【病気】ヘビのニドウイルス感染症(新興感染症)

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ニドはヘビの新興ウイルス

2014年に爬虫類のニドウイルスが発見されて以来 、世界中で重要な病原体として扱われています。特にペットのヘビ(ニシキヘビに好発)に致命的な肺炎などの呼吸器疾患を引き起こすことで知られています。ペットのヘビにおけるニドウイルスが急速に蔓延し、高い罹患率と死亡率を伴う可能性がありますが、世界規模で爬虫類の種が減少しているにもかかわらず、野生の爬虫類に対する潜在的な病気のリスクはほとんど知られていません。そして、調査が増えるにつれて、ニドウイルスはトカゲやカメからも検出され初めています〔Parrish et al.2021〕。

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原因(コロナもニド)

ニドウイルス目のニドウイルスは、多くの脊椎動物および無脊椎動物の宿主に感染することが知られており、そのうちのいくつかは、人と動物の両方に深刻な病気を引き起こします。 現在、人で有名な世界的大流行しているCOVID-19(Coronavirus Disease 2019)の原因となっているSARSコロナウイルス2 (SARS-CoV-2)もニドウイルス目コロナウイルス属のウイルスで、他にも様々な感染症に関与しています〔Tyrrell et al.1965,Pringle 1996〕。動物由来のこれらのウイルスが人に出現した後、野生動物の保有宿主から種を超えて伝播するリスクの理解を含め、動物のニドウイルスに新たな関心が寄せられています。野生動物の保有宿主、特にコウモリに由来する新しいウイルスは、豚急性下痢症候群コロナウイルス(SADS-CoV) を含む動物集団に重大な死亡率と罹患率を引き起こしました〔Zhou et al.2018〕。ニドウイルスの宿主は、魚類、エビやカニ、および海洋哺乳類にも及びます〔Bukhari et al.2018,Debat 2018,Saberi et al.2018,Buchatsky et al.2020〕。ニドウイルスの重要性が増し、最近では罹患率や死亡率との関連性が高まっているため、ニドウイルスは爬虫類でも注目されています。

発生爬虫類ニドウイルスはヘビがメイン

爬虫類でのニドウイルスの発見は、2014年に呼吸器疾患を伴うボールパイソンをはじめとするニシキヘビからでした〔Bodewes et al.2014,Stenglein et al.2014,Uccellini et al.2014〕。

その後も主にニシキヘビ科の広範囲のヘビからウイルスが検出されました〔Shi et al.2016,Shi et al.2018,Dervas et al.2017,Marschang et al.2017,Hoon-Hanks et al.2019〕。しかし、現在までに、ニシキヘビ科以外にも、ボア科、ナミヘビ科、ミズヘビ科のヘビでウイルスが発見されています〔Shi et al.2018,Marschang et al.2017,Hoon-Hanks et al.2019,Blahak et al.2020〕。ペットのニシキヘビのニドウイルスの有病率は、27.4% 〔Marschang et al.2017〕、30.7%〔Blahak et al.2020〕、37.7%〔Hoon-Hanks et al.2019〕とされ、ボールパイソンと比較してミドリニシキヘビの有病率の方が高いという報告もあります〔Hoon-Hanks et al.2019,Blahak et al.2020〕。

なお、パイソン科とは対照的に、ボア科およびナミヘビ科のヘビの有病率は大幅に低いです〔Shi et al.2018,Marschang et al.2017,Hoon-Hanks et al.2019,Blahak et al.2020〕。しかし、ニドウイルスが野生の爬虫類にもたらす感染のリスクはほとんど知られていませんし、さらにウイルスはニシキヘビ以外のヘビ、そしてカメやトカゲからも検出されていますが 〔O’Dea et a.2016,Zhang et al.2018,Hoon-Hanks et al.2020〕、それぞれ検出されたニドウイルスの種類が異なっていたり、例え同じ種類でもゲノムの配列が異なるものが多く〔Shi et al.2018,Marschang et al.2017〕。それぞれのウイルスの明確な宿主種特異的な系統も明らかになっていません。今後はさらなる研究が必要で、爬虫類のニドウイルスの多様性の発見はまだ始まったばかりです。

種類分類宿主発生国参考文献
Ball python nidovirus (BPNV)ボールパイソンニドウイルスBall python nidovirus 1Pregotovirus


ボールパイソン (P.regius)アメリカ、中国Stenglein et al.2014
Morelia viridis nidovirus (MVNV)ミドリニシキヘビニドウイルスMorelia tobanivirus 1ミドリニシキヘビ(M. viridis)Dervas et al.2017
Bellinger River virus (BRV)Berisnavirus 1Bellinger River snapping turtle (M. georgesi)オーストラリアZhang et al.2018
Shingleback nidovirus (SBNV):マツカサトカゲニドウイルスShingleback nidovirus 1マツカサトカゲ (T. rugosa)オーストラリアO’Dea et al.2016
Hainan hebius popei torovirusHebius tobanivirus 1InfratovirusPope’s keelback (H. popei)中国Shi et al.2018,
Guangdong red-banded snake-Lycodon rufozonatus-torovirusLycodon tobanivirus 1LyctovirusRed banded snake (L. rufozonatus)中国Shi et al.2018
表:代表的なニドウイルスの種類

トカゲやカメのニドウイルス感染症

トカゲのニドウイルスは、1990年代以降オーストラリアの野生のマツカサトカゲで呼吸症候群が報告されていましたが、2016年にトカゲにおける最初のニドウイルス(マツカサトカゲニドウイルス1(Shingleback nidovirus1:SBNV1)が、呼吸器疾患の有無にかかわらず、マツカサトカゲから報告されました〔O’Dea et al.2016〕。最近では、別の新規トカゲ関連ニドウイルスが、肺炎で死亡したペットのエボシカメレオンから発見され、ベール カメレオンセルペントウイルス A (Veiled chameleon serpentoviruses A:VCSV-A) および B (VCSV-B) と命名されました〔Hoon-Hanks et al.2020〕。カメのニドウイルス(Bellinger River virus:BRV)は、2015年に野生のナガクビガメ (Myuchelys georgesi) の個体群において大量死が報告されましたが、ヘビやトカゲの感染とは対照的に、呼吸器疾患は見られず、病理組織学的に腎臓が侵されていました〔Zhang et al.2018〕。

ニドウイルス?セルペントウイルス?

