ふらつき症候群|真相を探る!

ハリネズミで知っておかなければならない病気?

手足に力が入らずにフラフラして歩くようになる神経疾患で、Wobbly Hedgehog Syndrome(WHS)と英語で呼ばれています。足が震えるような症状からプルプル症候群、フラフラして歩くのでフラフラ症候群とも呼ばれています。WHSについては世界各国で調査や研究がなされています。アメリカではWHSRPT(Wobbly Hedgehog Syndrome Research Project Team) 、ドイツではEHRG(The European Hedgehog Research Group)などの団体が有名です。EHRGの調査では、1998~2003年まで1000頭のヨツユビハリネズミの12%の死因がWHSであったと報告されています。

なぜなるの?

WHSの原因は特定されていませんが、脳や背骨の中のせき髄という神経が脱髄を起こすことが原因です。


神経細胞の一部分が突起のように長く伸びて、脳の情報を信号のように伝える電線のような働きをするのが軸索と呼ばれています。軸索はミエリンと呼ばれる電線のカバーのように覆われて、このミエリンの存在のために脳の情報を正常に伝わるのです。何らかの原因で、ミエリンが障害されて、軸索がむき出しになる状態を脱髄と呼ばれます。

人の病気の多発性硬化症が、ハリネズミで起こるWHSに近い症状を起こすといわれています〔Inglis 2017〕。ヒトの多発性硬化症は自己免疫性疾患が原因といわれていますが、詳細は不明です。

どんな症状?

進行性の運動失調と体重減少を特徴とする病気です。症状は通常2歳になる前に始まりますが、年齢を問わず発生する可能性があります〔Alicia et al.2016〕。運動失調は後足から始まり、最初は震えうようになります。次いで前足にもみられるようになり、次第に進行すると歩けなくなります〔Graesser et al. 2006〕。
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●初期は食欲はあるのですが、病気の進行とともに食べれなくなり、痩せて衰弱していきます。多くは2年以内に死亡します〔Inglis 2017〕。

検査は?

残念ながらWHSを診断できる検査はありません。死後の脳や脊髄の組織の病理検査のみで診断が可能です〔Axelson 2014〕。同じ症状を起こす低体温、低血糖、外傷や骨折、脳炎や脳腫瘍、栄養不足、脊髄損傷などが原因のこともあるので、血液検査やレントゲン検査、CT検査などを行うべきでしょう。もし、WHSではない原因がみつかる可能性があります。

治療は?

様々なビタミン補給剤、抗生物質およびステロイド治療が使用されていますが、残念ながら特効薬は分かっていません。

予防は?

完璧な予防はありません。しかし、脳神経をよくするビタミンBと循環を改善するタウリン配合のサプリメントを普段から与えて下さい。

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これがポイント!

・脳神経の病気せ、いまだによく分かっていません
・骨折や内臓の病気を除外するために検査を受ける
・この病気は治療薬がありません
・病気予防のためにビタミン剤を与えておくくらい

参考文献
■Axelson R.”Wobbly hedgehog syndrome”.VCA Animal Hospitals.Retrieved 5 June 2014
■Alicia M,Anneliese S.Common emergencies in small rodents, hedgehogs,and sugar gliders. Veterinary Clinics of North America.Exotic Animal Practice19(2).465–499.2016
■Inglis J.What helps with wobbly hedgehog syndrome? Joe Inglis explains.Metro.London.Retrieved 15 June 2017
■Graesser D,Spraker TR,Dressen P,Garner MM,Raymond JT, Terwilliger G,Kim J,Madri JA.Wobbly hedgehog syndrome in African pygmy hedgehogs(Atelerix spp.).Journal of Exotic Pet Medicine 15(1).59-65.2006

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。