【病気】モルモットの甲状腺疾患(結構あるかも)

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発生(昔から報告はあった)

モルモットの原発性の甲状腺疾患は,これまで古い文献にいくつか記載されていましたが〔Mosinger et al.1961,Zarrin 1974〕、特別に取り上げられていませんでした。しかし,近年になってモルモットの甲状腺疾患の報告が数多くみられます〔Gibbons et al.2009〕。有病率は 4.6%と報告され〔Mayer et al.2010〕、病理組織学的検査が実施された腫瘍のうち 3.6%が甲状腺腫瘍と〔Gibbons et al.2009〕、比較的多発するものという解釈に変化しています。

発生(甲状腺機能亢進症が3歳以上に多発)

甲状腺ホルンモンは肺や心臓などにも影響するため、甲状腺腫瘍を含めた甲状腺疾患そのものだけでなく、モルモットの慢性疾患に関与するかどうかの判断も求められています〔Gibbons et al.2013〕。モルモットの甲状腺機能亢進症の原因として、甲状腺過形成甲状腺腫瘍、甲状腺ホルモンの過剰投与、下垂体腫瘍などが挙げられ、特に甲状腺過形成や腫瘍が多いと推測されています。過形成は、遺伝的要因や餌の成分や環境の化学物質などが発生に関与し、腫瘍は腺腫と癌腫に分かれ、大濾胞性甲状腺腺腫、甲状腺嚢胞腺腫、乳頭状甲状腺腺腫、濾胞性甲状腺癌、小細胞甲状腺癌などが報告されています〔Gibbons et al.2013〕。しかし、モルモットでは悪性の腺癌の発生率が比較的高く,甲状腺腫瘍の約 55%を占めたという報告もあります〔Gibbons et al.2009〕。甲状腺機能亢進症は3歳齢以上に好発すると言われ、ある報告では 3 歳齢以降のモルモットで最大30%に達していました〔Percy et al.2007〕。

症状

甲状腺機能亢進症の最も一般的な症状は多食,異常行動(攻撃的になる、落ち着きがなくなる、よく鳴くなど)、進行性の削痩ならびに体重減少、下痢または軟便、多尿、痒みを伴わない対称性脱毛、頻脈が見られます〔Mayer et al.2010.Ewringmann et al.2005,Kondo et al.2018〕。甲状腺が著しく腫大していると、頚部腹側に触知可能な腫瘤が認められます。

診断・検査

診断には甲状腺ホルモン測定と,腫大した甲状腺の細胞診検査ならびに病理組織学的検査が必要です。甲状腺ホルモン値の基準範囲は実験動物やペットにおいていくつか報告されています。表に列記しましたが〔Castro et al.1986,Fredholm et al.2012,Anderson et al.1988,Kasraee 2002〕,性差は少ないとされています。モルモットのT4 はウサギよりも高く、ラットと同等で、人よりも低いです。また FT4 は人およびラットと同等でした〔Castro et al.1986〕。モルモットの甲状腺は他の哺乳類と比較してやや頭側に位置するため、注意して確認して下さい。腫大した甲状腺は,超音波検査では腫瘤として観察され、特に甲状腺腫では嚢胞を伴うことが多いです〔Gibbons et al.2013〕。X 線検査では頚部腹側の腫大が認められます。腫瘍病変には骨化生やわずかな石灰化所見が確認されることもあります〔Gibbons et al.2013〕。甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)を測定しますが、ビタミン C 欠乏症などの他疾病やストレスにより,甲状腺ホルモン結合蛋白が減少することで低値を示し,真の甲状腺機能を反映しないこともあります〔Peterson et al.1990〕。初期または軽度の甲状腺機能亢進症では、多くの症例で甲状腺ホルモンの総値が基準範囲内にあります。T4やT3の有意な上昇がなくても,重度の症状を示す可能性があるため,現在では多くの施設で遊離甲状腺ホルモン(fT4,fT3)が測定されています〔Castro et al.1986,Chopra et al.1997,Peterson et al.2001〕。

対象T3(ng/dL)T4(μg/dL)fT3(ng/dL)fT4(ng/dL)引用
ペット2.1(1.1〜5.2)Fredholm et al.2012
実験動物4.03(2.26〜5.82)Anderson et al. 1988
ペット4.17(3.01〜5.33)Anderson et al. 1988
実験動物39〜44 2.5〜3.2 0.221〜0.2601.26〜2.03Castro et al.1986
不明31.7±1.4 4.540.4430.224±0.1080.67±0.5Kasraee 2002
表:甲状腺ホルモン測定値

甲状腺機能低下症

モルモットの甲状腺機能低下症甲状腺機能亢進症よりも発生頻度は低いです。症状は非特異的で、活動性の低下と体重の増加であるため、発見されにくいです。一部では体幹背側と大腿部内側に脱毛が見られ、徐脈が聴取できる場合もあります〔Peterson et al.1990〕。

治療

これらの情報を総括すると、モルモットの甲状腺機能亢進症ならびに甲状腺腫瘍の正確な診断は困難です。甲状腺機能亢進症の治療が遅れると、肺や心臓,腎臓,脾臓などに深刻な問題を引き起こす可能性があります。一方で,測定した甲状腺ホルモン値が正確でない可能性もありますので、診断が治療に結びつかないこいとがあります。甲状腺腫瘍の生検や切除手術は可能ですが簡単ではなく、甲状腺機能亢進症を伴うと麻酔に対して悪影響を及ぼし、死亡する個体も多いです〔Gibbons et al.2013〕。また、甲状腺の解剖学的な位置を考慮すると外科的切除は複雑で、反回神経などを損傷するおそれもあります。さらに上皮小体が甲状腺組織全体に埋没しているため、甲状腺を完全に切除すると結果的に上皮小体も除去され、低カルシウム血症になる可能性があります。暫定的な診断で治療することは,確定診断を下すよりも臨床上の利点がありますが、甲状腺疾患が疑われる場合は他の疾患を除外することを忘れてはならないです。

甲状腺機能亢進症が疑わしい場合には、甲状腺ホルモンの産生を抑制するメチマゾールの試験的投与を開始します。本剤の治療反応は非常に早く、投与開始後 48 時間以内に体重増加または行動変化がみられるために有用です。抗甲状腺薬はメチマゾールだけでなく、カルビマゾール、プロピルチオウラシルなどもあります〔Künzel et al.2013〕。これらの薬剤は副作用が最小限であることから、試験的投与として使用できます。また、投薬を中止すると再発することから、甲状腺機能亢進症の診断根拠にもなります。多くは生涯にわたって投与が必要になり、可能であれば甲状腺ホルモン値を測定して薬効を看視するべきです。犬や猫では、これらの薬剤は嘔吐や食欲不振などの軽微な副作用を引き起こす可能性がありますが〔Kondo et al.2018〕、モルモットではよく分かっていません。メチマゾールの経皮投与は,茶色のモルモットでは皮膚の色素脱失を引き起こす報告はあります〔Müller et al.2009〕。

参考文献

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。