一般の飼育者ではフェレットを繁殖させて、出産を経験したり、乳幼子の世話を見ることも皆無だと思います。
正常分娩
フェレットの妊娠期間は平均41日(39~42日)です〔Pollock 2012〕。出産は通常約2~3時間かかり〔Lewington 2007〕、1時間あたり約5頭の子が生まれますが、メスによってはもっと時間がかかることもあります。出産は安定しており、苦痛の兆候は見られません。1 回の出産数は平均8~9頭(1~18)頭です〔Amstislavsky et al.2000,Lindeberg 2008〕。新生子は晩成性で、出生時の体重は6~12gです〔Bell 2003,Lewington 2007,Lindeberg 2008〕。適切な光周期にさらされると、メスは離乳後2週間以内に発情期に戻ります。出産時に子が取り除かれた場合、メスは交尾後8週間で発情期に戻ります。偽妊娠のメスや胎子が吸収されたメスも同様です。メスが子を少数 (5頭以下) 出産した場合、授乳中に発情期に戻ることがあります〔Fox et al.2014〕。
繁殖フェレットの管理
繁殖を成功させるには、妊娠、出産、授乳中の継続的な管理が必要です〔Bell 2003,Batchelder et al.1988〕。妊娠したメスのケージは、出産前から静かな場所に置いてください。ストレスを最小限に抑えることは、特に若い初産メスにとって環境ストレス要因は出産に影響します。室温は 21°Cを超えないようにしてください。メスと子が必要に応じて暖かさを選択できるように、巣箱の一部にのみパネルヒーターを設置するとよいでしょう。騒音なども出産や育子が上手くいかないリスクが高まります。メスは興奮して、子を寝具の中に埋めたり、隅や餌や水の容器に山積みにしたりするような異常行動を示したり、生まれたばかりの子のうち数頭または全部を共食いすることもあります。なお、人が子を触っても、母親は子育てを拒否することはないようです〔Bell 2003〕。細断したアスペンの削りくず、リサイクル紙の敷き材、または小さな布タオルは、子の巣材として使用されます〔Bell 2003〕。子育中の母親には餌と新鮮な水をいつでも口にできるようにしてください。
母親の疾患
妊娠中毒
妊娠中毒は、特に若い初産メスの妊娠後期に散発的に発生します〔Batchelderet al.1999〕。負のエネルギーバランスが発生し、出産前の10日間に異常なエネルギー代謝とそれに続く高脂血症、低血糖、ケトーシス、肝リピドーシスを促進します。このエネルギー不足は、餌の摂取量が不十分であるか、非常に多くの子による栄養の過剰需要のいずれかによって引き起こされます〔Batchelderet al.1999,Bell et al.2003〕。症状は、急性の重度の虚脱、食欲不振、体重減少などで〔Batchelderet al.1999,Dalrymple 2004,Fox et sl.2014〕、突然死が起こる場合もあります〔Batchelderet al.1999,Bell et al.2003,Fox et sl.2014〕。血液検査では、貧血、低タンパク血症、高窒素血症、低カルシウム血症、高ビリルビン血症、肝酵素活性の上昇、低血糖などが見られ〔Batchelderet al.1999,Fox et sl.2014〕 、尿検査でケトン尿が明らかになります。治療は帝王切開と集中的な支持療法で積極的な治療が行われます〔Bell et al.2003〕。予後は良好とは言えませんので、予防のために母親には常に適切な栄養を与え、ストレス要因を避けなければなりません〔Batchelderet al.1999〕。
難産
難産とは、12~2 時間を超える分娩、または困難の兆候がある場合と定義され、フェレットでの発生は1%〔Pollock 2012〕や5%〔Walett Darvelid et al.1994〕と報告があります。難産の潜在的な原因は、高齢のメスの妊娠または環境温度の上昇 (21°C 以上)、子宮疾患、または、14~20gと過大な胎子 (子の数が少ない場合に可能性が高い)、後方または横向きの胎位、および奇形の胎子も難産のリスクを高める可能性があります〔Bell 2003,Pollock 2012〕。難産の75%が子でなく母体起源で、そのうち約半数は原発性子宮無力症によるものであるという報告もあります〔Walett Darvelid et al.1994〕。難産の 1 つのタイプでは、シングルキトンシンドローム(Single kitten syndrome)が疑われました〔Garrigou et al.2014〕。