【病気】鳥のそ嚢とそ嚢疾患

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そ嚢

鳥類の消化管のうち食道が憩室状に膨らんだものが、そ嚢(嗉嚢)です。鳥は哺乳類のような食道括約筋が発達しておらず〔Klasing 1999〕、食道が咽喉の近くで管壁が筋肉質になり、膨らんだ形状になって、そ嚢を作ります〔Taylor 2000〕。そ嚢は主に食物の一時的な貯蔵場所になり、消化は基本的には行われません。食物を貯留することで、水和ならびに軟化させます。また、唾液や細菌の作り出す酵素によって食物の分解が開始され、消化を助けることも行います。

構造と形状

そ嚢は結合組織によって皮膚と鎖骨と一緒に覆われ、胸骨の頭側に筋肉で付着して憩室を作っています〔Kobryń et al.2004〕。そ嚢の形態は厳密に種に依存していますが、基本的に食道は気管の右側を走行しています。一般的に穀食性の鳥で最もよく発達し、肉食性の捕食する鳥よりも大きなそ嚢をしています。昆虫食の鳥ではそ嚢がない種類もおり、またフクロウ(ワシやタカはある)、ガンカモ、オオハシ、カモメ、ペンギン、ガチョウ(ニワトリはある)などの仲間にはありません〔Stevens et al.1998〕。フィンチのそ嚢は貧弱で、わずかに膨らんでいる程度です。

穀食性のオウム目の鳥では頸部を横切って伸びて2つの大きな憩室になっています。

ハトは気管の両側に2つの大きな憩室作り、正中側に小さな拡大部があります〔Niethammer 1933,McLelland 1990,McLelland 1993,Lumeij 1994〕。

鵜などの魚食性の鳥のそ嚢は、一時的に膨張するようなゴム袋状をしています。ハゲワシなどの死肉を食べる鳥では、エサが大量にあるときでもできるだけ多く食べるため、その結果、そ嚢が巨大に膨らみます。

機能

鳥のそ嚢は餌を貯蔵するだけでなく、多くの雑食性および草食性の鳥では、微生物発酵によってpH値を下げ、病原体に対する機能的障壁に大きな役割を果たします。さらに、最近のデータは、この消化管セグメントが鳥の自然免疫系の調節に重要な役割を果たしている可能性があることを示唆しています。一部の鳥類のそ嚢では、そ嚢乳を分泌します。これは哺乳類でいう母乳的なもので、親鳥がヒナに与えるため、高い栄養素とエネルギーを含有しています。フクロウオウムとツメバケイでは、そ嚢の筋層が発達しており、餌の機械的粉砕に役立てています〔Szarski et al.1987〕。ライチョウ、ツル、ハトのいくつかの種では、そ嚢や食道憩室は、共鳴チャンバーおよびディスプレイとして求愛に使用されます〔Farner 1960,Lumeij 1994,Kobryń et al.2004〕。

貯蔵

鳥のそ嚢の大きさと形状は、種固有の特徴があります〔Godoy-Vitorino et al.2008〕。これは、鳥の餌、環境、行動への進化的適応、つまり外敵からの襲撃などのストレスの多い環境では、急いで餌を摂取し、その後の安全な避難所での消化に役立てています〔Gelis 2006〕。鳥は体重と比較して腺胃と筋胃の容積が比較的小さいため、一時的な消化物貯蔵のためにそ嚢を発達させました。特に雛は親から与えられた餌を保存するために重要な役割を果たします〔Lumeij 1994〕。親鳥は、部分的に消化された食物をそ嚢にしばらくそ嚢に保持することで水分により柔らかくし、それを吐き戻して雛に餌を与えます。また、そ嚢に餌を貯めておくことで少しずつ胃に送り、体温を維持しているのという役割もします〔Kierończyk et al.2016〕。

