【病気】フェレットの炎症性腸疾患(IBD)

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  • 著者 霍野 晋吉 霍野 晋吉
  • カテゴリー 哺乳類
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IBD

炎症性腸疾患（Inflammatory Bowel Disease：IBD）は、猫、犬、人間など多くの種に発生する特発性で慢性の炎症性消化管疾患です〔 Carrasco et al.2015,Jergens 2012,Sairenji et al.2017〕。 、IBDは現在、フェレットで一般的に発生しながら十分に説明されていない疾患です〔Burgess et al.2002,Devaux et al.2014〕。

発生

1歳以上のフェレットで発生することが多いです。

症状

症状は、悪心、慢性的な体重減少、緑色～粘液性の下痢、黒色便で、時に脱肛や直腸脱も引き起こします。しかし、多くは微妙な症状を示すだけで、無症状に近いかもしれません〔Burgess 2007,Burgess et al.2002,Hoefer et al.2012〕。治療しないと、IBD はリンパ腫に進行する可能性があります〔Burgess 2007〕。 

診断

腸の生検による病理組織学的検査で診断されますが、確定診断には、理想的には腸の全層生検の顕微鏡検査が必要になります〔Burgess 2007,Carrasco et al. 2015,Devaux et al.2014〕。内視鏡検査は粘膜表面を観察できる侵襲性の低い検査ですが、腸間膜リンパや粘膜下層または筋層を検査できないためにIBDの確定診断には難しく、IBDの続発症であるリンパ腫の早期発見に役立ちます。

病理組織病理所見では、IBDは腸絨毛の萎縮と鈍化、および粘膜の炎症性浸潤を特徴とします。存在する炎症細胞は主にリンパ球と形質細胞ですが、まれに好酸球成分が存在することもあります(好酸球性胃腸炎)〔Burgess 2007〕。好酸球浸潤を伴う炎症性腸疾患は、腸管に限らず複数の臓器に影響を及ぼす、あまり一般的ではない好酸球性肉芽腫性疾患と区別する必要があるとも言われています〔Burgess 2007,Burgess 2002〕。しかし、フェレットのIBDの病理組織学所見において、何を軽度、中等度、または重度の IBD と見なすべきかに関して混乱が生じています〔Cazzini et al.2020〕。

原因

他の動物種と同様、フェレットのIBDの病因は不明です。根本的な原因には、微生物、この種の野生の餌には含まれない食事性タンパク質、および粘膜免疫系の複雑な相互作用が関与しているという仮説が立てられています〔Burgess 2007〕。罹患したfレットにおけるこの相互作用は、慢性の炎症反応を引き起こします。フェレットの胃炎や腸炎の既知の原因にはHelicobacter mustelae、フェレット腸管コロナウイルス、Lawsonia intracellularis (増殖性回腸炎および/または大腸炎)、クリプトスポリジウム症、コクシジウム症、および異物摂取などがあります。これらの病原体または腸内細菌叢は、主な原因が解消した後も長期間続く異常な免疫反応を誘発してIBDの病態を作り出す可能性があります。ヒト〔Burgess et al.2002, Xavier et al.2007〕およびイヌ〔 Kathrani et al.2010〕では、共生細菌を認識する免疫受容体の欠陥により炎症性サイトカインが増加することが、IBD感受性に関与していますが、遺伝的欠陥がフェレットやネコのIBD発症に寄与するかどうかは不明です〔Jergens et al.2012〕。食餌要因も犬や猫と同様に、フェレットのIBD感受性に関与している可能性があえります〔Burgess 2007,Jergens et al.1992〕。フェレットは肉食動物で、良質なタンパク質と脂肪を多く含み、炭水化物と繊維の少ない肉食を必要とします〔Lewington 2007〕。市販のペレット含む飼いフェレット用の餌により、フェレットが新しいタンパク質やその他の成分（脂肪、炭水化物など）の変化にさらされることで、IBDが誘発される可能性があります。