これは、犬で説明されているシングルパピーシンドローム(Single puppy syndrome)と同じ病態で〔Münnich et al.2009〕、子が 1頭しかいない若いメスのフェレットが、胎子からのコルチゾール刺激がないため、排出努力を示さない可能性があるというものです。分娩誘発における胎児の関与は、犬を含めて多くの動物種で強く疑われていますが〔Taverne et al.2008〕、特にLigginsの実験および研究 でヒツジにおいてのみ明確に実証されています〔Liggins 1969〕。通常の分娩中、複数の胎子が存在する場合、胎子副腎コルチゾールは、エストラジオール、プロゲステロン、プロスタグランジン、オキシトシン、リラキシンなどのいくつかのホルモンが関与する一連の反応を誘発することにより、分娩プロセスを開始します〔Taverne et al.2008,Martin et al.2004〕。胎子血漿コルチゾールレベルの上昇は、子宮筋を興奮させるプロスタグランジンとエストロゲンの産生を刺激し〔Martin et al.2004〕、プロゲステロンとエストロゲンの比率の低下は、主に黄体の分解によるものです。プロスタグランジンとリラキシンとともに、これは受容体の数を増やすことにより、オキシトシン放出の増加とオキシトシンに対する子宮の感受性の増加を引き起こします。プロスタグランジンとリラキシンも、子宮頸管の消失と拡張に関与している〔Martin et al.2004〕。胎子が1頭であると、これらの連鎖反応が引き起こされず、正常な出産が妨げられたのではないかという仮説があります。難産の根本的な原因に応じて、オキシトシン (5~10IU/頭 IM) による内科治療、または帝王切開による外科的治療を行います。
偽妊娠
偽妊娠は着床の失敗によって引き起こされ、これは繁殖開始の 1ヵ月月前に光強度が低下すること、または妊娠に失敗することに関連しています〔Fox et sl.2014〕。偽妊娠では、体重増加、乳腺肥大、巣作り行動など、通常妊娠に関連する身体的および行動的変化が見られる場合があります。偽妊娠した個体は繁殖期の早い時期であれば偽妊娠後に発情期に戻り、繁殖期の遅い時期であれば静止状態になります〔Bell 2003〕。春の間に最大限の光強度にさらされるようにし、晩夏には人工的に光時間を延長することで、偽妊娠のリスクを最小限に抑えます。
乳汁分泌不全
メスが通常の 8~9頭の子を産むのに十分な量の乳を産めないことと定義されます。過密、騒音、高温などの環境要因によりメスがストレスを受けた場合、また、全身疾患または慢性乳房炎を患っているメスに乳汁の量が減ります〔Bell 2003〕。遺伝する場合もあり、一部のフェレット種は乳の生産がほとんどないかまったくないことが知られています。根本的な原因を突き止め、授乳中のメスに最高品質の食事を与えてください〔Bell 2003〕。
乳腺炎
乳腺炎はペットのフェレットでは時々見られますが、実験室のフェレットでは頻繁に見られます〔Bell et al.2014〕。急性乳腺炎は出産直後、または授乳 3 週目以降に発症します。この時期は乳の生産がピークに達し、子フェレットがより積極的に乳を飲み始める時期です。潜在的な病原体には、ブドウ球菌属や溶血性大腸菌などの大腸菌群が含まれます〔Bell 2003,Fox et sl.2014〕。1つまたは複数の乳腺に硬くて痛みを伴う腫脹が起こり、皮膚が赤色~紫色に変色している場合があります。乳汁が変性して凝固していることもあります。早期に認識して治療しないと、感染は近くの腺に急速に広がり〔Fox et sl.2014〕、重症になると膿瘍が形成されることがあります。発熱、活動性の低下、食欲不振などの全身疾患の兆候を呈する場合があります〔Fox et sl.2014〕。治療は抗生物質の投与で〔Bell 2003〕、重篤であれな鎮痛剤も併用し、壊死した乳腺では広範囲外科切除を実施します〔Bell 2003〕。
産後低カルシウム血症
出産後の低カルシウム血症、またはミルク熱とも呼ばれ、出産後3~4週間で後部麻痺、知覚過敏、および発作などを示した初産のメスで報告されています。一般的に、グルコン酸カルシウム注射による治療に反応します〔Bell et al.2014〕。低カルシウム血症を防ぐには、バランスの取れた食事と、必要に応じてカルシウム補給を行います。
子宮炎
