鳥の腎臓と尿酸

膀胱が無いって?

泌尿器は腎臓と尿管から構成され、多くの鳥では膀胱を欠きます。腎臓は哺乳類と比べて身体の割に大きく〔Frazier et al.1995〕、一対の左右の腎臓は扁平状で複合仙骨の腹側に位置し、可動性を欠いています〔黒田1963〕。ほとんどの鳥では、腎臓は頭葉、中葉、尾葉の 3葉に分けられ、前葉は肺の尾端に位置し、尾葉は総排泄腔付近まで伸びています〔Canny 1998〕。腎臓の肉眼的解剖学的構造は鳥種によってさらなるバリエーションがありますが、各葉内には多数の腎小葉があり、それぞれに皮質と円錐形の髄質が含まれ、鳥類の特徴としてヘンレループの有るものと無いもの 2 種類のネフロンが存在することである〔Casotti et al.2000〕。ヘンレループは尿濃縮能を有するが、鳥類では一個体の中でも全部のネフロンにループがあるとは限らず〔Casotti et al.2000,Frazier et al.1995,Lumeij 2000,Wideman 1988〕、尿濃縮機能が哺乳類と比べて劣ります〔Casotti et al.2000〕。各葉からの尿管が合流して、直接、尿生殖道へ尿が排泄されます。

白いのは尿酸

鳥類では窒素代謝の最終生成物として尿酸が生成されます〔Casotti et al.2000〕。これは鳥が尿からの水分の損失を最小限に抑えるための適応で、尿酸は浸透圧的に不活性であるため、この窒素含有廃棄物を排泄するのにほとんど水は必要ありません〔Casotti et al.2000〕。したがって、腎不全に罹患すると、尿酸が身体内に貯まって高尿酸血症になり、いわゆる痛風と呼ばれる病態になります。

腫瘍で麻痺?

鳥の腎臓は後肢に連絡する腰仙椎神経叢に密着し、膝関節の伸筋と脚の内転筋、下腿および一部の近位脚の筋肉の支配をしています〔Orosz 1997〕。腎臓腫瘍などにより脊髄分節への圧迫が起こると、脚弱を引き起こしやすいです〔Orosz 1997,Dubbeldam 1993〕。

注射は注意!

鳥類の腎臓のもう 1 つのユニークな特徴として、哺乳類には存在しない腎門脈と呼ばれる大量の血液を腎臓に運ぶ血管経路があることです。脚からの外腸骨静脈が坐骨静脈と結合して総腸骨静脈となり、腎臓の後方で尾腸間膜静脈と連絡して、腎門脈を形成して腎臓に流入します〔Wideman 1988〕。腎門脈は後躯の血流をすべて腎臓に流入させ、排泄能力を高めると言われています〔Lumeij 2000〕。ただし、総腸骨静脈には腎門脈弁があり、血液を腎臓に向けたり、腎臓を通過させたりすることができます。例えば、総腸骨静脈内の腎門弁が開いている場合、脚からの静脈血は尾大静脈に直接短絡され〔Lumeij 2000〕、腎門弁が閉じると静脈血が腎臓に向かいます〔Larochelle et al.1992〕。腎門脈のために、脚ならびに後駆からの血液が腎臓に直接送られるため、腎毒性あるいは腎排泄のある薬剤の影響を考慮する必要があります〔Steinhort 1999〕。したがって、一般的な鳥の注射は上半身に投与されるべきです。

逆蠕動

膀胱を欠く鳥類は、尿管内の尿は尿生殖洞に流れ込み、そこで総排出腔への逆蠕動が起こり、総排出腔と盲腸に尿が逆流して、水および電解質が再吸収されます〔Braun 1999,Son et al.2001〕。再吸収される水の量は、鳥種によって大きく異なりますが、いずれにせよ、腸炎などの病気は下痢を超えた水分と電解質のバランスに悪影響を与える可能性があり、罹患した鳥を治療する際には考慮すべきです。

参考文献
■Braun EJ.Integration of renal and gastrointestinal function.J Exp Zool283:495-499.1999
■Canny C.Gross anatomy and imaging of the avian and reptilian urinary system. Sem Avian Exot Pet Med7(2):72-80.1998
■Casotti G,Braun EJ.Renal anatomy in sparrows from different environments.J Morphol 243:283-291.2000
■Casotti G,Lindberg KK,Braun EJ.Functional morphology of the avian medullary cone.Amer J Physiol Reg Integ Comp Physiol279:R1722-R1730.2000
■Dubbeldam JL.Systema nervosum periphericum.In Handbook of Avian Anatomy:Nomina Anatomica Avium 2nd ed.Baumel JJ,King AS,Breazile JE et al eds.Nuttall Ornithological Club.Cambridge.MA:p555-584.1993
■Frazier DL,Jones MP,Orosz SE.Pharmacokinetic considerations of the renal system in birds: part I. Anatomic and physiologic principles of allometric scaling.J Avian Med Surg 9:92-103.1995
■Orosz S.Anatomy of the central nervous system.In Avian Medicine and Surgery. Altman RB et al eds.WB Saunders.Philadelphia:p454-459.1997
■Son JH,Karasawa Y.Effects of caecal ligation and colostomy on water intake and excretion in chickens. Br Poultry Sci42(1):130-133.2001
■Steinhort LA.Avian fluid therapy.JAMS13:83-91.1999
■Lane RA.Avian urinalysis a practical guide to analysis and interpretation.In Diseases of Cage and Aviary Birds 3rd ed.Rosskopf WJ,Woerpel RW eds.Williams and Wilkins.Baltimore:783-794.1996
■Larochelle D,Morin M,Bernier G.Sudden death in turkeys with perirenal hemorrhage:pathological observations and possible pathogenesis of the disease. Avian Dis36:114-124.1992
■Lumeij JT.Pathophysiology,diagnosis and treatment of renal disorders in birds of prey.In Raptor Biomedicine III.Lumeij JT et al eds.Zoological Education Network.Inc. Lake Worth FL:p169-178.2000
■Wideman RF.Avian kidney anatomy and physiology.CRC Critical Rev Poult Biol 1:133-176.1988
■黒田長久.鳥類の腎臓の諸型.山階鳥類研究所研究報告3(4):274-286.1963

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。