【病気】ウサギの骨折(折れたらどうする)

折れやすい骨

ウサギは他の哺乳類と比べて骨格は軽く、総体重の7~8%を占める程度で、犬や猫の骨重量 (12~13%) よりも低いです 〔Pollock 2002,Peirone et al.2012,DeCamp et al.2016,Lu et al.2003〕。さらに、外敵から逃走するための素早い動きをし、筋肉も発達していることから、ウサギは相対的に骨折しやすい動物と言えます 〔Reuteret 2002.〕。したがって、ウサギの骨折は一般的で 〔Barron et al.2010,Zehnder et al.2012.〕、ウサギの拘束に関わる負荷、そしてケージの金網に四肢を挟んだり、高所から飛び降りるような事故が原因になります 〔Jenkins 2001,Malley 2007〕。一部の報告では3 歳未満の個体の発生率が老体と比べて有意に高く、特発性に発生することから 〔Sasai et al.2015〕、原因は活動的な事故の可能性が高いです。しかし、一昔と比べて、現在はウサギの骨折は少なくなっており、その理由は飼育者の意識の向上ではないかと考えられています。一方でウサギの骨癒合が犬猫に比べて遅いということも言われていますが、ウサギの状態やインプラントの選択によって大きな影響が予想され、特に関節内骨折や粉砕骨折では、治療そのものが困難となるケースも少なくないです 〔Barron et al.2010,Zehnder et al.2012〕。

骨折箇所

骨折は全身の骨で発生しますが、ウサギでは四肢に多発します。そして、前肢よりも後肢に多く、特に脛骨骨折および脛骨と腓骨の複合骨折が最も頻繁に見られます。

また、椎骨折も発生し、発達した後肢の筋肉の付着が腰椎に付着していることから、腰椎骨折ならびに脊髄損傷による下半身麻痺が問題となっています。

治療

治療法は大きく整形学的手術による観血的方法と副木やギプス固定による非観血的方法 (保存療法) があります。なお、犬や猫に一般的に使用される手術方法が必ずしも適しているとは限らず 〔Rich 2002,Pead et al.1989〕、ウサギの特徴に合わせて治療方法を選択することが重要です 〔Jenkins 2001,Sasai et al.2015,Massie et al.2019.〕。骨折の整形学的手術は位置と種類に応じて、無麻酔でのギブスなどの外固定、麻酔での、髄内ピン、締結ワイヤリング、骨プレートなどの鋼製器具を使用した内固定 (整形外科) など様々な方法がとられています 〔Sasai et al.2018,Fehr et al.2011,Terjesen 1984,Amith 2020,Müller et al.2004〕。

ピンニング固定のX線像
プレート固定

ウサギは発達した後肢で跳躍し、自然の座位でも、前肢への負重は低いです。したがって、後肢の大腿骨および脛骨・腓骨の骨折では、一般的には鋼製器具を使用した整形外科が選択されます。負重が少ない前肢は何もしないで運動制限のみをする保存療法あるいはギブスなどの外固定のみでも対応できます。大腿骨の骨折では、ウサギの大腿骨は胴体と密着しており、骨が遠位端に向かって先細りになっているため 〔Zehnder et al.2012,Cruise et al.1994〕、副木やギプス固定などの外固定での安定した固定は困難です。さらにウサギの座位の姿勢は後肢を屈曲しているため、副木が効果的でありません。しかし、ウサギは大腿部の筋量が多く、外固定もせず、運動性による何もしない保存療法でも変形はしますが、きちんと化骨することもあります。頻発する脛骨・腓骨の骨折は、周囲の軟部組織も少ないことから、骨折面の可動が激しく、疼痛が起こり、変位も大きく、開放骨折への移行が懸念されます。

