【病気】鳥のマクロラブダス症(メガバクテリア)

メガバクテリアはカビ

メガバクテリア(Megabacteria)とは、メガ(Mega):大きい+バクテリア(Bacteria):細菌という意味で、一昔前は巨大な細菌として考えられていました〔Razmyar et al.2016〕。しかし、後に真菌であることが分かり、酵母の一種として分類されるようになりました。学名はMacrorhabdus ornithogaster(マクロラブダス・オルニトガスター)であるため、マクロラブダスとも呼ばれます。鳥の胃の中に感染することから、AGY(Avian:鳥、Gastric:胃、Yeast:酵母)とも呼ばれています〔Tomaszewski et al.2003〕。一般的に鳥は胃が2つあり、メガバクテリアは腺胃(前の胃)と筋胃(筋の胃)の狭い中間帯にのみ感染し、増殖します。まっすぐな棒状の形状をしており、長さ20〜80μm、幅2〜3μm、端は丸くなっています〔Phalen 2014〕。メガバクテリアに感染して症状が発現すると、嘔吐、食欲不振、便の異常などが見られ、削痩します。

メガバクテリア

感染

同居の鳥の糞との接触、オスの求愛によるメスへの餌の口移し、親鳥が雛に給餌する際に吐き戻した餌の中のメガバクテリアによって感染します。

発生鳥種

感染は、ニワトリ、シチメンチョウ、ダチョウ、オウム目、スズメ目ならびにフィンチを含む広範囲の鳥種で報告されています〔Phalen 2014〕。最も問題となるのはセキセイインコで、メガバクテリアに感染すると、多くは発症して死亡することも多いです〔Püstow et al.2017〕。某疫学的検査では、胃病変のあるセキセイインコ175頭中89頭(50.9%)が剖検時にメガバクテリアが検出されました〔Reavill et al.2011〕。他にもルリハインコ属、カナリア、キンカチョウも感受性を持っていますが〔Sullivan et al.2017〕、発症率などはセキセイインコほどではありません。ダチョウ〔Marinho et al.2004〕、カナリアやキンカチョウ〔Nelson Rodrigo da Silva Martins et al.2006〕では発症した個体の解剖報告がなされています。ブンチョウ、ボタンインコ属にも検出されることがありますが、重篤な障害になることは稀です。 また、オカメインコの幼鳥に検出される場合、免疫低下や腸内細菌叢の不均衡が疑われますが、難治例は少数です。

病態

鳥の胃は胃酸を分泌する腺胃(前胃)と餌を磨り潰す筋胃(後胃)の2つに分かれています。メガバクテリアは腺胃と筋胃の移行部である中間帯の粘膜腺に潜んでいます〔Borrelli et al.2015 〕。メガバクテリア自体は病原性が弱く、胃に対しては弱い炎症を起こすだけで、健康あるいは体力がある鳥では、顕著な症状が現れませんが(不顕性感染)〔Rossi 2000〕、症状が発現するには栄養のアンバランス、繁殖や換羽などの体の変化、他の感染症や内臓疾患、輸送や温度変化などのストレスなど鳥の体調(感受性及び免疫状態)が大きく影響し、その症状を強くします。そのためメガバクテリアによる症状や進行具合は様々です。報告されている病理学的所見には、前胃および後胃の炎症や潰瘍形成、コイリン破壊、膵臓の萎縮や壊死が含まれます〔Henderson et al.1988,Kheirandish et al.2011,Schmidt 2015〕。メガバクテリアの感染を受けた鳥でも、臨床的に健康であるように見えながら、糞便とともに真菌を環境に排出し、一方で病状が見られた鳥は真菌を環境に継続的に放出しないこともあります〔Borrelli et al.2015〕。