ハトミルク

ハトおよびフラミンゴは、雛に与えるためのそ嚢乳と呼ばれる物質が親鳥のそ嚢から分泌されます〔Gillespie et al.2012〕。この物質はコウテイペンギンでも生成されますが、そ嚢でなく食道から分泌されます〔KirkBa​​er 1999〕。抱卵期の後半になると雌雄ともにプロラクチンの分泌によって、そ嚢腺の過形成を引き起こし〔Riddle et al.1933〕、剥離した上皮は食物と混合されて半固体物質のそ嚢乳を作り、それをヒナに口移しで与えます。これがいわゆるハト/ピジョンミルク(Pigeon milk)と言われています〔Kirk Ba​​er 1999〕。そ嚢乳は、高タンパクならびに高脂肪で、50〜60%のタンパク質(乾物中)と32〜45%の脂肪(トリグリセリド、リン脂質、コレステロール、遊離脂肪酸など)の組成で、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム(粗灰分:4.4~4.8%)も含まれています〔Davies 1939〕。これは、哺乳動物の乳汁のように、孵化後の期間に必要な免疫グロブリンやサイトカインなどの免疫調節因子も含んでいます〔Wagstrom et al.2000,Stelwagen et al.2009〕。ハトの雛は育すう期が短く(種によっては10〜40日)、そ嚢乳は消化しやすく、高エネルギーで、免疫グロブリンが豊富なことで、雛の成長に役立っています〔Goudswaard et al.1979〕 。分泌物の免疫調整因子とは、トランスフェリン、糖タンパク質(ラクトフェリン様物質)、特定の成長因子であるピジョンミルク成長因子(PMGF)などの生物活性物質になります〔Frelinger 1971,Shetty et al.1992, Shetty et al.1993,Wally et al.2007〕。なお、フラミンゴのそ嚢乳は、カンタキサンチンが豊富です〔Lang 1963〕。

発酵および常在菌

そ嚢は消化・分解にはほとんど関与しませんが、常在細菌があります。これらの細菌は発酵によって消化物のpH値を下げ、フィターゼ(フィチン酸を分化してリンを生成する)および微生物アミラーゼ(デンプンの分解)、β-グルカナーゼ(多糖 であるグルカンを分解してグルコオリゴ糖またはグルコースを生成する)などの様々な酵素の活性に役立ちます。そ嚢内の細菌による酵素はpH4.0〜6.0で最も活性を示します〔Coughlan 1985.Ademark et al.2001,Beauchemin et al.2003,Greiner et al.2011〕。

嚢常在菌

そ嚢に生息する微生物叢の大部分は、ラクトバチルス(Lactobacillus)属菌で〔Salminen et al.1993,Mack-ie et al.1997〕、代表的なものには、L.salivarius,L. fermentum,L.reuteri,L.acidophilusなどになります。その他、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属などで構成されています。孵化後わずか1時間でこれらの細菌がコロニーを形成され、細菌叢は非常に安定し、そ嚢に恒久的に付着しています〔Kierończyk et al.2016〕。ツメバケイなどの一部の鳥類では、そ嚢の微生物含有は牛などの反芻動物のルーメンに似ており、Bacteroidetes,Firmicutes,Proteobacteriaなどの細菌が優勢です〔Godoy-Vitorino et al.2012〕。

栄養吸収

血管の存在を介した栄養吸収も報告されていますが〔Bolton 1965〕、この特性は、僅かあるいは最小であるため、見過ごされがちです。一部の研究者は、グルコース〔Bolton 1965,Pritchard 1972〕、スレオニン(アミノ酸)〔Teekell et al.1967〕およびβ-カロテン〔Sibbald et al.1959〕が餌から直接吸収される可能性を示唆しています。それとは対照的に、有害なボツリヌス毒素は吸収されないという防御機能をもあります〔Leasure et al.1940〕。