橈骨・尺骨の骨折は、損傷した後肢でも跳躍の度に可動するため、軟部組織と皮膚に損傷を引き起こして開放しやすい特徴があります 〔Pead et al.1989,Terjesen 1984〕。反対に骨の軸のみを揃える意味で、髄内ピンのみを挿入する外科手術のみで化骨します。上腕骨は大腿骨と同じく胴体と密着しており、副木やギプス固定などの外固定での安定した固定は困難です。肋骨や指趾などの四肢の遠位部分の骨折では、運動制限のみをする保存療法のみで十分に化骨します。

整形外科の手術をする際には、ウサギが全身麻酔に耐えうることも必須条件であるため、特に老体などでは、全てが麻酔・手術に適応するわけではありません 〔Pead 1989,Terjesen 1984,Barron et al.2010〕。ウサギの骨に骨ネジやプレートを使用しても、骨質が薄いことで十分な固定を保証することはできません。なお、ウサギの骨盤骨折では、骨盤整復を目的とした整形外科は侵襲が大きく、インプラントに対する骨の保持が難しいです。仙腸関節の離脱が無ければ保存療法が得策かもしれません。これは、犬や猫の骨盤骨折では 66% 以上が外科的治療を受けたという報告 〔Lohr. 2018.〕 とは異なります。身体が小さく、運動の解剖学と生理学に関する大きな相違も、処置の選択に影響します。

予後が重要

ウサギは犬や猫とは異なり、骨折修復後に負重がかからないようにするのも非常に困難です。外科的整復が優先的に選択されても、骨折部位そしてウサギの状態を確認して、総合的に治療を決定しなければなりません。整形外科の後も、ギブスなどの外固定、あるいは運動制限なども必要となることが多いです。ウサギの骨折は手術だけでなく、その後の整復過程がとても重要で、骨癒合は術後の経過に依存すると言っても過言ではありません。術後あるいは保存療法においての運動制限が上手くいかずに失敗するケースが多く、特にウサギの性格、体重と年齢が骨折治療過程中に合併症が出現する重要な危険因子とされています。 運動制限ができなかったり、副木やギプス、包帯の交換時の暴れ、肥満による体重負荷も問題となり、骨折の合併症のリスク増加に対応しています 〔Sloth 1992,Tvarijonaviciute et al.2020〕。骨癒合不全や偽関節、関節骨化、筋萎縮などの合併症により、異常な姿勢や跛行などが残ることもあります 〔Gibson et al.2011,Iden. 2007,May et al.1987〕。もちろん、骨折の癒合不全も、開放骨折ならびに骨髄炎、インプラントの失敗での骨の屈折や骨折端の閉鎖なとでも起こります 〔Cruise et al.1994〕。特に老体では無菌的な骨および軟部組織の炎症なども起こりやすくなります。また、インプラントの強度に対しての骨吸収は腐食であり、老体および骨粗鬆症のウサギに多く発生します 〔Wiseman-Orr 2004〕。そして、術創を舐めたり、咬んで炎症を起こす、あるいは咬んで副木やギプス固定を外すことは、ウサギの習性的に一般的に考えられることで 〔Jenkins 2001〕、エリザべスカラーで対応するしかありません。運動制限における適切な飼育設備の支持、そして創傷管理などが整形外科ともに重要な要因となります 〔Doyle 2004〕。なお、老体への麻酔侵襲を含めたデメリットも優先的に考慮します。骨折による影響で血栓症が起こったり、ストレスや食欲低下により、心不全肝不全 (肝リピドーシス) 腎不全の発生、もちろん麻酔関連死もあります。麻酔での死因は低体温症や呼吸抑制などが考えられますが 〔Wenger 2012,Lichtenberger et al.2007〕、老体では潜在疾患なども関連します 〔Brodbelt et al.2008〕。また、ウサギでは麻酔・手術の回復における予後不良、骨の感染や骨髄炎、インプラントによる骨吸収、人為的な骨破断もよくあります。たかが骨折なのですが、老体では生死に影響します。結果的に安楽死させられたり、断脚手術を受けざる得ないことも珍しくありません。

原因はウサギに聞かないと分かりません。焦らずにじっくりとウサギと相談しながら、環境の見直しを一つ一つ行って、その反応を観察して下さい。

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。