不顕性感染

1歳未満の幼若鳥に不顕性感染が多いです〔平野ら 2019〕。他の病気が少ない年齢で、体力並びに免疫力が強いことが考えられます。無症状であっても、少し削痩していることが多いです。そして、糞にメガバクテリアを持続的あるいは断続的に排出しているため、健康診断においてメガバクテリアが陽性と診断されることも珍しくはありません〔Lanzarot et al.2014〕。糞にメガバクテリアを排出している状態だと、同居や接触した他の鳥へ感染する恐れがあります。感染した鳥はどのタイミングで免疫が低下して発病するかは予測ができません。繁殖は体調の変化をもたらし、メガバクテリアが増殖する要因になります。


セキセイインコ

発病

メガバクテリアが増殖すると胃炎や胃潰瘍を起こします。嘔吐が見られ、胃潰瘍により便が黒色のメレナになります。腺胃において胃酸を減少させ、胃内のpHが上がり、消化不良をもたらします。他の病気ならびに感染症を併発します〔Rossi 2000, Phalen 2006〕。また、腺胃が拡張して餌が停滞することもあります。筋胃は餌を磨り潰す作用がありますので、メガバクテリアの感染で胃の内膜に障害が起こると、餌の磨り潰すことができなくなり、種子粒がそのまま便に排泄されますて(完穀便)〔Rossi 2000, Gerlach 2001〕。症状は、嘔吐、体重減少ならびに削痩、便の異常、活動性も低下します〔Baker 1977,Henderson et al.1988、Phalen 2006,Schmidt 2015,Snyder et al.2014〕。これらの症状は、全ての鳥で必ず見られるわけではなく、一つだけのこともあるし、毎回症状が変わることもあります。

メガバクテリアの症状

  • 嘔吐
  • 食欲不振
  • 糞の異常(メレナ/完穀便)
  • 体重減少/削痩
  • 活動性の低下

嘔吐・食欲不振

胃炎や胃潰瘍がにより嘔吐を起こし、吐きちらした吐物により顔が汚れます。まれに、吐血をすることもあります。

セキセイインコ嘔吐

便の異常

病態により、軟便・下痢、黒色便(メレナ)、未消化便(完穀便)などが見られます。

軟便・下痢

糞塊が形を保っていない軟便になることが多く、肛門周囲や尾羽に糞が付着します。水様性の下痢になることもあります。

未消化便

餌の種子粒が磨り潰されずに半摩りのまま便に排出されます。完全に粒が消化されずに排出されると完穀便とも言われます。

黒色便

胃潰瘍から出た血液は、時間の経過とともに黒色になります。それが糞の色を黒くするので黒色便になります。

インコ黒色便

体重減少/削痩

メガバクテリアの詳細が明らかになっていない昔は、Going light(どんどん痩せていく)、Thin bird disease(やせ細る鳥の病気)と呼ばれていました〔Baker 1985〕。嘔吐や軟便・下痢を起こすので、当然痩せてきます。特に胸筋が細くなり、胸を触ると尖った状態になっています(キールスコア)。

インコ痩せている

鳥の栄養評価 (キールスコア) の詳細な解説はコチラ!

活動性の低下

活動性の低下、嗜眠、膨羽の時間が長くなります。

発病の進行

メガバクテリアによるセキセイインコでの症状は、急性型ならびに亜急性型、慢性型の臨床症状が報告されています〔Henderson et al.1988,Phalen 2006,Snyder et al.2014〕。

急性型

急性型はセキセイインコのみに報告されています。突如ぐったりして 膨羽させ、1~2日以内に死亡します〔Phalen et al.2002〕。急死の原因は腺胃からの過度の吐血による失血死、重度の胃潰瘍による胃穿孔が考えられています〔Gerlach 2001〕。