そ嚢疾患の症状

そ嚢の疾患になると嘔吐が見られます。鳥は横隔膜ないため、嘔吐は消化管の逆蠕動、そ嚢の急激な収縮および腹部筋肉によって引き起こされます。インコやオウムでは、口を開け、首をしゃくりあげるような行動を見せ、消化管内容物を口腔内へ排出し、吐物量が少なければ、そのまま飲み込んでしまうこともありますが、多くの場合は頭を左右に水平に振ることによって、周囲へ吐物を撒き散らします。この時、吐物は胃液やそ嚢粘液を伴っているため、頭部の羽毛に 吐物が付着し、羽毛が不正に逆立ったようになります。必然的に食欲不振ならびに体重減少も見られます。

ケージ全の中に吐物が付いて発見されることがあります。

特に、吐き戻しはするしないにせよ、しゃっくりあげるような首を上下に動かす行動をえずき(嘔吐き)と言います。フィンチでは吐出することは少ないですが、頚をしゃくりあげるような行動は目立たなく、頭部を水平に震わせる行動を何度かして少しずつ吐出します。その理由はフィンチのそ嚢は首の右側に位置して貧弱なため、容易に食物を排出できるため、吐出に大きな動作が必要ないためと考えられています。

生理的な発情吐出

鳥では生理的に起こる嘔吐(吐出)があります。インコやオウムのオスは、発情期の求愛行動として、食物を吐出してメスに与えるといった行動をとります。特にセキセイインコのオスに多く見られます。また、インコ・オウムのメスは、発情期終了後、または抱卵期終了後に、雛がいなくても育すう期にも吐出が見られます。いずれも同居鳥がいないと、おもちゃや止まり木などを対象者として認識して吐き戻します。

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そ嚢検査

そ嚢の検査は、肉眼での観察および触診、そ嚢液の吸引物の細胞診検査が行われ、X線検査やCT検査では異物の確認をします。時に微生物検査で細菌の培養と感受性が推奨されます。

肉眼

そ嚢の大きさと羽毛をかき分けて、皮膚を介してそ嚢が充血などをしているか確認できます。

触診

そ嚢炎で液体やガスが貯留しており、波動感を持ち、そ嚢の過度の拡張ではうっ滞を起こし、硬く触れることもあります。また、異物や腫瘤が触診で確認されることもあります。

そ嚢液検査

そ嚢液をゾンデを使用して採取し、色彩、粘稠性、pH、臭気を確認し、顕微鏡検査で細菌、真菌、寄生虫を確認します。しかし、そ嚢が餌で充満している時は検査の正確性が落ちるため、そ嚢内容が少ないか、または無い時に行うべきです。そ嚢液採取による検査は鳥の一般検査ですが、保定が必要になるので、呼吸に異常が無いことが条件になります。

色彩

そ嚢液の色調は、摂取した餌の内容物の影響を受けますが、基本的にそ嚢内に餌が無ければ透明です。茶褐色~赤褐色だと、出血を伴うそ嚢炎の可能性がありますが、肉眼でそ嚢を観察すると充血しているはずです。異常がない場合は胃からの出血の逆流が強く疑われます。白濁していると、そ嚢内での細菌の増殖が疑われます。

粘稠性

そ嚢液の粘稠性は、通常ほとんどありませんが、繁殖期にはそ嚢からの粘液分泌増加や腺胃内の餌も吐き戻すため、粘稠性がでてきます。発情していない時や病気の時に粘稠性が高い場合には、細菌や真菌による酸敗や発酵、トリコモナスの感染、デンプンの糊状化、胃液の逆流などが考えられます。

pH

そ嚢内のpHは環境やエサの種類にもよりますが、pHの変動が大きく、健康なニワトリでは4.0~7.8の範囲です〔Herpol et al.1967,Józeak et al.2008,Józeak et al.2011,2014〕。そ嚢内の正確なpHを測定するのは難しいです。そ嚢液採取において生理食塩水を使うため、通常は中性に近くなります。しかし。pHが酸性に傾いていると、細菌の増殖や胃酸の逆流、またはそ嚢うっ滞による腐食などが考えられ、異常な乳酸発酵が起こります。pHがアルカリ性に傾いていると、カンジダの増殖や細菌によるアンモニアの発生が考えられます。

