トカゲの代謝性骨疾患(MBD)〔Ver.2〕

目次 [非表示]

間違った飼い方で起こる

ミネラルの一つであるカルシウムは幅広い機能を持っていますが、骨格形成と筋肉収縮が主な作用です。カルシウムが骨に適切に沈着しないとことで骨格の形成に異常が発生します。単にカルシウムの摂取が足りないだけでなく、生理的代謝に問題が起こることでも発生するため、代謝性骨疾患(MBD:Metabolic Bone Disease)と呼ばれています。爬虫類においても、哺乳類の病態で使用されている栄養性二次性上皮小体機能亢進症腎性二次性上皮小体機能亢進症骨軟化症クル病骨粗鬆症などの病名が使われることがありますが、しかし爬虫類においての定義が不明確であったり、発生が複雑であるため、これらを全てまとめてMBDと扱われています。MBDは骨や甲羅の形成に必要なカルシウムの不足が大きな原因となりますが、リンやビタミンDなどの他の栄養素、紫外線の照射などのカルシウム吸収に関わる要因の欠如、そして腎不全などが発生に深く関与します〔Klaphake 2010〕。カルシウムも単に沢山与えればよいというものでなく、カルシウムとリンの比率(Ca/P)が1.5~2:1でないと理想的な吸収を施しません〔Scott1996〕。しかし、繁殖期をむかえた爬虫類は、卵殻の形成のために大量のカルシウムが動員されます。また成長期の爬虫類も骨格形成のためにカルシウム要求量が増大します。そのため繁殖期のメスや成長期には、カルシウムを多く与える必要がありますが、カルシウムの摂り過ぎはリンの吸収を妨げ、リンの摂り過ぎはカルシウムの吸収を妨ぐため、Ca/Pは、一方が増加すると他方が減少し、逆もまた同様になります。これらの代謝はビタミンD3、カルシトニン、パラソルモンによって制御されています。

原因は?

MBDの具体的な主な原因は、主食となる餌の栄養の均衡が崩れ、Ca/Pの比率が逆転していることです。草食性の爬虫類では、通常カルシウムの多い野菜や野草を主食として与えられるべきですが、レタスやキュウリ、果物といったカルシウムに乏しい餌が主食になっていることが問題となります。昆虫食のヤモリなどでは、カルシウムが少なく、リンが多いコオロギやワームを多く与えることで容易にMBDが発生します。また、野菜に含まれているシュウ酸もカルシウム吸収に影響すると言われています。シュウ酸は、ホウレンソウ、フダンソウ、キャベツ、ビーツの葉などの一部の野菜に多く含まれ、カルシウムと結合し、消化管による吸収を低下させます。しかし、餌に少量含まれている程度であれば、問題を引き起こす可能性は低いです〔Innis 1994〕 。

イグアナのエサ

 

餌の野菜の詳細はコチラ!

紫外線

餌におけるCa/Pはもちろん、その他の栄養素の均衡がとれていたとしても、カメやイグアナなどの太陽光を浴びる昼行性の爬虫類において紫外線の照射が欠乏すると、十分なカルシウムが吸収されなくなります。皮膚に太陽光に含まれている紫外線(UV-B)が照射されることで、体内でビタミンDが合成されます。エサから摂取されるビタミンDだけでは充分な量が摂取できないため、この紫外線照射によるビタミンDの産出含めて、肝臓と腎臓で代謝され、最終的には活性化ビタミンDへと変化します。活性化ビタミンDはカルシウムの吸収を促進させ、カルシウムが不足している場合には尿中からカルシウムも再吸収するように働きます。つまり、餌に適切なカルシウムをサプリメントとして添加しても、日光浴あるいは紫外線ライトの照射を怠ることでMBDになるケースも非常に多いです。昼行性の爬虫類は通年を屋外飼育できない時は、日光浴をさせるか、かわりに紫外線ライトを照射してMBDを予防しなければなりません。なお、夜行性の爬虫類では、紫外線の照射を欠いても体内でビタミンDが合成できます。MBDはカメとトカゲで多発しますが、ヘビやオオトカゲなどの獲物を丸ごと食べる肉食性の爬虫類は、餌となるマウスに十分なカルシウムとビタミンDが含まれているため、発生は多くはありません。また、サプリメントの添加において、大量のミネラルの投与に平行してビタミンD3過剰症が起こり、臓器へのカルシウム沈着などの副作用を起こすことがあり、注意が必要です〔Zwart 1980〕。