亜急性型

1才未満の幼若鳥に多発します。嘔吐、食欲不振、便の異常、活動性の低下等の症状が見られます。

慢性型

多くは1歳以上の成鳥あるいは中高齢の鳥で一般的に見られ〔Baker 1977,Phalen 2006〕、いわゆる Going lightと呼ばれる、慢性的にどんどん痩せて行く状態になっています。来院する時点で症状が出てからすでに数ヵ月経過していることもあります〔Baker 1985〕。食欲はありますが、胃の障害により栄養を吸収できないために痩せています。慢性型になると、治療によりメガバクテリアがいなくなっても胃の障害が元に戻らず、薬に対する反応も悪くなり、予後不良です〔Gerlach 2001,Baker 1985〕。また、メガバクテリアの感染した胃は胃癌に進展しやすいと報告されています〔Powers et al.2019〕。

検査・診断

顕微鏡による糞便検査にて、メガバクテリアの検出を行います。糞便への排泄量と症状の強さには、必ずしも比例しません。

間欠的に糞便中に排出されることもありますので、メガバクテリアに感染している鳥の約15%は糞便中にを排出されないとも言われ、何度も繰り返して検査をすることがあります。最も確実性の高い検査は腺胃の拭い液の採取、およびバイオプシー(細胞を採取する方法)ですが、鳥に負担が大きく現実的な方法ではありません。

胃の中間体潰瘍病変
拭い液の細胞診像

 糞からの遺伝子(PCR)検査もできるようになりました。

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治療・対応

鳥種によって感受性と発病が異なりますが、セキセイインコ、マメルリハ、キンカチョウは治療対象とし、ラブバード、オカメインコ、ブンチョウでは、現在のところ不要となっています。一般的には抗真菌薬であるアンホテリシンを投与しますが、耐性株がオーストラリアで発見されました〔Phalen 2006〕。耐性も報告されていることから、糞便検査で菌の検出を確認しながら、薬効を監視する必要があり、ナイスタチンなどの抗真菌薬も投与されることがあります。安息香酸ナトリウムまたは安息香酸カリウムも治療法として使用できます〔Hoppes 2011)。 ベンズイミダゾールなどの駆虫薬も抗真菌効果を持つ可能性があることも知られています〔Chatterji et al.2011〕。

メガバクテリアは早期発見・早期治療が重要です。発見が遅れ、胃の障害が大きいと メガバクテリアが糞便中から消失しても症状が治らないです。メガバクテリアは胃の粘膜に侵入するため、排泄量が少なくても、再感染もするため、必ず掃除をしたほうが良いでしょう。メガバクテリアの排除と平行して、胃炎や胃潰瘍、吐き止めの薬、整腸薬の投与が必要なこともあります。

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糞便中にメガバクテリアが消失しても、胃粘膜内に侵入して残っていることもあるため、長期間の投与が必要になります。問題となるのは、各種の抗真菌剤がまったく効果を来たさない薬剤耐性と考えられるメガバクテリアと、免疫を低下させている他の感染症です。消化が悪くなっている慢性型に至った鳥では消化の良いペレットを餌とするのが理想ですが、シード派の鳥では以下のような商品がお勧めです。

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予防

メガバクテリアは親鳥からの感染が最も多いため、予防はとても難しいです。同居鳥にキャリアーの鳥がいる場合は、隔離して接触を防いで下さい。ケージや巣箱などは、糞をしっかりと取り除いて、抗真菌作用のある洗剤で消毒や洗浄をしましょう。

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メガバクテリアは完治が難しいです。免疫を上げることも発病させないという考えもあります。

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これがポイント!

・メガバクテリアとは真菌で、AGYあるいはマクロラブダスとも呼ばれている
・鳥の胃の中に感染し、免疫が低下すると発症し、嘔吐、食欲不振、便の異常が見られ、痩せる
・鳥の種類によって病状が異なり、特にセキセイインコには発病しやすく、深刻な問題なりやすい
・日本ではかなり蔓延している

もっと鳥を勉強したい時に読む本

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参考文献

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  • Baker JR.Megabacteria in diseased and healthy budgerigar.Vet Rec140(24):627.1977
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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。