加わることで起こり、高所からの落下や隙間に後肢を挟んでの転倒などがきっかけとなります〔Abedi et al.2013,Carr et al.2019,Donnelly 2004,Duncan et al.1977〕。

症状

股関節は歩行に際して重要な役割を担う関節で、ウサギは後肢を跳躍して歩行しますが、脱臼が生じると上手く後肢を動かすことができず、跳躍の幅が狭くなります。外傷による股関節脱臼の症状は、当初は痛みも生じます。先天性および後天性期のいずれの股関節脱臼は、将来的に股関節の変形を起こす可能性がはあります。

検査・診断

股関節脱臼は、X線やCT検査などの画像検査によって、骨盤と大腿骨の位置関係を確認します。多くは片側の頭背側脱臼で、まれに後尾側脱臼が起こります〔Gallego et al.2019〕。

先天性では股関節が変形していることで判断します。

治療

骨盤と大腿骨の位置関係をもとに戻すための整復処置を行います。整復が遅れると股関節脱臼後の大腿骨頭の血行障害による骨頭壊死が起こると言われていますが、ウサギでは稀です。痛みに対して鎮痛剤を使用することもあります。なお、治療の選択に関してですが、多くのウサギでは骨頭壊死が起こることは少なく、股関節の変形は軽度に発生します。しかしながら。変形はあるものの、極度の痛みもなく、可動範囲が狭いだけ、一般生活に支障が残らないと言ってもよいくらいの経過をたどるウサギが多いのも現状です。偽関節が形成されているのかもしれません。治療方法に関しては主治医と相談して決定して下さい。

徒手整復法

全身麻酔をかけて手で脱臼を整復する手技です。しかし、これは脱臼をして2~3日以内に行うもので、時間が経つと癒着が始まってきます。整復後は安静にし、10~14日間患肢を包帯で固定します。しかし、再脱臼する症例もおり、観血的整復固定手術を検討します。

観血的整復固定術

脱臼骨折の場合、手術的な治療が必要となります。腸骨大腿ナイロン縫合糸による整復、または大腿骨頭切除術が施されます。なお、ヒトに推奨され人工股関節全置換術は、研究モデルとして実験動物ウサギが使用されましたが、ペットのウサギでの応用は長期にわたることから検討されているにすぎません〔Van Der Vis et al.1998〕。ウサギの犬や猫と異なる点は、小転子が際立ち、非常に短い大腿骨頸部を持つことです〔Kelleher 2014〕。

トグルピン法(Toggle pin)による整復固定手術

骨盤の寛骨臼と大腿骨に穴をあけ、ファイバーワイヤーなどで 人工の大腿骨頭靭帯を作成します。ウサギでの例では。安静時に右骨盤肢が断続的に軽度に外転されましたが、 ただし、歩行には影響がありませんでした〔Matt Marinkovich et al.2019〕。

大腿骨頭切除手術

脱臼した大腿骨と骨盤がぶつかり痛みが出ないようにするために、大腿骨の骨頭を切除する手術を行います。大型の動物でなければ筋肉が支えてくれるため、十分に跳躍が可能です。ウサギでの術式も一部の文献で紹介されています〔Coleman et al.2015〕。

参考文献

■Abedi GH,Asghari A,Alizadeh R et al.Histopathological and radiological evaluation of a modified arthroplasty hip joint in rabbit.Journal of comparative pathbiology iran9:803-8092013
■Carr BS,Ochoa L,Rankin D et al.Biologic response to orthopedic sutures: a histologic study in a rabbit model Orthopedics32:11.2019
■Coleman KA et al.Femoral Head and Neck Ostectomy for Surgical Treatment of Acute Craniodorsal Coxofemoral Luxation in Rabbits.Journal of Exotic Prt Medicine24(2):178‐182.2015
■Donnelly TM.Rabbits—basic anatomy,physiology,and husbandry.In Ferrets,Rabbits,and Rodents:Clinical Medicine and Surgery 2ed.Quesenberry KE,Carpenter JW eds.Elsevier/Saunders,St. Louis:p137-138.2004
■Duncan CP,Shim SS.Blood supply of the head of the femur in traumatic hip dislocation Surg Gynecol Obstetr144:p185-191.1977
■Gallego M,Villaluenga JE.Coxofemoral luxation in pet rabbits: nine cases.J Samll Anim Pract60(10):631-635.2019
■Kelleher S.Radiology: an introduction to common radiographic findings in rabbits. http://www.lafebervet.com/small-mammal-medicine/rabbits/radiology-an-introduction-to-common-radiographic-findings-in-rabbits-rev-2/. Accessed March 19, 014
■Matt Marinkovich et al.OPEN REDUCTION AND STABILIZATION OF A LUXATED COXOFEMORAL JOINT IN A DOMESTIC RABBIT (ORYCTOLAGUS CUNICULUS) USING A TOGGLE-PIN FIXATION.Journal of Exotic Pet Medicine30:43-49.2019
■Van Der Vis HM,Aspenberg P,Marti RK et al.Fluid pressure causes bone resorption in a rabbit model of prosthetic loosening.Clin Orthop Relat Res350:p201-208.1998

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。