【救急】フェレットの嘔吐(吐いてる)

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解剖と生理

フェレットの消化時間は短く、肉ベースの餌を与えた場合、148~219分で通過排泄します。消化器系は迷走神経と仙骨神経支配を受けています。胃は単純で、形は犬の胃に似ています。胃に​​は血管が発達しており、小弯にはリンパ節が目立っています。胃は迷走神経からの副交感神経線維と腹腔腸間膜神経叢を介した交感神経線維によって支配されています。フェレットの胃は相当な貯蔵容量があり、成体では10 分間に最大 100mLを保持できます。餌の約 80% は近位胃に貯蔵されます。胃は酸とタンパク質分解酵素を分泌し、ヒスタミンと迷走神経刺激により分泌が誘発されます〔Evans et al.1998〕。フェレットの下部食道括約筋と胃食道逆流のメカニズムは、研究の動物モデルとして使用されています〔Staunton et al.2000,Blackshaw et al.1999〕。グルコース、脂質、ガスの胃への注入は胃食道逆流を引き起こしますが、グルコースと脂質は胃酸分泌を刺激します。胃酸の分泌を促進させる神経伝達物質はヒスタミン、アセチルコリン、ガストリンの3種類があり〔Blackshaw et al.1998〕、それぞれの伝達物質が胃壁細胞にある各々の受容体に作用することで胃酸分泌への指令が伝わっていきます〔Hyland et al.2001,Smid et al.2001,Smid et al.2000,Abrahams et al.2002,Page et al.1998〕。採食により、脳からの刺激が副交感神経に伝わり、アセチルコリンが分泌されます。アセチルコリンは胃壁細胞のムスカリン受容体に結合して、胃酸の分泌が起こります。食物が胃に入ると、その刺激によりガストリン細胞がガストリンを分泌し、ガストリンは胃壁細胞のガストリン受容体に結合して、胃酸の分泌が起こします。ガストリンはECL細胞や肥満細胞を刺激して、ヒスタミンを放出させ、ヒスタミンは胃壁細胞のH2受容体に結合して、胃酸の分泌を起こします。H2受容体拮抗薬(通称:H2ブロッカー)は、主にH2受容体に拮抗的に作用し、過度な胃酸分泌を抑える作用をあらわしますが、フェレットの胃には遊離ヒスタミンの濃度が低く、これはフェレットの胃にはヒスタミン生成酵素 (L-ヒスチジン脱炭酸酵素) が無いためです。また、副交感神経遮断薬であるアトロピンは、フェレットでは約30%しか抑制できないとも言われています〔Evans et al.1998〕。なお、インスリンによって誘発される低血糖は、アドレナリンの分泌が促進されて胃酸が過剰分泌されます。これはインスリノーマを患うフェレットに特に見られますので、インスリノーマを患うフェレットの治療には、酸分泌を減らす薬剤を含める必要があります。〔Evans et al.1998〕。フェレットは、制吐剤を試験するための多くの嘔吐モデルとして使用されています。消化管運動促進剤である、ガスモチン(モサプリドクエン酸塩水和物)は、消化管平滑筋に存在する5-HT (4)受容体を刺激することによりアセチルコリンの遊離を促進させ、胃酸分泌、消化管ぜん動運動を亢進させます。なお、セロトニンは、フェレットのシスプラチン投与による嘔吐を効果的にブロックできます〔Rudd et al.1998〕。

嘔吐と悪心

悪心とは胃内のものを吐き出したいという切迫した要求のことで、嘔気、吐き気とも呼ばれ、通常嘔吐の前に自覚される主観的な感覚す。嘔吐とは胃の中の内容物が食道・口を逆流し勢いよく体外に吐き出される現象です。悪心のみで嘔吐を伴わない場合や、逆に悪心を伴わずに突然嘔吐することもあります。悪心は嘔吐の直前に現れることが多く、唾液の分泌過多(口をムニャムニャさせる)、前肢で口かいたり、目を細める、歯ぎしりなりなどの行動が含まれます。慢性的な悪心や嘔吐があると、慢性的に体重減少することもあります。

原因

嘔吐は嘔吐中枢を刺激する原因によって中枢性嘔吐と末梢性嘔吐に大別され、数多くの原因が上げられます。ここでは末梢性嘔吐に分類される消化管生涯を主に解説します。

巨大食道症

フェレットでは食道疾患はまれですが、巨大食道症が有名です。他にも食道異物も発生しますが、胃疾患と比べて圧倒的に少ないです。

【病気】フェレットの巨大食道症(治せません)の解説はコチラ

胃疾患

フェレットでは胃炎・胃潰瘍と十二指腸潰瘍がよく見られます。消化管潰瘍の原因には、異物や毒素の摂取、ヘリコバクター感染、胃の腫瘍、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID)やステロイドによる治療、高窒素血症などがあります。NSAIDやストロイドの過剰摂取や長期使用によって潰瘍が発生する可能性があるため、長期服用の際には慎重に使用してください。

