胃炎・胃潰瘍
フェレットでは胃炎・胃潰瘍と十二指腸潰瘍がよく見られます。消化管潰瘍の原因には、異物や毒素の摂取、ヘリコバクター感染、胃の腫瘍、非ステロイド性抗炎症薬 (NSAID)やステロイドによる治療、高窒素血症などがあります。NSAIDやストロイドの過剰摂取や長期使用によって潰瘍が発生する可能性があるため、慎重に使用してください。
症状
症状は、食欲不振、無気力、体重減少、黒色軟便(メレナ)などがあり、悪心により、唾液の分泌過多(口をムニャムニャさせる)、前肢で口かいたり、目を細める、歯ぎしりなどの症状を示し、嘔吐は一般的ではありませんが、重篤になると見られます。フェレットは失血や胃穿孔で死亡する可能性があります。
診断・検査
一般的にX線撮影と血液検査が行われます。胃異物や毛球の視覚化を容易にするために、フェレットを4~6時間絶食させてからX線撮影をしたり、CT検査まで行うこともあります。胃潰瘍による出血で、貧血をお起こしていることもあります。
治療
マロピタントクエン酸塩、メタクロプロミド、オンダンセトロンなどの制吐剤、糜爛に対して粘膜保護剤であるスクラルファートなどを投与します。次サリチル酸ビスマスまたはコロイド次クエン酸ビスマスなどのビスマス化合物は消化性潰瘍の発症を抑制する可能性があります。ラニチジンやファモチジンなどのH2受容体拮抗薬は、胃酸分泌を抑制します。
ヘリコバクター感染症
Helicobacter mustelae(ヘリコバクター ムステラ)はグラム陰性桿菌で、胃炎や潰瘍を引き起こす人の病原体であるHelicobacter pylori(ヘリコバクター ピロリ)と関連があります〔Fox et al.1990〕。 実際、フェレットはヒトのH.pylori感染の研究のための動物モデルとして使用されています。フェレットの胃腸系は解剖学的にも生理学的にもヒトに似ており、げっ歯類やげっ歯類やウサギ類と比較して嘔吐反射があるため〔Tolbert et al.2011〕、迷走神経および胃の生理学に関する多数の研究が実施されています〔Torres-Medina 1987,Valheim et al.2001,Vilalta et al.2016〕。そして、ヒトの胃十二指腸潰瘍を引き起こすH.pyloriと類似したH.mustelaeの宿主であること最大の利点です〔Otto et al.1990.Fox et al.1990.Alder et al.1996〕。北米のフェレットは、治療するか隔離して育てない限り、離乳時にほぼすべてH.mustelaeに感染している可能性があります〔Swennes et al.2014〕。 治療を受けていないフェレットでは、感染は生涯続き、併発疾患や手術などのストレスを受けると、発病るる場合があり、慢性経過を示すH.mustelaeによる胃炎の重症度は年齢とともに増加します〔Fox et al.2001〕。いわゆるフェレットのお迎え症候群の一要因とも考えられています。
症状
ヘリコバクターは、胃の幽門領域と十二指腸の幽門領域に定着し、胃炎・胃潰瘍を起こす要因となります。ヒトの慢性H.pyloriによる胃炎・胃潰瘍は、胃腺癌または粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫を引き起こす可能性があります〔Erdman et al.1997〕。H.mustelae感染に関連する胃のリンパ腫は、成体のフェレットでも報告され〔Erdman et al.1997〕、それ以外でも自然発生的な胃腺癌も発生します。また、1つの腺癌の症例では、 銀染色 (Warthin-Starry) において形態学的に一致するH. mustelaeと思われる細菌が検出されました〔Fox et al.1997〕。
診断
確定診断は内視鏡または外科的生検で得られた胃粘膜サンプルの組織病理学的検査によって確認されます。胃粘膜の銀染色切片において細菌が検出できます。しかし、近年は胃粘膜または糞便サンプルは、遺伝子(PCR)検査が可能となりました。
治療
ヘリコバクターの駆除には、抗生物質療法のほか、前述の潰瘍に対する支持療法が含まれます。初期治療は、通常、アモキシシリン、メトロニダゾール、次サリチル酸ビスマスの併用です〔Otto et al.1990〕。特にアモキシシリンとメトロニダゾールを少なくとも 21 日間併用する必要がありますが、経口アモキシシリン懸濁液は嗜好性が良いですが、メトロニダゾールは口当たりがよくありません。クラリスロマイシンをベースとした2剤療法 (ラニチジン ビスマスクエン酸塩またはオメプラゾールのいずれかと併用) は、アモキシシリンをベースとした 3 剤療法よりも効果的であるとも言われています〔Alder et al.1996,Marini et al.1999〕。どちらのプロトコルも1日3回の投与スケジュールに基づいていますが、一部の飼い主にとっては非現実的かもしれません。エンロフロキサシンとクエン酸ビスマスの併用も使用されています〔Fox et al.2001〕。
参考文献
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- Erdman SE,Correa P,Coleman LA et al.Helicobacter mustelae–associated gastric MALT lymphoma in ferrets.Am J Pathol151(1):273‐280.1997
- Fox JG,Correa P,Taylor NS et al.Helicobacter mustelae–associated gastritis in ferrets. An animal model of Helicobacter pylori gastritis in humans. Gastroenterology99(2):352‐361.1990
- Fox JG,Dangler CA,Sager W et al.Helicobacter mustelae–associated gastric adenocarcinoma in ferrets(Mustela putorius furo).Vet Pathol34(3):225‐229.1997
- Fox JG,Marini RP.Helicobacter mustelae infection in ferrets: pathogenesis, epizootiology, diagnosis, and treatment. Semin Avian Exot Pet Med10(1):36‐44.2001
- Marini RP,Fox JG,Taylor NS et al.Ranitidine bismuth citrate and clarithromycin, alone or in combination,for eradication of Helicobacter mustelae in ferrets.Am J Vet Res60(10):1280‐1286.1999
- Otto G,Fox JG,Wu P et al.Eradication of Helicobacter mustelae from the ferret stomach: an animal model of Helicobacter pylori chemotherapy.Antimicrob Agents Chemother34(6):1232‐1236.1990
- Swennes AG,Fox JG.In Biology and Diseases of the Ferret.3rd ed.Fox JG,Marini RP eds.Wiley Blackwell.Hoboken.Bacterial and mycoplasmal diseases:Helicobacter mustelae:p528‐534.2014
- Tolbert K,Bissett S,King A et al.Efficacy of oral famotidine and 2 omeprazole formulations for the control of intragastric pH in dogs.J Vet Intern Med25(1):47‐54.2011
- Torres-Medina A.Isolation of an atypical rotavirus causing diarrhea in neonatal ferrets.Lab Anim Sci.37(2):167–171.1987
- Valheim M,Djønne B,Heiene R,Caugant D.A. Disseminated Mycobacterium celatum (type 3) infection in a domestic ferret (Mustela putorius furo) Vet Pathol38(4):460‐463.2001
- Vilalta L,Espada Y,Majo N,Martorell J.Liver lobe torsion in a domestic ferret (Mustela putorious furo).J Exot Pet Med25(4):321–326.2016