ハリネズミの口腔内疾患〔Ver.2〕歯周病と扁平上皮癌

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歯周病か腫瘍のどちらか!

ハリネズミは歯周病あるいは口腔内腫瘍の好発し、口から血が出ている、食欲が落ちたという主訴が多いです。しかし、ハリネズミの口腔内の観察は難しく、きちんと見るには麻酔をかけないと無理です。出血以外にも口が半開きになったり、歯肉が見えている時は異常の可能性が高い。

ハリネズミの口からの出血

 

ハリネズミの歯
歯は3133/2123の計36本、切歯は尖った形をしています。上顎の切歯の間には隙間があり、閉口時には下顎の切前歯に昆虫などの餌が突きささるようになっています。犬歯は貧弱で臼歯と鑑別がつかず、臼歯は比較的前後の幅が広いです〔Banks et al.2010,Ivey et al.2012〕。乳歯は 18 ~ 23 日で萌え、 永久歯は 7 ~ 9 週間で生えかわります〔Banks et al.2010〕。

ハリネズミ

症状

ハリネズミに好発する歯周病と口腔内腫瘍が多発し、初期症状は同じで、食欲低下、流涎、出血、歯肉の増殖です。口に発生する腫瘤病変はハリネズミ全体の7%の発生率という報告もあり、 2 ~ 7 歳 (4.2 歳 ± 1.3)に見られ、老体にだけ特発するものでなく、下顎および上顎に均等に発生します〔Aguila et al.2019〕。非腫瘍性病変である、歯石および歯肉炎、口腔プラーク、歯肉増殖などの歯周病はハリネズミ全年齢でよく見ら、それらは腫瘤の成長とは無関係で起こります〔Lennox AM, Miet al.2016〕。歯周病の増殖は緩慢ですが、腫瘍は顔や顎の変形や潰瘍化を伴い、急速に成長する特徴があります〔Aguila et al.2019,Heatley et al.2005,Okada et al.2018,Pei-Chi et al.2011,Raymond et al.2001〕。歯周病と腫瘍の鑑別には全身麻酔における病理組織学的検査が必要で、同時に進行具合の確認のために徹底的な口腔検査、X線検査やCT検査をが行います。

歯周病

歯石

餌のカスが歯に沈着して歯石が形成されます。
ハリネズミの歯石 ハリネズミの歯石
歯石は超音波スケーラーで削り落とします。
ハリネズミのスケーリング ハリネズミのスケーリング

歯肉増殖

慢性の炎症の結果、歯肉の過形成が起こります。
ハリネズミの歯周病
進行すると歯が抜け落ちたり、硬い餌が食べられなくなります。普段から軟らかくしたペレットを与えられているハリネズミでは、発症しても分かりにくいです。

歯周病の治療

歯周病では、歯石のスケーリングや抗生物質の投与などの内科治療を行い、進行した場合には、抜歯が必要になる場合もあります。過形成を起こして歯冠が埋まってしまうような症例では切除や焼絡を行います。

悪性上皮癌

腫瘍は圧倒的に扁平上皮癌と診断され〔Heatley 2009,Smith 1992, Lightfoot 1998〕、通常は転移傾向の低い局所浸潤性腫瘍です〔Raymond et al.2001,Raymond et al.1999〕。しかし、一部の論文ではリンパ節および肺への転移を伴う症例の報告もあります〔Raymond et al.2001,  Raymond et al.1999,Reams et al.1992〕。ペットのハリネズミはヨツユビハリネズミがほとんです、他のハリネズミ種での発生報告もあります〔Frye et al,1973,Gal et al.2009〕。

ハリネズミの口のポリープ

悪性腫瘍は二次的な炎症を起こしやすいです。

ハリネズミの口の悪性腫瘍

悪性だと進行が早く、さらに顔も変形し、鼻の方へ増殖したり、下から目を押して眼球が飛び出ることもあります(眼球突出)。

ハリネズミの口の悪性腫瘍

悪性上皮癌の治療

腫瘍切除

居所浸潤が強い扁平上皮癌では可能な限り切除を行いますが、境界が明瞭でないため、焼絡で対応します。ただし、手術端の組織病理学的評価は、腫瘍の浸潤範囲を評価できるため、必ず行うべきです。

