【病気】チンチラの毛咬症/毛咬み・自咬症

行動異常

チンチラには行動障害の1 つとして、自らかんで被毛を切ったり(毛咬症/毛咬み)、皮膚を損傷させる行為(自咬症)が見られます。

原因

過密飼育、高温度・湿度、騒音などの環境ストレスが関連している可能性が高いです。特に親から早期離乳における子の情動行動の変化ならびに神経内分泌の影響も深く関与しており、毛咬みの発生率がより高いことが指摘されています〔Donnelly 2004〕。それ以外にも食餌の栄養素の不均衡、皮膚糸状菌症、甲状腺あるいは副腎疾患などの内分泌疾患,内部寄生虫も発生要因になるという報告もあります〔Eidmann1992,Vanjonack et al.1973〕。なお、チンチラは外部寄生虫の発生は稀です。消化管のうっ滞尿結石などの疼痛がある疾患により、逃避行動として心因性の毛咬みが二次的に起こり、外傷骨折趾瘤症などにより、患部の自咬が起こることもあります。なお、チンチラの副腎疾患としてのクッシング症候群の報告があります。表皮の過角質化および萎縮、皮脂腺萎縮、毛様体炎、皮下のカルシウム沈着など、犬のような特徴的な皮疹が見られました〔Tisljar et al.2002〕。甲状腺過形成は被毛への影響や体温調整にも関与する可能性が高いですが〔Eidmann 1992〕、実際に報告された甲状腺機能亢進症の症例では、体重減少、高血糖を示したに過ぎませんでした〔Fritsche et al.2008〕。

症状

被毛をかじるのは口が届く箇所で、短く切れ目のある被毛が特徴です。かじられた領域の被毛が、短く粗剛になっていたり、段がついて窪んでいたりしています。被毛が途中で切られた状態なので、毛皮の色合いが変わって見えます。鏡検で被毛を観察すると、切断された被毛構造が確認されます。

皮膚の自咬は尾や四肢の発生が多く、切歯による咬傷が見られます。

診断

毛咬みはかじって短くなった被毛を、自咬は損傷した皮膚を確認して診断されます。そして、原因となる基礎疾患を考えないといけません。

治療

基本的な治療は原因を除去しないと根本的な解決になりませんが、毛噛みの具体的な原因を特定することは困難なことがほとんどです。エリザベスカラーの装着が必要となることもありますが、チンチラにかかるストレスが大きいです。飼育環境や食餌をしっかり見直して、様子を観察するしかありません。Galeanoらは毛咬みのチンチラに、フルオキセチンを10mg/kg/日で、90日間経口投与を行いましたが、約46%にしか有効でなかったと報告しています〔Galeano et al.2003〕。自咬による炎症や化膿がある場合は抗生物質を使用します。

参考文献

  • Donnelly TM,Disease problems of chinchillas.In Ferrets,Rabbits,and Rodents:Clinical Medicine and Surgery.Quesenberry KE,Carpenter JW eds.Saunders,Saint Louis:p255-265.2004
  • Eidmann S.Untersuchungen zur Atiologie und Pathogenese von Fellscaden beim Chinchilla (Studies on etiology and pathosis of fur damages in the chinchilla). Thesis (D.V.M.).fur Pathologie der Tierarzlichen Hochschule,Hannover, Germany.1992
  • Fritsche R.Simova-Curd S,Clauss M,Hatt JM,Hyperthyroidism in connection with suspected diabetes mellitus in a chinchilla(Chinchilla laniger).Vet Rec163:454‐456.2008
  • Galeano MG,Ruiz RD,Marta Fiol de Cuneo et al.Effectiveness of fluoxetine to control fur-chewing. behaviour in the chinchilla(Chinchilla lanigera).Animal Behaviour Science146(1-4):112-117.2003
  • Tisljar M,Janić D,Grabarević Z,et al.Stress-induced Cushing’s syndrome in fur-chewing chinchillas.Acta Vet Hung502:133-142.2002
  • Vanjonack WJ,Johnson HD.Relationship of thyr in the chinchilla.Comp.adrenal function to “fur-chewing”Biochem.Physiol.A45:115-120.1973

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。