好酸急性胃腸炎

好酸球性胃腸炎は以前は独立した疾患でしたが、IBDの病態において、好酸球が主体となるタイプです。肉芽腫や腸の肥厚が触知できる場合がありますが、通常の症状は持続性ECEやIBDと区別できない場合があります。報告されているフェレットの症例はすべて6ヵ月齢以上ですが、報告数が少ないため、若い動物で発症率は不明です〔Carmel 2006,Fazakas 2000,Fox et al.1992,Palley et al.1992〕

参考文献

  • Carmel B. Eosinophilic gastroenteritis in three ferrets.Vet Clin North Am Exot Anim Pract9(3):707‐712.2006
  • Fazakas S.Eosinophilic gastroenteritis in a domestic ferret.Can Vet J41(9):707–709.2000
  • Palley LS,Fox JG.In Kirk’s Current Veterinary Therapy XI:Small Animal Practice.Kirk RW,Bonagura JD eds.Eosinophilic gastroenteritis in the ferret.WB Saunders.Philadelphia:p1182‐1184.1992
  • Fox JG,Palley LS,Rose R.Eosinophilic gastroenteritis with Splendore–Hoeppli material in the ferret (Mustela putorius furo) Vet Pathol29(1):21‐26.1992

治療

IBD の正確な原因は不明ですが、フェレットのIBDの治療は、考えられる原因の除去、コルチコステロイドおおびアザチオプリンによる炎症反応の抑制になります。プレドニゾン（1mg/kg PO、SID‐BID）がよく使用されますが、IBDを患うフェレットの中には、長期のコルチコステロイド治療に反応が悪いものもあります。アザチオプリン（0.9mg/kg PO　24～72時間毎）は別の治療オプションであり、フェレットの忍容性が良好であるようです〔Burgess et al.2002〕。猫用の低アレルギー性食餌を試すこともできますが、フェレットは餌の変更を嫌がることがよくあります。

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参考文献

  • Burgess ME.Ferret gastrointestinal and hepatic diseases.In Ferret Husbandry,Medicine and Surgery.2nd ed.Lewington JH ed.Saunders.St.Louis.MO:203-222.2007
  • Burgess ME,Garner M.Clinical aspects of inflammatory bowel disease in ferrets.Exotic DVM4:29‐34.2002
  • Cazzini　P et al.Proposed grading scheme for inflammatory bowel disease in ferrets and correlation with clinical signs.J Vet Diagn Invest32(1):17-24.2020
  • Devaux L,Huynh M,lNicolier A.Lymphoplasmacytic gastritis in ferrets:case series.Proc Annual Conf Assoc Exot Mamm Vet.2014
  • Carrasco V et al.Distinguishing intestinal lymphoma from inflammatory bowel disease in canine duodenal endoscopic biopsy samples.Vet Pathol52:668-675.2015
  • Hoefer HL et al.Gastrointestinal diseases.In Ferrets,Rabbits,and Rodents:Clinical Medicine and Surgery.3rd ed.Saunders E ed.Elsevier Saunders.St.Louis MO:27-45.2012
  • Jergens AE.Feline idiopathic inflammatory bowel disease:what we know and what remains to be unraveled. J Feline Med Surg14:445–458.2012
  • Jergens AE et al.Idiopathic inflammatory bowel disease in dogs and cats: 84 cases (1987‐1990).J Am Vet Med Assoc201:1603-1608.1992
  • Jergens AE,Simpson KW.Inflammatory bowel disease in veterinary medicine.Front Biosci4:1404‐419.2012
  • Kathrani A et al.Polymorphisms in the TLR4 and TLR5 gene are significantly associated with inflammatory bowel disease in German shepherd dogs.PLoS One5:e15740.2010
  • Lewington JH.Nutrition.In Ferret Husbandry,Medicine and Surgery.Saunders.St.Louis MO:57‐85.2007
  • Sairenji T et al.An update on inflammatory bowel disease.Primary Care44:673‐692.2017
  • Xavier RJ,Podolsky DK.Unravelling the pathogenesis of inflammatory bowel disease.Nature448:427‐434.2007
フェレット

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年　茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。

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