顎切除

腫瘍は顎骨に浸潤するため、下顎の場合は切除という治療法もあるが、ハリネズミでは餌を食べることができなくなるため、治療選択肢ではありません〔Spugnini et al.2018〕。

放射線治療

放射線療法が有効視されています〔Spugnini et al.2016,Heatley 2009〕が、その手技は確立はしていません。放射線治療は腫瘍細胞膜の透過性を高め、これによりブレオマイシンやシスプラチンなどの性薬剤の送達が強化され、薬物の局所的な有効性が増強され、投与量を減らすことが可能になると言われています〔Spugnini et al.2016〕。下顎に1.00 × 1.50 cm の腫瘍がある5 歳のメスのヨツユビハリネズミで、麻酔下で化学療法と放射線療法が施された報告がああります。腫瘍にブレオマイシンを 直接注射を行い、放射線を照射した。副作用を示さず、 25% の腫瘍縮小が見られ 、その後毎月照射され、 5ヵ月間腫瘍は安定していましたが、その後進行し、飼育物は安楽死を選択しました〔Spugnini et al.2018〕。

原因

歯周病の原因

歯周病の原因は、ふやかした餌と言われています。飼育されているハリネズミに与えるペレットはふやかすか、硬いままか、論議されています。ふやかすと歯石がついて歯周病になりやすく、硬いままだど口腔粘膜や歯肉を損傷するので、炎症や刺激により腫瘍になりやすいです。野生のハリネズミは甲虫やヤスデなどの節足動物を食べており、これらは、周りは外骨格で硬くて中身は軟らかくでてきいます。そのため理想のペレットの硬度は、周りが硬くて中身が軟らかい製品が理想かもしれません。また、昆虫の羽や脚の外骨格は食べた時に、歯を磨く役目もして、さらに消化できない成分として不消化性繊維質の代わりにもなっています。ならば昆虫やワームをメインに与えればよいのではないかとも考えますが、カルシウムをはじめとする栄養のバランスが悪いため、主食を栄養価のバランスのとれたペレットにし、20~30%くらいをコオロギやワームにするとよいかもしれません。

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扁平上皮癌の原因

ハリネズミの扁平上皮癌の特異的な発生の要因は解明されていません。皮膚の扁平上皮癌の発生は、紫外線はDNA への損傷の誘発を起こし、重要な発癌要因として認識され〔 Alam et al.2001,Rundel 1983,Brash et al.1991〕、家畜においても同様の因果関係が示唆されています〔Johnson 1998,Hauck 2013,Hargis et al.1977,Nikula et al.1992,Dorn et al.1971,Teifke et al.1996〕。しかし、ペットのヨツユビハリネズミは屋内のみで飼育されており、人工的な 紫外線の暴露がないことを考慮すると、腫瘍発生には関与しません。また、パピローマウイルス感染はヒトの粘膜発生の扁平上皮癌の発生と強く関連しています〔Dubina et al.2009,Munday et ak,2010〕。持続的なウイルス感染と免疫抑制が同時に発生し〔Dubina et al.2009,Munday et ak,2010〕、犬や猫でも発癌との関連を裏付けされています〔Munday et ak,2010,Wilhelm et al.2006,Watrach et al.1970,Munday et al.2015〕。しかしながら、ハリネズミの扁平上皮癌ではパぴローマウイルス感染を示唆する病変は知られていません〔Smith 1992〕。また、化学物質への曝露が慢性皮膚疾患を関与していることが、ヒトにおける発癌要因として知られていますが〔Alam et al.2001〕、ハリネズミではやはり分かっていません。

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ポイントはコレ!

●ハリネズミは歯周病や口の腫瘍の発生が多い
●口から出血したり、食欲が落ちる
●口の中を観察するには麻酔をかけないといけない
●原因はエサともいわれている

参考文献
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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。