症状

症状は悪心と嘔吐、黒色軟便(メレナ:黒色のタール状便)などです。慢性的になると体重現象が起こります。

メレナ

重篤になると貧血はもちろん、胃の穿孔が起こり失血死する恐れがあります。

診断・検査

一般的にX線撮影と血液検査が行われます。胃異物や毛球/の腫瘍の視覚化を容易にするために、フェレットを4~6時間絶食させてからX線撮影をしたり、CT検査まで行うこともあります。ヘリコバクター感染症はPCR検査で診断が可能です。貧血は血液検査において評価されます。

治療

マロピタントクエン酸塩、メタクロプロミド、オンダンセトロンなどの制吐剤、潰瘍に対して粘膜保護剤であるスクラルファートなどを投与します。次サリチル酸ビスマスまたはコロイド次クエン酸ビスマスなどのビスマス化合物は消化性潰瘍の発症を抑制する可能性があります。ラニチジンやファモチジンなどのH2受容体拮抗薬は、胃酸分泌を抑制します。ヘリコバクター感染症であれば抗生物質の組み合わせが推奨されます。嘔吐していないフェレットには、刺激の少ない水分の多い流動食を少量ずつ複数回与えてください。1日の最小摂取量を体重1kgあたり400kcalと計算し、1日4~6回に分けて与えます。嘔吐している動物には、4~6時間食事を与えず、低血糖の兆候がないか監視してください(高齢のフェレットは、無症状のインスリノーマを患っていることが多いです)。嘔吐が治まったら、少量ずつ頻繁に与えます。

胃炎・胃潰瘍の原因

ヘリコバクター感染症

ヘリコバクターは、胃炎や潰瘍を引き超す一般的な感染症です。北米のフェレットは、治療を受けるか隔離して人工飼育されない限り、離乳時にヘリコバクター持続感染する可能性が高いとされています。本邦でも吐き気癖のあるフェレットでは高率に分離されています、PCR検査で容易に診断が可能で、放置しておくと胃癌の発生の恐れもありますので注意して下さい。

【病気】フェレットのヘリコバクター感染症(吐き癖の原因)の解説はコチラ

消化管異物

消化管異物はフェレットにでは多発する消化器疾患です。症状は悪心や嘔吐以外に、食欲不振、活動性の低下、下痢などです。閉塞を起こしたフェレットは急性腹症が見られ、突発的にぐったりします。

【病気】フェレットの消化管内異物(たべちゃダメ)の解説はコチラ

急性胃拡張

ペットのフェレットは、胃または小腸の異物による急性閉塞を経験することが時々あり、その結果、胃が膨張して液体で満たされて胃拡張が起こります。この病態は緊急事態で、フェレットはショック状態に陥ります。触診で拡張した胃が触れ、X線検査では液体やガスで拡大した胃が確認されます。治療は積極的な迅速な治療が必要です。フェレットを鎮静させ、経口胃管 (8 または 10 Fr のゴム製栄養チューブ) を挿入して胃の減圧を行い、ショックに対して輸液を施して、安定したら外科的検査の準備をします。異物以外にも幽門狭窄と胃流出路閉塞は、重度な炎症や腫瘍でも発生します。ヘリコバクターなどの感染や腫瘍が疑わしい以外で、幽門筋切開術と幽門流出路の拡張形成術が推奨されます。異物による閉塞性疾患に関連する場合を除いて、胃拡張はペットのフェレットではまれです。しかし、胃拡張は産業動物としてのフェレットの農場やクロアシイタチ(Mustela nigripes)で報告されています〔Hinton et al.2016,Schulman et al.1993〕。通常は離乳した幼体に発生しますが、成体にも稀に見られ、急激な餌の変化とクロストリジウム菌の過剰増殖に関連しているとも考えられていますが、詳細は不明です。