臭気

正常なそ嚢液は無臭~やや酸臭がある程度です。強い酸臭や腐敗臭があると細菌の増殖、アルコール臭があるとカンジダの増殖が考えられます。

そ嚢疾患

そ嚢炎

嘔吐を示す疾患としてはそ嚢炎が有名です。そ嚢に細菌、真菌、寄生虫が感染して炎症を起こすものですが、口内炎に続発して発生したものが多いです。また、鳥のそ嚢内には細菌が常在していますので、病気の判断が難しいです。単一の菌のみ増殖していたり、または菌数が多い場合は異常である可能性が示唆されます。しかし、菌数は、そ嚢内に餌があるかどうかによっても変化し、またそ嚢液を採取する際の、生理食塩水の注入量によっても変化します。これらの所見が見られても、無兆候であればそ嚢炎の診断にはならないです。

そ嚢炎では、粘稠性が高い悪臭のするそ嚢液に変性し、菌の確認や異常な数以外にも、出血や炎症性細胞の出現を伴います。

出血(赤血球)
白血球

また、そ嚢液検査で真菌(カンジダ)が分離されることがあります。発生には熱変性したデンプンの摂取や免疫力の低下などが関与していることが多く、直接的な原因というより、二次的な増殖で発生します。

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そ嚢炎の診断には、細菌以外にも炎症性細胞の出現があるか、嘔吐や食欲不振等の消化器症状があるか、そ嚢の視診や触診で炎症が疑える所見があるか見て、総合的に判断しなければならなりません。その他にも胃のトラブルなど様々な原因で嘔吐が起こりますので、その他の鑑別すべき疾患を見つけることができずに、そ嚢炎と診断されてしまっている可能性があります。

トリコモナス感染症

鳥ではTrichomonas gallinaeおよびTetratrichomonas gallinarumがの2種類のトリコモナス種が検出され、一般的に口鼻腔または消化管、気道の前端に寄生しています。T.gallinaeはそ嚢液検査で、T.gallinarumは糞便検査で発見されます〔Stabler 1954〕。T.gallinaeは特にハト目とハヤブサ目に多発し、主要な疾患として有名です〔Stabler 1954〕。口鼻腔または上部消化管、気道の前端に寄生し、症状は嘔吐や上部消化管膿瘍を示します。初期の病変は、口腔内の小さな白~黄色を帯びた領域が軟口蓋に現れます(プラーク)。病変は粘膜表面の炎症と潰瘍で構成され、次第に病変の大きさと数は増加し、嘴の周りを濡らしたり、悪臭を放つようになります。この口腔内の炎症がそ嚢に蔓延することでそ嚢炎が起こります。また、増殖したプラークは、嚥下や呼吸困難を起こすこともあります〔Park 2011〕。まれにプラークは肝臓や他の臓器にまで蔓延することもあります〔Stabler 1948〕。 特にハトは病原性種に寄生を受けると二次的に内臓への侵入の影響を受けやすくなります。感染した鳥は、トリコモナスの非病原性種による感染もありえるため、無症状であることもあります〔Amin et al.2014〕。トリコモナスの病原性、また鳥の感受性も大きく異なるため、発病に大きく影響します。また、感染から回復した成鳥はまだ寄生虫の感染を受ける可能性がありますが、再感染には耐性があります。

