【病気】チンチラの中毒とメトロニダゾール投与について

中毒の発生

チンチラの消化管は繊細で腸炎が発生しやすいにも関わらず、中毒の報告は不思議と少ないです〔Dall 1963〕。毛皮用のチンチラ農場での中毒発生がわずかにあるくらいで、腐敗した牧草からのアフラトキシン中毒〔María L González Pereyra et al.2008〕、配合飼料成分の炭酸ナトリウム〔Goudas et al.1970〕や水銀〔Jungherr 1957〕による慢性中毒くらいしか文献も見つかりません。

ペットでの中毒発生

屋内飼育されているペットのチンチラでの中毒の発生は不明ですが、ウサギやモルモットで報告されているような植物や重金属には注意しておいた方がよいでしょう。特にチンチラは犬や猫以上に鉛に対する感受性が高いとされています〔Hoefer et al.2002,Morgan et al.1991〕。

メトロニダゾール中毒

チンチラでは一部の抗生物質の投与で腸炎を起こしやすく抗生物質関連腸疾患が発生し、Clostridioides spp.の増殖によって菌毒素が放出され腸性中毒が起こります〔Bartoszce et al.1990〕。しかしながら、投薬しても安全性が高いと言われているメトロニダゾールという抗生物質によって中毒が起こることが有名です。メトロニダゾールはニトロイミダゾール化合物であり、嫌気性細菌および原虫感染症を治療するための抗菌剤として使用されていますが、チンチラでの使用頻度は低いです。メトロニダゾールを内服投与すると肝不全を伴う中毒の発生およ食欲不振が起こり〔Donnelly 2004〕、文献にも多数記載されていますが、明確な立証もなく、毒性に関しては逸話的です。単にメトロニダゾールが苦いために、精神的に食欲が低下しているのではないかという考えもあります。Mansら(2021)は健康体のチンチラにメトロニダゾールを20mg/kg (PO BID)の用量で投与し、餌の摂取量が低下したという実験報告をしています。摂取量の最大の減少は、薬物投与の 2~3日後に発生し、投与量を10mg/kgに減少すると摂取量の減少は有意に少なくなりました。 つまり、チンチラのメトロニダゾール投与に対する食欲不振は、用量依存的であることが示唆されています。ただし、摂取量の減少の変動は個々のチンチラ間で大きく異なっていました〔Manset al.2021〕。チンチラ個体による感受性の相違があると思われます。次いでTournadeら(2021)は、第2世代のニトロイミダゾール化合物であるチニダゾールの健康体のチンチラ投与の実験を行ったところ、100そして200mg/kg(PO)では餌の摂取量は低下しましたが、低用量での反復投与 (20mg/kg PO BID 10回)では餌の摂取量変わらずに他の悪影響も認められませんでした〔Manset al.2021〕。したがって、チニダゾールは、より一般的に使用されているメトロニダゾールよりも、チンチラの原虫および嫌気性細菌感染症の治療に適した薬であるかもしれません。

参考文献

  • Bartoszce M,Nowakowska M,Roszkowski J.Chinchilla deaths due to Clostridium perfringens A enterotoxin.Vet Rec126(14):341–342.1990
  • Dall J.Diseases of the chinchilla.Journal of Small Animal Practice4:207-212.1963
  • Donnelly T.Disease problems of chinchillas.In Ferrets,rabbits,and rodents: clinical medicine and surgery: includes sugar gliders and hedgehogs.2nd ed.Quesenberry KE,Carpenter JW eds.Saunders.St.Louis.Mo:263.2004
  • Goudas  P,Lusis P.Case report.Oxalate nephrosis in chinchilla (Chinchilla laniger).Can Vet J11(12):256–257.1970
  • Hoefer HL,Crossley DA.Chinchillas.In BSAVA Manual of Exotic Pets.4th ed.Meredith A,Redrobe S,eds:p65-75.BSAVA.2002
  • Jungherr E.Mercury poisoning in chinchillas.J Am Vet Med Assoc130.1957
  • Mans C et al.Effects of compounded metronidazole and metronidazole benzoate oral suspensions on food intake in healthy chinchillas(Chinchilla lanigera).J Small Anim Pract62(3):174-77.2021
  • María L González Pereyra et al.An outbreak of acute aflatoxicosis on a chinchilla (Chinchilla lanigera) farm in Argentina.J Vet Diagn Invest20(6):853-856.2008
  • Morgan RV,Moore FM,Pearce LK,et al.Clinical and laboratory findings in small companion animals with lead poisoning:347 cases(1977-1986).J Am Vet Med Assoc199(1):93-97.1991
  • Tournade CM et al.Effects of Tinidazole on Food Intake in Chinchillas(Chinchilla lanigera).J Am Assoc Lab Anim Sci160(5):587-591.2021

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。