2019年以前は、爬虫類のニドウイルスはニドウイルス目コロナウイルス科トロウイルス亜科に属していました。しかし、新しい分類により、爬虫類のニドウイルスはニドウイルス目トルニドウイルス亜目トバニウイルス科に再分類され、ヘビ、カメ、トカゲで発見されたニドウイルスは、このトバニウイルス科のセルペントウイルス亜科に属するため〔International Committee on Taxonomy of Viruses 2021〕、セルペントウイルスと呼ばれるようになりました〔Hoon-Hanks et al.2019〕。セルペントウイルス亜科には、Infratovirus、Pregotovirus、Sectovirus、Tiruvirusがの4つのウイルスが属します。

亜科ウイルス
トバニウイルス科(Tobaniviridae)セルペントウイルス亜科(Serpentovirinae)Infratovirus
Pregotovirus
Sectovirus
Tiruvirus
表:トバニウイルス科の分類

症状

ニドウイルスは、陸生の脊椎動物に肺炎などの呼吸器感染症ならびに腸炎を引き起こすことが知られていますが 〔Weiss et al.2005〕、水生動物では、十分に研究されていませんが、一部のニドウイルスだけがこの傾向に従っているようです 。また、感染してても無症状で経過する個体も多いですが、肺炎でなく軽度の口内炎のみが発現しており、病状を見落としている可能性も否定できません。しかし、ニドウイルス 陽性であった 5頭のニシキヘビが、2年以上にわたって4ヵ月間隔でPCR検査が行われて陽性でしたが、その間無症状のままであったという報告もあります〔Hoon-Hanks et al.2019〕。肺炎の原因病原体が複合していることは、爬虫類では珍しくありません〔Jacobson 2007〕。現在までに、細菌、寄生虫、および レトロウイルス〔Dervas et al.2017,Blahak et al.2020〕 やオルソレオウイルス 〔Hoon-Hanks et al.2020〕などのニドウイルス感染による他のウイルスとの共感染が報告されています。二次細菌感染が爬虫類ニドウイルス感染の重症度と臨床的進行に寄与する可能性があります〔Hoon-Hanks et al.2019〕。

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感染

爬虫類におけるニドウイルスの自然感染経路は不明のままですが、実験では経口および上気道への曝露でした〔Hoon-Hanks et al.2018〕、一般的に爬虫類では、水平感染であると推測されていますが、よく分かっていません〔Hoon-Hanks et al.2019〕。

ヘビの線虫からニドが感染

無脊椎動物のサンプルのウイルスのスクリーニングの一環として、ヘビに関連する線虫で密接に関連するニドウイルスが検出されました〔Shi et al.2016,Shi et al.2018〕。これらの検出の重要性は不明のままです。線虫はヘビに感染するニドウイルスを摂取したか、汚染された可能性があります。可能性は低いですが、線虫による種間の水平感染の可能性を排除することはできません〔Dolja et al.2018〕。線虫のニドウイルス感染に対する感受性を明らかにするために、線虫の追加研究が必要となります。

診断

遺伝子(PCR)検査、透過型電子顕微鏡 (TEM)、細胞培養におけるウイルス分離、免疫組織化学 (IHC)などが研究段階で行われています。PCR検査ではスワブ、気管洗浄液、糞便、および血液サンプルを含むいくつかの生前のサンプル タイプが使用されています〔Blahak et al.2020〕。しかし、ニドウイルスに感染した爬虫類におけるウイルス血症の発生、発症、および潜伏期間等に関してはほとんど知られておらず、血液サンプルは推奨されていません〔Marschang et al.2017〕。

治療

ニドウイルスに感染した爬虫類に対する抗ウイルス治療法はまだ報告されていません。

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参考文献

  • Blahak S,Jenckel M,Höper D,Beer M,Hoffmann B,Schlottau K.Investigations into the presence of nidoviruses in pythons.Virol J17:6.2020
  • Bodewes R,Lempp C,Schürch AC,Habierski A,Hahn K,Lamers M et al.Novel divergent nidovirus in a python with pneumonia.J Gen Virol95(Pt.11):2480-2485.2014
  • Buchatsky LP,Makarov VV.Nidoviruses associated with aquatic animals.Vet Sci Today33:115‐121.2020
  • Bukhari K,Mulley G,Gulyaeva AA,Zhao L,Shu G,Jiang J et al.Description and initial characterization of metatranscriptomic nidovirus-like genomes from the proposed new family abyssoviridae, and from a sister group to the Coronavirinae, the proposed genus alphaletovirus.Virology524:160‐171.2018
  • Debat HJ.Expanding the size limit of RNA viruses: evidence of a novel divergent nidovirus in California sea hare,with a ~35.9 kb virus genome.bioRxiv.307678.2018
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  • Dolja VV,Koonin EV.Metagenomics reshapes the concepts of RNA virus evolution by revealing extensive horizontal virus transfer.Virus Res244.36‐52.2018
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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。