一般的なトリコモナス症は、主に幼鳥の病気として発現します。ハトでは、この病気はCankerとも呼ばれます。ハト、特にカワラバトは、T.gallinaeの主要な宿主であり、トリコモナスの世界的な蔓延の原因になっていると考えられています〔Stabler 1954, Harmon et al.1987,Bondurant et al.1994〕。タカやハヤブサなどの猛禽類もT.gallinaeに感染しやすく〔Krone et al.2005〕、フラウンス(Frounce)とも呼ばれています〔McDougald 2008〕。そして、2005年以降にイギリスにおける野生のスズメ目ならびにフィンチの鳥で鳥トリコモナス症の新興感染症(フィンチトリコモナス症)が発生し大きな問題となりました〔Forrester et al.2008〕。さらに 鳥の渡りの性質から(Lawson et al.2011b)、ドイツ北部、カナダ東部、イギリス諸島、フランス、スロベニアなどいくつかの地域でも流行の発生が起こっています〔Peters et al.2009,Forzan et al.2010,Neimanis et al.2010,Gourlay et al.2011,Lawson et al.2012,Zadravec et al.2012,Lehikoinen et al.2013〕。野生のスズメ目における致命的な新興感染症の最近の出現により、T. gallinaeがより大きな注目を集めました〔Amin et al.2014〕。しかし、前述の鳥の種と比較して、七面鳥〔Hawn 1937〕やニワトリ〔Levine et al.1939〕のようなキジ目は、トリコモナスの自然発生はごくわずかしか報告されていません。

イギリスのフィンチトリコモナス症

イギリスのスズメ目でトリコモナス症は、2005年に最初に認識され、カワラヒワの仲間が大きな影響を受けて死亡し、フィンチトリコモナス症と呼ばれました〔Robinson et al.2010〕。T. gallinaeの単一のクローン株が、その流行による原因でした〔Lawson et al.2013〕]。最初のエピデミックの発生は、2006年の夏の終わりで、アオカワラヒワ の個体数の約35%、ズアオアトリが約20%減少したことでした。発生率が最も高いのはイングランドの地域でした〔Robinson et al.2010〕。アオカワラヒワとズアオアトリはどちらもイギリス全土で広く分布し、特に秋と冬に見かけます〔Cannon et al.2005〕。流行した最初の年だけで、約50万頭のアオカワラヒワが死亡したと推定されました〔Robinson et al.2010〕。 エピデミックによる死亡率は2007年も続き、前年と同じ顕著な季節的ピーク(8~9月)も見られました〔Lawson et al.2011〕。

一方で、 T.gallinarumはウズラなどのキジ目およびアヒルやガチョウなどのカモ目の盲腸ならびに大腸によく見られ、軟便や下痢を示します〔Levine 1985,Friedho et al.1991,Bondurant et al.1994〕。ペットの鳥のトリコモナス感染症は、ブンチョウやカナリヤなどのフィンチ、セキセイインコ、オカメインコに見られ、食欲不振やそ嚢炎、下痢などを起こします。特にブンチョウなどのフィンチの幼鳥の上部消化管の寄生により、口腔からそ嚢にかけて、壊死性潰瘍プラークを形成し嚥下困難や吐き気の原因となります。時に中耳にまで及び鼓膜の突出、内耳が侵されると斜頸が見られます。
トリコモナスは、運動性のある栄養型(栄養体)が特徴で、単純な二分裂によって増殖しますが、耐性のあるシストを増殖しません。診断はサンプルの顕微鏡検査による栄養体の確認で、T.gallinarumは糞便、 T.gallinaeトはそ嚢液や上部消化管膿瘍をサンプルとします。なお、栄養体に加えて、偽嚢胞が形成されることも報告されています〔Friedho et al.1991,Mehlhorn et al.2009〕。

感染した鳥は、ヒナへのエサやり、 ハトではピヨンミルクの給餌〔Stabler 1954〕、求愛行動の給餌、 猛禽類は獲物の鳥から感染する可能性があります〔Bondurant et al.1994〕。同居鳥へは 汚染された飲料水などです。栄養体は宿主から排泄されると死滅しますが〔Bondurant et al.1994〕、水道水では約8時間〔Erwin et al.2000〕、 特定の実験室条件下で最大120時間〔Amin et al.2010〕生存します。感染した鳥の、エサ入れや水容器、ケージの掃除は頻回に行い、同居鳥とは隔離した方がよいでしょう。

