ネブライザー療法とはエアロゾル化された薬物の吸入治療は、透過性膜を透過する薬剤粒子や薬物分解の有無などが深く関与し、その効果は絶対的な効果があるとは言えないかもしれませんが、古くから人医で使用されています。ネブライザー療法は肝臓代謝や腸内細菌叢を崩すようなことも回避できる利点もあり、つまり全身毒性を最小限に抑えて、疾患部位に直接高濃度の薬物が存在するという魅力的な治療法です〔Spink 1986,Smith et al.1995〕。ネブライザー療法は人の気道疾患の治療に広く使用され、医学文献には膨大な数の報告があります。特に副鼻腔術後患者での有用性が唱えられ〔木村ら2002,春名 2002,竹内ら2002,藤原2002〕、CTスコア法によるネブライザー療法の有用性についても報告があります〔竹野ら 2002〕。獣医学では吸入療法に関する文献はまばらですが、存在するものは小動物種よりも馬への治療の報告が多いです〔Boothe 2000〕。しかし、現在は犬や猫の呼吸器疾患の治療でも積極的にネブライザー療法が取り入れられていますが、その手技(ネブライザーの時間)や薬の選択、薬用量などは決まったものはありません。
動物での問題点
生体の呼吸器の防御は、粒子が下部気道(肺)に達するのを防ぐように出来ています。ゴミを吸い込んだ時に咳をするのは、そのためです。ネブライザーのエアロゾル粒子が肺に到達するには、かなりの量を使用しなければなりませんし、粒子の大きさによっては中咽頭に沈着し、肺まで期待する濃度に達しない可能性もあります。もう1つの問題は、人でのネブライザー療法は自発的して吸い込むようにして行われますが、動物では意図的に息止めをしたり、また爬虫類は元々呼吸数が少ない動物なので効果が減少する可能性があります。つまりエアロゾルによる薬物送達には、呼吸数と深さ、息止めの持続時間、1回換気量、および気流速度に依存していることです〔Smith et al.1995〕。
ネブライザー療法で使用される主な吸入器には、ジェットネブライザー、超音波ネブライザー、MDI(Metered dose inhaler)、ドライパウダー(DPI)、ソフトミスト(SMI)の 4種類があります。主に使用されるものはジェットと超音波の2つのタイプになります。機械によって作られるエアロゾル粒子のサイズは、適切な薬物浸透を達成する上で最も重要な要因かもしれません〔Current best practice for nebulisers treatment 1997〕。粒子径に関しては、直径30~70μmの粒子は鼻腔に、20~30μmでは咽頭に、10~20μm では喉頭に、8~10μmでは気管に、5~8μmでは気管支に、3~5μmでは細気管支に、0.5~3μmでは肺胞に沈着します〔境田ら 1998〕。これより小さい粒子は,肺胞に到達しても呼気とともに再び排出されてしまいます〔Spiro et al.1999,Boe et al.2001〕。したがって、正確に治療するには、治療目的や病変部位に応じて粒子の大きさを考慮しなければなりません。機械によって作られる粒子サイズが異なりますが、もちろん薬剤の液滴質量と粘度にもよります。ネブライザーの機械を呼吸器感染症の動物の治療に使用する場合、医原性の感染症を引き起こさないように、デバイス自体の洗浄や消毒には細心の注意を払って下さい。
ネブライザー療法では、治療目的に合わせ、加湿剤、抗菌薬、ステロイド、抗アレルギー薬、気管支拡張薬、粘液溶解薬、血管収縮薬などを単独または併用して使用します。超音波式ネブライザーは、安定性のよい微粒子が比較的均一に得られることから、獣医療でよく利用されています。しかし、薬剤の配合によって霧状のエアロゾルを産生できなくなる場合や、薬剤そのものが超音波で変化することがあり、投薬に問題が生じることがあります。ネブライザー療法に使用する薬剤は液剤でないといけませんので、一般的に吸入用薬剤、点鼻用薬剤、耳科用薬剤が使用されています。これらの薬剤は分類上外用薬ですが、気道に噴霧可能な性状を備え、安定性もよい製品が多いです。他にも注射用薬剤を使用しますが、吸入用薬剤でないと、臭気や味覚が悪くなるものが多く、そして注射用の抗生物質などには、フェノール、亜硫酸水素塩、メチルパラベン、EDTAなどの防腐剤が含まれています。これらの物質は、抗生物質の自発的な無呼吸と嚥下を引き起こす不快な味と臭いを薬に与えます〔Fiel 1998〕。防腐剤は気道の炎症、気管支痙攣、気管支収縮を引き起こし、特に超音波式ネブライザーで使用すると、薬剤の安定性はもとより臭気や味覚などはさらに悪化します。薬の物理化学的性質もエアロゾル化した場合に大きく影響します。表面張力の低い抗生物質は過度に泡立ち、エアロゾル化が減少します。逆に表面張力の高いβタラクタム系抗生物質はエアロゾル化に抵抗性があります〔Smith et al.1995〕。
加湿剤