胃の腫瘍

胃の腫瘍には良性と悪性が発生します。フェレットでは消化管ポリープ(良性の腫瘍)はまれです。下行結腸に腺腫性ポリープが発生しり、腸重積を起こした報告例があります〔Castillo-Alcala et al.2010 〕。一般的には胃の腫瘍はMALTリンパ腫が多く、次いで腺癌が発生するのが一般的で〔Williams et al.2021,Avallone et al.2016,Fox et al.2014〕、これらは慢性ヘリコバクター誘発性胃炎に関連している可能性があります 〔Rice et al.1992,Sleeman et al.1995〕。リンパ腫は実際には、胃の発生は腸よりも低く、胃壁の肥厚を伴います。腺癌はより大きな腫瘍形成を伴い、腸閉塞を引き起こす可能性があり、急速に進行して致命的です。

嘔吐時の対応

嘔吐の原因は沢山ありますが、吐物(吐いた物)、嘔吐回数、嘔吐後の活動性(ぐったりしていないか)の3つの確認が大切です。

吐物の確認

多くが食べた餌ですが、吐物が赤色を帯びていると胃炎/胃潰瘍が疑えます。吐物が白色あるいは半透明の液体であれば胃液の可能性があり、胃液は酸っぱい臭いがあるかもしれません。何も食べていないのに嘔吐をする場合は何か病的な原因があるはずです。餌とともに、毛球や異物がみられることがありますので必ず確認してください。

フェレット糞の毛球

嘔吐回数

フェレットが採食後にむせて、一回だけ少しだけ吐くようなこともあります。この場合は、その後もまた餌を食べ始めたり、飲水をしたり、まったく普通の状態になります。多くの場合、3回くらい吐くと胃の中が空になるのか、吐くのが止まります。その後に餌を食べずに元気でいるならば、5~6時間の間絶食して水だけ与えてみて下さい。しばらく胃を休ませてみるのも一方法です。その後少量づつ餌を食べて、その後に下痢や軟便でなければ問題ありません。

ぐったりしていないか

嘔吐後にぐったりするようであれば、何か大きな病気があるはずです。一番に心配なのが毛球異物による消化管閉塞です。嘔吐回数も多いとフェレットも脱水を起こします。

フェレット脱水

嘔吐後にぐったりしている時の対応

できることはごくわずかですが、最低限の対応を解説します。下記の方法を行い、フェレットの状態が悪化しても、当方は責任を負えませんのでご了承下さい。

その1

吐いた後は無理に餌を与えないで下さい。水入れの水を飲ませたり、口にお水をスポイトなどで与えてみましょう。自ら飲むようであれば少量にとどめます。ペット用の電解質飲料があれば、水よりもよいです。飲ませてもまた吐くようならば無理にやらないで下さい。

フェレット飲水

えないといけません。水も一緒に飲むことができますが、電解質飲料であればなおさらよいですね。溶かす水代わりにしてもよいし、下痢の時の飲み水として与えて下さい。

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フェレットにも使用できます

その2

体温が極端に低い場合は、大至急保温をして下さい。ホカロンや湯たんぽを体の周りに置いたり、ペット用のヒーターの上にのせたり、エアコンで室温を上げたりなどの対策をしましょう

その3

毛球や異物による消化管の閉塞では腹痛があります。腹痛のためにお腹が張っているかもしれませんが、無理してお腹を強く押したり、無理なマッサージは不要です。お腹に手を当てるくらいは構いませんが、多くのフェレットはお腹を触られるのを嫌がります。時には噛んでくることもあるので注意して下さい。

その4

フェレットがウロウロと動き出してくるようであれば、よくなっている可能性があります。しかし、ペレットの給餌はふやかして与えたり、流動食から初めてみましょう。

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チュールタイプの流動食

イースター 小動物チキンペースト

イースター社の小動物用チキンペーストは2.5gの分包になっている生肉だけのチュールタイプの流動食です。流動食を作る手間もいらず、封を切ってそのまま与えることができます。配合されている中鎖脂肪酸はエネルギーに転換されますので、体力のないフェレットにぴったりです。上記の流動食に混ぜて使っている方も多いです。

まとめ

胃炎/胃潰瘍は処置さえすればその場で治るものではありません。ヘリコバクター感染症であれば、長期間にわたり薬が必要になりますので、しっかりと検査をして診断をつけて治療をしないと繰りかえして起こります。毛球や異物による閉塞は、軽度のものから重度のものもあります。突然に状態が悪化するものもいれば、少しづつ悪くなるものもあります。閉塞が解除すると、翌日にはケロッとして復活することもありますが、突然死することもあります。もしも復活しても、念のために動物病院で診察は受けて、獣医師の診断や治療にしたがって下さい。上記に説明した病気以外にも、内臓の病気、中毒など、吐くという症状が色々なことで起こります。

参考文献

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。