【病気】フェレットのエストロゲン中毒(高エストロゲン血症)/なったら死ぬ

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高エストロゲン血症

エストロゲン過剰症やエストロゲン中毒とも呼ばれ、発情時に見られる高エストロゲン血症が続き〔Lindeberg 2008〕、フェレットでは骨髄抑制による再生不良性貧血で死亡することが知られています〔Hart 1930〕。フェレットは交尾排卵動物で、発情した交尾をすることで排卵し、エストロゲン分泌がおさまります。交配をさせずに発情後に無処置で放置されるたメスは致命的な状態に陥いる可能性があります。そのため、繁殖を希望しないメスのフェレットは避妊手術が推奨されています。

原因

持続発情に加えて、高エストロゲン血症の潜在的な原因には、卵巣残渣および卵巣腫瘍があります〔Martínez et al.2011,Patterson et al.2003〕。また、未治療の副腎皮質疾患も高エストロゲン症につながる可能性があります。

症状

症状には、両側対称性の背側脱毛、外陰部腫脹および分泌物、蒼白、収縮期雑音などがあります。さらに過剰状態が長引くと、メレナおよび下血、紫斑が起こることがあります。フェレットは通常、血小板減少症による出血で死亡します。好中球減少症により、子宮蓄膿症、膣炎、肺炎などの細菌感染症にかかりやすくなります。

フェレッ紫班

検査・診断

血液検査では、ヘマトクリット 25% 未満の非再生性貧血、有核赤血球、好中球減少症、および血小板減少症が明らかになります〔Hart 1930,Sherrill et al.1985〕。血小板数が 20,000 個/μL 未満に低下すると、出血傾向になる可能性があります〔Sherrill et al.1985〕。避妊されていないメスのフェレットでは、最近の発情と一貫した臨床症状があれば、通常は予備診断に十分です腹部超音波検査やCT検査で卵巣遺残と副腎疾患の鑑別ができます。

フェレット貧血

治療

高エストロゲン症の治療には、フェレットの状態を安定させ、エストロゲン濃度を下げることが含まれます。フェレットには血液型がないため、必要に応じて複数のドナーからの輸血が可能です〔Manning et al.1990〕。

治療の第一の目標は、エストロゲン値を下げることで、根治的治療として卵巣子宮全摘出術または卵巣残存部の外科的除去が必要になります。卵巣残存部は、卵巣茎付近または腸間膜脂肪内に見つかることがあります。しかし、再生不良性貧血のフェレットは手術や麻酔のリスクが高いことが多いため、術前に積極的な支持療法が必要になることがよくあり、必要に応じて輸血を行います。フェレットには血液型がないため、複数のドナーからの複数回の輸血が可能です。ヘモグロビンベースの酸素運搬体であるオキシグロビン(4時間かけて 11~15 L/kg IV) は、貧血のフェレットに使用できます。追加の支持療法としては、アナボリックステロイド、コルチコステロイド、鉄デキストランなどがあります。高エストロゲン血症の治療は、エストロゲンが上昇してから 4 週間未満であれば、最も成功する可能性が高いと言われています。GnRH (20μg/頭 SC、IM) またはヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG) (20~100 IU/頭 IM) を投与します。発情開始後少なくとも 10 日でhCGを投与し、外陰部の腫れが治まらない場合は 7 日後に繰り返します〔Mead et al.1988〕。雌の発情が 10 日間続いている場合は、第 2 世代プロゲストン製剤であるプロリゲストン40~50mg/頭 SCなどが提案されています〔Fox et al.2014〕。短時間作用型GnRHアゴニスト(例:ブセレリン 0.25mg/頭 IM 14 日後に反復/酢酸ロイプロレリン100~250 ug/kg IM]は即効性がないかもしれません。メスのフェレットに排卵を誘起させるには、オストと交配するか、綿棒などの膣プローブで機械的に排卵を誘発しますが、これらの処置の結果は予測不可能で、瀕死のフェレットでは失敗することが多いです。

流通個体の避妊種手術

アメリカでは、繁殖を目的としないメスのフェレットを6ヵ月齢までに定期的に避妊する慣行が広まり、高エストロゲン症の有病率が劇的に減少しました。特にペットでは流通する前の2ヵ月齢に行われることが、早期の生殖腺摘出による副腎疾患発症との関連が証明されているため、懸念されています〔Schoemaker et al.2018,Sherrill et al.1985〕。外科的避妊手術の代替として、1年または2年毎に長期 GnRH アゴニスト (デスロレリン酢酸塩 4.7mg)〔Sherrill et al.1985〕インプラントに注入することで、高エストロゲン血症を予防します〔van Zeeland Yet al.2014〕。

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参考文献

  • Fox JG,Bell JA.In Biology and Diseases of the Ferret 3rd ed.Fox JG,Marini RP eds.Wiley Blackwell.Oxford UK:p335–362.2014
  • Hart JE.Endocrine pathology of estrogens: species differences.Pharmacol Ther47:203‐218.1990 
  • Lindeberg H.Reproduction of the female ferret (Mustela putorius furo) Reprod Domest Anim2:150‐156.2008
  • Manning DD,Bell JA.Lack of detectable blood groups in domestic ferrets: implications for transfusion.J Am Vet Med Assoc 197:84‐86.1990
  • Martínez A,Martinez J,Burballa A,Martorell J.Spontaneous thecoma in a spayed pet ferret (Mustela putorius furo) with alopecia and swollen vulva.J Exot Pet Med20:308–312.2011 
  • Mead RA,Joseph MM,Neirinckx S.Optimal dose of human chorionic gonadotropin for inducing ovulation in the ferret.Zoo Biol7:263‐267.1998
  • Patterson MM,Rogers AB,Schrenzel MD et al.Alopecia attributed to neoplastic ovarian tissue in two ferrets. Comp Med53:213‐221.2003
  • Schoemaker NJ,Drijver E,Bandsma J et al.Longitudinal evaluation of adrenal gland volume in chemically versus surgically neutered ferrets.Proc Assoc Exotic Mammal Vet Ann Conf91.2018
  • Sherrill A,Gorham J.Bone marrow hypoplasia associated with estrus in ferrets.Lab Anim Sci35:280‐286.1985
  • Shoemaker NJ,Schuurmans M,Moorman H,Lumeij JT.Correlation between age at neutering and age at onset of hyperadrenocorticism in ferrets.J Am Vet Med Assoc216:195‐197.2000
  • van Zeeland YR,Pabon M,Roest J,Schoemaker NJ.Use of a GnRH agonist implant as alternative for surgical neutering in pet ferrets.Vet Rec175:66.2014

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。