子宮炎は出産直後に発症し、時には流産や出産後にも発症します。子宮炎は胎児遺残や胎盤遺残と関連している場合もあります。身体検査では子宮が膨張し、赤い膣分泌物が見られることがあります。根治的治療は卵巣子宮摘出術です。子宮炎の医学的治療には、鎮痛剤、全身性抗生物質、子宮内容除去のためのプロスタグランジンF2α (ルタライズ、0.5 mg IM) などがあります。上行性膀胱炎や二次性尿路結石のリスクを減らすために、尿中濃度の高い抗菌薬を選択してください〔Bell 2003〕
乳幼子の成長
フェレットの乳幼子は、2週齢迄は間は正常な体温を維持する能力がほとんどありません。通常、母親が巣を離れる時以外は、メスのそばで静かに横たわり、授乳したり眠ったりします。3週齢に達すると、目は少しづつ開き始め、探索したり、柔らかい餌なら口にし始めます。目は通常30~35日齢までに開瞼し、早ければ 25日齢には開きます。体重は、出生時に8~10g、1週間で30g、2 週間で60~70g、3週間で100gに達します。 一般的に6~8週齢で離乳します〔Bell 2003〕。
弱ってる乳子の世話
衰弱して低体温を示し、自ら母乳を飲めない乳子の場合は以下の対応をします。保温をして、30~40°Cの温度勾配を与えてください〔Manning et al.1990,Manning et al.1990〕。低体温症になると授乳しても自ら吸えない状態になり、50%のデキストロース溶液を数滴口から投与するか、歯茎に塗っておく方法をとります〔Bell 2003〕。保温した乳酸リンゲルなどを皮下補液 (50~100mL/kg) することもあります。
哺乳
乳子は生後7~10日間までは母乳が最低でも必要です〔Bell 2003,Manning et al.1990〕。フェレットの母乳成分はは授乳期間中に変化すると言われています〔Schoknecht et al.1885〕 。人工哺乳をする場合は 1~1.5時間毎にピペットで新生フェレットにミルクを与えることで、ある程度の成果が報告されています。10~21日齢まくらいになると、子犬用または子猫用のミルク代替品を1日4~6回与えることでも対応ができるとも言われています〔Fox et al.2014〕。4~5週齢には、ミルクでふやかしたペレットあるいは流動食なども与えられます〔Bell 2003〕。
産後(日) | 脂質(%) | たんぱく質(%) | 乳糖(%) |
5 | 7.8~8.5 | 7.2~8.8 | 2.7~4.2 |
11 | 9.3~10.5 | 6.3~7.9 | 2.8~4.4 |
19 | 8.9~10.8 | 6.0~8.3 | 3.8~4.2 |
25 | 8.8~9.5 | 5.0~7.9 | 3.3–4.2 |
33 | 9.2–10.3 | 8.6~9.8 | 3.0~4.1 |
39 | 9.0~13.0 | 8.4~10.6 | 1.5~3.2 |
乳子の下痢
乳幼子の下痢は、フェレットロタウイルス単独、ロタウイルスと細菌の同時感染、細菌感染単独によって引き起こされます。フェレットロタウイルスは親が保有しており、ストレスを受けた乳幼子や受動免疫がない場合に感染して下痢を引き起こします〔Bell 2003,Torres-Medina 1987〕。軽度で自然に治る場合もありますが、積極的な支持療法を受ければ、多くは予後は良好です。しかし、1週齢以下では生命を脅かす可能性があります〔Bell 2003,Fox et al.2014〕。
新生子結膜炎
新生子結膜炎または新生児眼炎では、乳子の開瞼していない結膜嚢に膿性の分泌物が溜まった病態で、様々な病原体が分離されています。片側または両側の結膜炎は、通常、生後数日~3 週齢に発生します。痛みのため、通常、授乳をしなくなります。本来の眼瞼線を目安にメスや針で切開して開き、残骸を洗い流し、広範囲のスペクトルの眼科用軟膏を塗布します。同腹の子も感染することが多いため、定期的に同腹の子全体を注意深く検査します。3週齢のになると、眼瞼が開いたままになるため、予後は良好ですが、再び閉瞼して、感染が再発することがあります〔Bell 2003〕。
参考文献
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- Torres-Medina A.Isolation of an atypical rotavirus causing diarrhea in neonatal ferrets.Lab Anim Sci37:167‐171.1987
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