フトアゴヒゲトカゲの代謝性骨疾患(MBD)|あの~骨曲がっているんですけど・・・

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間違った飼い方で起こる!

カルシウムの代謝異常で起こる骨の病気を、英語でMetabolic Bone Diseaseと言います。略してMBDと略されて呼ばれています。

まずは骨の代謝の解説から!

骨の病気とはどうして起こるのか?エサから摂取されたカルシウムは、腸で血液中に取り込まれて骨に貯蔵されます。しかし、体内でカルシウムが機能するためには、リンに結合する必要があり、カルシウムはリンと結びつくことによってリン酸カルシウムとなり、骨や歯の成分を形成します。しかし、リンが多いとカルシウムの吸収を妨げるため、エサのカルシウムとリンの比率が重要になります。カルシウムとリンはバランスよくエサとして摂取することが重要で、推奨されている目安はカルシウム:リン=1~2:1になります。

カルシウムを腸から効率よく吸収するために必要なのがビタミンDですが、ビタミンDはエサからと日光浴の太陽光を浴びることで作られます。室内で飼育されている時には、太陽光を十分に浴びられないため、紫外線ライトが必要になります。

なんでなるの?

MBDの原因は主に不適切なエサならびに紫外線の照射不足が多いです。

不適切なエサ

リンの多い昆虫やワームだけを与えているとMBDの原因になります。また、ホウレンソウなどのシュウ酸の多い野菜はカルシウム吸収を阻害しますので、カルシウムが欠乏します。

紫外線の照射不足

野生のフトアゴヒゲトカゲは太陽光による紫外線を浴び、ビタミンDを活性化して利用します。飼育下でも紫外線ライトの照射を怠ることが原因になります。「日光浴や紫外線ライトを照射していたのにMBDになった」という話をよく聞きますが・・・ガラス越しではなく直接あてないと、紫外線はガラスにほとんど吸収されてしまい、意味がなくなります。

症状

血液中のカルシウムが少なくなると、骨に蓄えられているカルシウムは血液中に溶出し、骨が薄くなって変形します。成長不良、骨の変形、骨折の3つが主な症状です。また低カルシウム血症のために筋肉のケイレンが起こることもあります。成長の段階や、その個体によって症状の現われ方や順序に差が見られます。

成長不良

骨に影響して上手く成長しません。なかなか大きく育たない理由がMBDであったというのも珍しくありません。

骨の変形

骨の形成異常は骨軟化症クル病と呼ばれ、顎、背骨、四肢、尾などの骨が曲がったりします。改善されても後遺症として残ることが多いです。幼体に起こる骨の形成異常をクル病と呼びますが、爬虫類では明確な定義はありません。多くが幼体に発生して、成体から突然起こることはまれです。骨の変形が起こると、上顎が短くなって受け口になったり、背中が曲がってきます。手足の変形が起こると胸を床にべたっとついた姿勢になり、上手く歩けなくなることもあります。

フトアゴヒゲトカゲMBD

骨折

骨が薄くなるので、わずかな衝撃で骨折をします。

ケイレン

骨の変形以外にも、血液中カルシウムが低くなり、食欲の低下や筋肉のケイレンも起こります(低カルシウム血症)。

フトアゴヒゲトカゲMBD

検査は?

X線検査で骨の変形、血液検査で低カルシウム血症の有無を確認します。

フトアゴヒゲトカゲMBDレントゲン写真

予防と治療は?

まずは飼育環境とエサの見直しになりますので、症状が改善するのに数ヵ月かかります。低カルシウム血症と診断された場合は、カルシウムの注射をします。

紫外線をあてる

紫外線によって活性化されたビタミンDは、血中のカルシウム濃度を調整し、消化管からのカルシウム吸収率を高める作用もああります。ビタミンDは、エサから取るだけでは不完全で、吸収後に紫外線によって活性化されなければ有効利用できません。熱中症にならないように直接日光浴を行うか、ケージに紫外線ライトをつけて照射して下さい。

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餌の見直し

主食となる昆虫やワームだけを与えるのではなく、カルシウムが多く含まれているコマツナなどの野菜、カルシウム剤のサプリメントをエサに添加して下さい。推奨されているエサのカルシウム:リンの比率である1~2:1にするのは、計算するのは難しいですが、上記のエサやサプリメントを添加しているようであれば、大きな問題を生じないはずです。なお、すでにMBDと診断されている場合はビタミンDが配合されたカルシウム剤を使用します。

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しかし、コオロギやワームなどを多く食べている場合は、リンが少ないカルシウム剤を与えないといけません。全くエサを食べない場合は液体のカルシウム剤が理想です。

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飼育温度の見直し

餌をいくら改善しても、それを消化するための環境が重要です。温度によっても消化や吸収の効率は大幅に変わります。効率よく摂取したバランスのとれたエサを消化し、吸収するためには、適切な温度が必要になります。

抱卵中のメスのエサに注意

卵を持っているメスの場合、体内で卵殻を形成するためカルシウムの要求量が増大します。エサを食べない時あるいは食欲が低下している時には、カルシウム剤を与えましょう。

まとめ

MBDは生体の命に関わる病気ですが、飼育方法を見直して予防して下さい。バランスの取れた食事と適切な日光浴は、爬虫類達の健康な暮らしに不可欠なものです。もし今回の記事を読んで不安な点があれば、一度餌や飼育環境を見直してみて下さい。

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。