気道の加湿には、均一で密度の高い小粒子のエアロゾルを作ることが可能な超音波式ネブライザーが最適です。加湿には生理食塩水が使用されます。人の喘息患者では冷蒸留水の吸入が刺激となり気管支痙攣を起こす場合があり〔Wojnarowski et al.1996〕、また、人の特発性慢性鼻炎患者でも冷蒸留水吸入で過換気を急性発症することがあります〔Cogo et al.1998,Dal Negro et al.1992〕。そのため、加湿剤には蒸留水でなく、生理食塩水を用いるべきでしょう。
アミノグリコシド アミノグリコシド系は溶液として超音波の影響は見られず安定しており、苦みや悪臭がなく、安全性も確立されているためによく使用されます。アミノグリコシド系は多くの感染器感染症に対して効果的で〔Bemis et al.1977〕、副作用も少ないです〔Riviere et al.1981〕。一般的な動物病院で行われている犬猫の呼吸器感染症に対するネブライザー療法では、ゲンタマイシンやアミカシンなどの薬剤を全身投与の用量を、生理食塩水で希釈して、1回の15〜30分のネブライザーが行われています。なお、人医で製造および承認されている吸入の抗生物質はトブラマイシン(トタラマイシン)の1つだけで、人の緑膿菌肺炎による嚢胞性線維症患者の適応薬剤です。
ネブライザー療法は鳥の呼吸器疾患の治療において、広く使用されていますが、文献には噴霧療法の具体的な方法や有効性について、明確な記載は見られません。多くは哺乳類の治療に基づいて行われていますが、鳥と哺乳類の間で呼吸の解剖学と生理学に大きな違いがあります。人間の肺胞の直径は0.5~3μm〔境田ら 1998〕、鳥の毛細血管の直径は3〜15μm(鳥種でかなりのばらつきがある)です。つまり肺胞にまで到達するエアロゾル粒子のサイズだと、呼吸粘膜に定着する可能性が低く、呼気とともに排泄する恐れもありますが〔Boothe 2000〕、反対に鳥では血管に吸収する可能性もあります。ネブライザーで使用する薬剤は、全身投与で毒性を示す可能性のある薬物の使用を可能にしますが、エアロゾル粒子の薬剤が実際に鳥の肺や気嚢から吸収されて副作用が出るかどうかは、実際にはあまり研究されていません。しかし、薬物が全身に吸収されない場合でも、ネブライザーのチャンバーの中で鳥の羽毛はエアロゾルの液滴で濡れると、毛づくろいをして薬剤を経口的に摂取します。アムホテリシンBは鳥でのアスペルギルスの治療で使われますが、ネブライザー療法で使用すると、人では気管支痙攣を起こすと言われ、人では推奨されておらず、完全に全身投与のみに限られています〔Boe et al.2001〕。鳥類でのネブライザー療法での抗生物質の使用はアミカシン〔Carpenter et al.2001〕、抗真菌剤はアンフォテリシンB〔Carpenter et al.2001〕、テルビナフィン〔Flammer 2003〕などが、効果は不明ですが、よく使用されています。
薬剤
薬剤
動物種
疾病
文献
アミカシン
50mg/mL生理食塩水
鳥
細菌感染
Carpenter et al.2001
アンホテリシンB
100mg/5ml生理食塩水
鳥
真菌感染
Carpenter et al.2001
7mg/mL 15分 BID
鳥
Martel 2016
0.3-1mg/mL 15分 q6-12h
鳥
Flammer 2003
テルビナフィン
1mg/mL(イトラコナゾールの内服併用)
鳥
Flammer 2003
エニコナゾール
0.1mL/kg 5mL生理食塩水30分 SID 2日休薬 5日間
鳥
Martel 2016
ミコナゾール
2mg/kg 1%生理食塩水 30-60分 SID 5日間
鳥(猛禽類)
Jones 2007
表:鳥でのネブライザー療法で使用する薬剤
爬虫類
爬虫類は、種類による解剖や生理が異なり、ネブライザー療法についての見解も大きく異なりますが、全てがよく分かっていません。爬虫類の呼吸器は同等の質量の哺乳類と同様に10〜20%の機能的呼吸領域を持ち、爬虫類はより大きな肺気量を持っていますが〔Wang et al.1998〕、爬虫類の肺は哺乳類よりも厚い血液空気関門も持っています。気道の解剖学的差異は、気管が曲がりくねっているカメなどでは効果に差が出てきます。呼吸が深くて気道が曲がっていると、同じ粒子でも沈着しなくなります。爬虫類の肺は、実質が不規則に分布している傾向があります。一般的に実質は門の近くで最も密集しています〔Waliach 1998〕。ヘビでは、肺の頭側の1/3がガス交換に関与し、尾側の2/3は気嚢であるためガス貯蔵に関与しています。総括的には、カメは曲がりくねった気管、ヘビは細長い肺の解剖学的構造のために、ネブライザー療法に対する反応が不十分かもしれません。いずれも爬虫類は哺乳類と比べて呼吸数が少ないです。爬虫類は哺乳類の6〜30倍の量の肺の界面活性剤を持っています〔Wang et al.1998〕。界面活性剤はリン脂質で構成され、哺乳類では、界面活性剤は肺コンプライアンスを高めます。爬虫類では、界面活性剤は呼気中に肺上皮表面が互いに付着するのを防ぎ、過度の肺水腫を抑制します〔Wang et al.1998〕。界面活性剤は滲出液が粘液線毛装置に付着するのを防ぎ、繊毛上皮細胞を浸し、栄養を与える役目をしています。爬虫類は外気温動物なため、呼吸はも温度の影響を受け、もちろん血液の粘度、血圧、臓器灌流にも影響を及ぼします。ネブライザー療法では、より深い呼吸をすると、急速な浅い呼吸と比較してより深い浸透を可能にします。爬虫類でのネブライザー療法での抗生物質の使用はアミカシンやゲンタマイシン〔Drew et al.1999〕、ピペラシリン〔Murray 1996〕、セフォタキシム〔Murray 1996〕などが使用されていますが、効果はよく分かっていません。