そ嚢うっ滞/そ嚢アトニー

そ嚢の餌が大量に貯留して吐き戻しも胃への移動できずに、うっ滞を起こしてそ嚢が拡大します。

そ嚢うっ滞は、単独の病因で発生するというよりも、複数の原因または全身性疾患の続発性である可能性があります。カンジダが分離されることも多いです。餌のうっ滞の結果、発酵ならびに唾液などの貯留も起こり、液体やガスが溜まることもあります。発酵が異常に進むと、そ嚢液は酸性に傾くため、pH値を低下させ〔Hilmi et al.2007〕、pH3.7まで低くなる可能性があります(サワークロップ:Sour crop)〔Bolton 1965〕と呼ばれます。一般的にはヒナのさし餌の過剰頻度で起こりやすく、食欲不振や呼吸困難、嗜眠が見られます。

そ嚢が何らかの原因で収縮しなくなり、貯留した餌によってそ嚢が拡張することを、そ嚢アトニーとも呼ばれます。原因は良く分かっていませんが、やはり過食が疑わしく、また熱すぎる挿し餌などそ嚢の組織が変性することで発生します。そ嚢うっ滞の原因がそ嚢アトニーであることも多いです。熱すぎる挿し餌だと、口腔内やそ嚢が火傷を起こしているので診断が可能ですが、その他の原因は多くは分からりません。そ嚢うっ滞とそ嚢アトニーでは、二次的に細菌性のそ嚢炎が起こることがあります。

急性にうっ滞を起こしているようであれば、一時的にそ嚢内の餌を除去し、ペレットなどの停滞しにくい餌に切りかえます。

そ嚢憩室

偶発的に発見されますが、そ嚢に一部が胸菌中央部あたりに憩室を作ります。これはそ嚢アトニーで発生したのか、先天性なのかは不明です。

そ嚢異物

鳥が異物を誤植することで、そ嚢内に停滞します。異物の多くは布の繊維で、ケージカバーや絨毯、カーテン、衣類などの繊維を少しずつ誤食します。セキセイインコ、オカメインコなどに多く見られ、部屋に放鳥していると起きやすいです。なお、フィンチでの発生は稀です。異物は小さいうちは無症状ですが、大きい物では慢性的な嘔吐や食欲不振が見られます。鳥は口を大きく開けられず、大きな異物を摂取するというよりも、小さい繊維片が少しづずそ嚢にたまって、線維が絡んで大きな異物になることが多いです。異物が大きい場合には、外科的に摘出するしかありません。金属製の異物では重金属中毒の恐れがありますが、排泄すて無症状のこともあります。

なお、異物は金属や鉱物でないとX線検査では分かりませんので、線維の塊はCT検査で判断するないです。

そ嚢結石

そ嚢内に結石が形成され、成分は主に尿酸結石です。結石ができる原因は分かっていませんが、食糞癖により尿酸を慢性的に摂取し、採食した種子の殻や線維などが核となって、その周囲に尿酸が付着することで形成されます。他にも誤食したぬいぐるみやケージカバータオルの繊維だけが集積して結石様になることもあります。そ嚢内結石は小さいと無症状ですが、結石が大きくなると、慢性的な嘔吐や食欲不振が起こります。X線検査で偶発的に発見されることが多く、圧迫して口腔から排泄させる、あるいは外科的に摘出するしかありません。

そ嚢破裂

そ嚢炎、熱い挿し餌による火傷、そ嚢うっ滞などで、そ嚢が穿孔することがあります。同居鳥からつつかれ外傷で破れることもあります。基本的に外科的に縫合して修復しなければなりません。

そ嚢の腫瘤

そ嚢の腫瘤は稀です。炎症による肉芽腫、または扁平上皮癌や腺癌、平滑筋肉腫や線維肉腫などが発生します。

もっと鳥を勉強したい時に読む本

カラーアトラス エキゾチックアニマル鳥類編 緑書房

動物看護師や獣医師の教科書です

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。