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お迎え症候群とは?
新しいフェレットを自宅にお迎えする際に、先に飼っていた(先住)フェレットにストレスを与え、食欲不振、嘔吐、軟便や下痢などの体調不良を起こすことを「お迎え症候群」と呼ばれています。先住と新しいフェレットの両方に発症することもあります。
原因は何ですか?
原因は、新しいフェレットをお迎えしたことでの環境の変化、飼い主が新しいフェレットを可愛がることへのストレスなどの精神的な原因とされていました。
お迎え症候群の予防は、エサや掃除などの世話を先住のフェレットから行う、お互いの毛布などを交換して匂いを覚えさせるなどの策が練られていましたが、あまり効果がありませんでした。精神的な原因でなく、グリーンウイルス(コロナウイルス)の感染であるという説と、先住のフェレットがもともと持っていたヘリコバクター菌のストレスによる発症という説もあります。
フェレットのコロナウイルスって?
フェレットには腸コロナウイルスと全身性コロナウイルスという2 種類が知られています〔Murray et al.2010〕。日本で検査した79頭のフェレットのうち44頭(55.7%)に腸コロナと全身性コロナウイルスが検出され、日本でもかなり蔓延していると思われます〔Terada et al.2014〕。
腸に感染する腸コロナウイルスは、明るい緑色の下痢が起こり、昔からグリーンウイルスとも呼ばれています。緑色の下痢は肝臓の病気などの他の病気でも起こります。非常に感染力が強く、同居のフェレットにすぐにうつります。流行性カタル性腸炎またはECE(Epizootic Catarrhal Enteritis:動物間粘液性腸炎)とも呼ばれています。動物間流行性(Epizootic)という用語は、施設中の全動物に急速に伝染して行くことを意味し、カタル性(Catarrha)は粘液を意味します。
1~2日と短い潜伏期間で、感染力が強いだけでなく高い発病率です。しかし、死亡率は低いです。下痢は数日で落ち着くこともありますが、長く続くことが多いです。下痢と同時に嘔吐が見られることもあります〔Wege et al.1982,Williams et al.2000〕。一方では無症状のままキャリアになるフェレットもいます。キャリアになると体の調子が悪くなったり、新しい環境や新しい同居個体とのストレスなどにさらされると発病します。特に生後3ヵ月未満の幼体は糞にウイルスが排泄し、同居や接触したフェレットに媒介しやすいと言われています〔Wege et al.1982,Williams et al.2000〕。
1994年頃アメリカでのフェレットショーなどを通じてコロナウイルスは急速に広まり、有名になりました。現在、日本でも蔓延しています。気をつけなければならないことは、フェレット同士で感染することだけでなく、飼い主の衣服や手を媒介して感染することもあり得ることです。最低でもよく手を洗ってから他のフェレットに接触して下さい。
腸コロナウイルスの感染は、糞の遺伝子(PCR)検査で診断します。糞から行う検査なので、全くフェレットには負担がかかりません。
コロナウイルスで怖いのが腸コロナよりも全身性コロナウイルスです。若いフェレットに多くみられ、2~36ヵ月齢(平均11ヵ月齢)で発症します。症状は食欲低下、体重減少、軟便や下痢、胸腔や腹腔内の腫瘤、後肢の麻痺や神経症状などです。進行性の病気で、23例中7例が死亡、15例が安楽死、1例が不明と予後不良という報告もあります〔Michael et al.2008,Autieri et al.2015〕。腸コロナウイルスの一部は、突然変異を起こし、病原性が強い全身性コロナウイルスに変異することもあります。
これがポイント!
・お迎え症候群はコロナウイルスやヘリコバクター菌のキャリアがストレスが原因で発症する?
・コロナウイルスは日本でも蔓延
・コロナウイルスは軽い下痢を起こす腸コロナと致死的な全身性コロナの2つ
・腸コロナが全身性コロナウイルスに変異する
ヘリコバクター
ヘリコバクターという細菌は、人の胃潰瘍や胃癌などの原因の1つとされるヘリコバクター・ピロリ菌が有名です。このピロリ菌の親戚のヘリコバクター(Helicobactre mustelae)がフェレットにも感染します〔Fox et al. 1990〕。
ヘリコバクターは糞から経口感染するため、母親のフェレットがキャリアであれば、幼体の時から感染している可能性が高いです。人と同じように感染していても通常は無症状です。ストレスを受けると胃炎/胃潰瘍を発症させます。新しいフェレットを迎えると環境の変化によるストレスで発症してもおかしくはないです。症状は主に嘔吐ですが、フェレットは食道が長いので、餌や胃液が口から逆流せずに、餌を食べずに口をムニャムニャさせるだけの症状も多いです。胃炎/胃潰瘍になるとメレナ(黒色のタール状の軟便)になります。
フェレットのヘリコバクターは、胃癌や消化管のリンパ腫を起こすことも報告されています〔Fox et al.1997〕。
ヘリコバクターも糞の遺伝子(PCR)検査で診断します。糞からの検査なので、全くフェレットには負担がかかりません。PCR検査で陽性であれば薬で除菌できるので治療を行いましょう。フェレットの嘔吐の原因は、ヘリコバクター以外にも毛球症や消化管内異物も多いので鑑別が必要になります。
これがポイント!
・人のピロリ菌の親戚であるフェレットのヘリコバクター菌
・キャリアはストレスで嘔吐などを起こす
・胃癌やリンパ腫を引き起こす原因になるので、投薬で除菌するべき
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参考文献
■Autieri CR,Miller CL,Scott K,Kilgore A,Papscoe VA,Garner MM,Haupt JL,Bakthavatchalu V,Muthupalani S,Fox JG.Systemic Coronaviral Disease in 5 Ferrets.Comp Med65(6):508-16.2015
■Fox JG.Gastric disease in ferrets: effects of Helicobacter mustelae, nitrosamines and reconstructive gastric surgery.Eur J Gastroenterol Hepatol6(1):S57-65.1994
■Michael M,Garner K,Ramsell N,Morera C,Juan-Sallés J,Jiménez M.Ardiaca.Clinicopathologic features of a systemic coronavirus-associated disease resembling feline infectious peritonitis in the domestic ferret (Mustela putorius).Vet Pathol45(2):236-246.2008
■Murray J,Kiupel M,Maes RK.Ferret coronavirus-associated diseases.Vet Clin North Am Exot Anim Pract13(3):543-60.2010
■Terada Y,Minami S,Noguchi K,Mahmoud HY,Shimoda H,Mochizuki M,Une Y,Maeda K.Genetic characterization of coronaviruses from domestic ferrets,Japan.Emerg Infect Dis20(2):284-287.2014
■Wege H,Siddell S,V.ter Meulen.The biology and pathogenesis of coronaviruses.Curr.Top. Microbiol.Immunol99:p165-200.1982
■Williams BH,Kiupel M,WestKH,Raymond JT,Grant CK,GlickmanLT.Coronavirus-associated epizootic catarrhal enteritis in ferrets.J.Am.Vet.Med.Assoc217 (4):p526-530.2000