Boothe DM.Drugs affecting the respiratory system.Vet Clin North Am Exotic Anim Pract3:371-394.2000
Boothe DM,Drug Affecting the Respiratory System.In Textbook of Respiratory Disease in Dogs and Cats.King LG ed.Saunders. St.Louis:p229-252.2004
Boe J,Dennis J,O’Driscoll B.European Respiratory Society Guidelines on the use of nebulisers.Eur Resp J18:228-242.2001
Bemis DA,et al.JAVMA170:1082.1977
Blanshard W,Bodley K.Koalas.In Medicine of Australian Mammals.Collingwood.Vogelnest L,Woods R eds.Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation (CSIRO).Victoria, Australia:p227-327.2008
Chaleva EI,Vasileva IV,Savova MD.Absorption of lincomycin through the respiratory pathways and its influence on alveolar macrophages after aerosol administration to chickens.Res Vet Sci57:245-247.1994
Current best practice for nebulisers treatment.The Nebuliser Project Group of the British Thoracic Society Standards of Care Committee.Thorax.52 Supplement 2.1997
Cogo AL,Ferrari M,Fugagnoli A et al.Hypo-osmolar aerosol induces hyperventilation in chronic non-asthmatic rhinitics.Respir Med92:9-13.1998
Cohn LA,DeClue AE,Cohen RL et al.Effects of fl uticasone propionate dosage in an experimental model of feline asthma.J Feline Med Surg12:91-96.2011
Drew ML,Phalen DN,Berridge BR,Johnson TL,Bouley J,Weeks BR, Miller HA,Walker MA.Partial tracheal obstruction due to chondromas in ball pythons(Python regius).J.Zoo Wildl.Med30(1):151-157.1999
Dal Negro RW,Turco PA,Allegra L.Blood gas changes in nonasthmatic rhinitis during and after nonspecific airway challenge.Am Rev Respir Dis145:337-339.1992
Dyer D,Van Alstine W.Antibiotic aerosolisation:tissue and plasma oxytetracycline concentrations in parakeets.Avian Dis31:677-679.1987
Flammer K.Antifungal Therapy in Avian Medicine.Western Veterinary Conference.2003
Fiel SB.Aerosolized antibiotic treatment of cystic fibrosis.The J.Resp.Care Practitioners11:79.1998
Flammer K.Antifungal therapy in avian medicine.In Western Veterinary Conference.2003
Jones MP.Falconry and raptor medicine.Proc Western Veterinary Conference (WVC).Las Vegas.Nevada.2007
Keeble E,Meredeth A eds.BSAVA Manual of Rodents and Ferrets. British Small Animal Veterinary Association.Gloucester,England:p142-149,288-290.2009
Meredith A.Respiratory disorders.In BSAVA Manual of Rabbit Medicine and Surgery.2nd ed.Meredith A,Flecknell P eds.BSAVA Publications.Quedgeley.Gloucester:p67-73.2006
Martel A.Aspergillosis.In Current Therapy in Avian Medicine and Surgery.Speer BL ed.Elsevier,St.Louis.MO:p63-73.2016
Monks D,Cowan M.Chronic respiratory disease in rats.Proc AAVAC-UP.2009
Murray MJ.Pneumonia and normal respiratory function.In Reptile medicine and surgery.Mader DR ed.WB Saunders Co,Philadelphia.PA:396-405.1996
Perry SF.Lungs:comparative anatomy,functional morphology,and evolution.In Biology of the Reptilia Vol19,Gans C,Gaunt AS eds.Morphology G,Visceral Organs.SSAR:1-92.1998
Riviere JE,et al.JAVMA179:166.1981
Ramsey I ed.Acetylcysteine (Ilune, Parvolex) POM.In BSAVA Small animal formulary (online).7th ed.British Small Animal Veterinary Association.Quedgeley.UK.2011
Smith L,Ramsey B.Aerosol administration of antibiotics. Respiration62(suppl):19-24.1995
Spiro S,MacCochrane G.Airway diseases:pharmacology of the airway.Delivery of medication to the lungs.In Comprehensive Respiratory Medicine7(36).Albert RK,Spiro SG,Jett JR,eds.Mosby.St Louis.MO:1-6.1999
Spink RR.Aerosol therapy.In Clinical Avian Medicine and Surgery.Harrison GJ,Harrison GJ,Harrison LR eds.WB Saunders.Philadelphia PA:376-379.1986
Wojnarowski C,Storm Van’s Gravesande K,Riedler J,et al.Comparison of bronchial challenge with ultrasonic nebulized distilled water and hypertonic saline in children
with mild-to-moderate asthma,Eur Respir J9:1896-1901.1996
Wallach V.The lungs of snakes.In Gans C,Gaunt AS (eds).Biology of the Reptilia Vol19, Morphology G,Visceral Organs.SSAR:93-296.1998
Wang T,Smits AVV,Burggren WW.Pulmonary function in reptiles.In Gans C,Gaunt AS (eds):Biology of the Reptilia Vol19,Morphology G,Visceral Organs.SSAR:297-374.1998
境田康三.人工呼吸中の吸入療法:エアゾール療法.救急医22:1195-1198.1998
鈴木賢二.慢性副鼻腔炎に対する randomized controlled study―エアロゾル療法(セフメノキシム)+ステロイド剤 VS 経口消炎酵素剤投与.耳展45(補1):17-20.2002