イグアナ日光浴

腎不全

餌や日光浴以外でも、腎臓の機能が低下する(腎不全)と、ビタミンDの作用が低下し、カルシウムが吸収されず、低カルシウム血症を引き起こします。また、腎不全は尿へのリンの排泄が低下するため、血液中のリンが上昇してCa/Pのバランスが悪くなります。慢性腎不全では、血液中のカルシウムとリの異常を調節しようとして、パラソルモン(Parathyroid hormone:PTH)というホルモンが増加します(パラソルモンは副甲状腺〔上皮小体〕から分泌され、血液中のカルシウムの濃度を増加させるように働きます)。腎不全に起因するこの病態を腎性二次性上皮小体機能亢進症、上述したCa/Pの比率が悪い餌を与えられてPTHが増加することを栄養性二次性上皮小体機能亢進症と呼ばれます。また、おおまかな定義ですが、成長期に起こるMBDをクル病、成体では骨軟化症、老体では骨粗鬆症と呼ばれます。

症状

トカゲでは成長不良と頭骨、背骨や四肢、尾の変形が特徴的に見られます。下顎が短くなったり、下骨が筋肉に引かれて左右に張り出したように骨が変形して、下顎が丸く腫れあがることもあります。

イグアナのMBD
イグアナMBDのレントゲン写真

 

イグアナMBD
イグアナMBDのレントゲン写真

 

下の写真では左のイグアナの頭は右の個体と比べて丸みを帯びています。

イグアナMBD

脊椎が曲がると背中が曲がってきます。
イグアナのMBD イグアナのMBDレントゲン写真

四肢の変形が起こると胸を床についた姿勢になり、上手く歩けなくなることもあります。四肢は動かせることができるのですが、前進できないのでホットスポットから移動できず、背中が低温火傷を起こします。火傷を負った背中は脱皮不全により古い鱗が重責して、白色に変色しています。

イグアナMBD
イグアナMBD

 

骨が薄くなるために、わずかな衝撃で容易に骨折を起こします。

イグアナ骨折
イグアナ骨折のレントゲン写真

 

低カルシウム血症は甲状腺から分泌されるカルシトニン(Calcitonin)というホルモンの作用で、人では甲状腺腫瘍などでも発生します。しかし、爬虫類での甲状腺腫瘍はまれで、多くは単に餌のカルシウム欠乏やCa/Pの不均衡、日光浴ならびに紫外線不足、抱卵が原因で低カルシウム血症が起こります。カルシウムは骨の素材以外にも、筋肉収縮にも関与しますので、低カルシウム血症になることで、四肢の筋肉のケイレン(振戦)、全身の発作、あるいは胃腸のうっ滞などが起こります。カメとトカゲで症状の現れ方が多少異なり、トカゲの低カルシウム血症では、カメではほとんど見られない振戦や発作が好発します。ヒョウモントカゲモドキでは、頭を上に向けて回すような神経障害を疑うような特異的な発作が見られます。

イグアナMBD

検査

X線検査で骨の変形、血液検査で低カルシウム血症の有無を確認します。

予防が重要

紫外線をあてる

紫外線によって活性化されたビタミンDは、血中のカルシウム濃度を調整し、消化管からのカルシウム吸収率を高める作用もああります。ビタミンDは、エサから取るだけでは不完全で、吸収後に紫外線によって活性化されなければ有効利用できません。熱中症にならないように直接日光浴を行うか、ケージに紫外線ライトをつけて照射して下さい。

グリーンイグアナ
爬虫類の紫外線ライトの選び方とお薦め商品はコチラ!

餌の見直し

カルシウム含有量の多いコマツナ、チンゲンサイ、モロヘイヤなどをメインにバリエーションを組んで与えましょう。カルシウムパウダーをエサに添加する方法もあります。しかし、すでにMBDに陥っている場合は、カルシウム剤を併用して下さい。明らかなMBDの場合はビタミンDが配合されたカルシウム剤を使用します。

イグアナのエサ

爬虫類のカルシウム剤の選び方とお勧め商品はコチラ!

飼育温度の見直し

エサをいくら改善しても、それを消化するための環境が重要です。イグアナは腸内細菌の力で植物の消化をしているので、温度によってその効率は大幅に変わります。効率よく摂取した食物を消化し、吸収するためには、適切な温度が必要です。

抱卵中のメスのエサに注意

卵を持っているメスの場合、体内で卵殻を形成するためカルシウムの要求量が増大します。より注意深く観察を行い、栄養が不足しないよう用心しましょう。

爬虫類の餌と病気について

爬虫類 長く健康に生きる餌やりガイド [ 安川 雄一郎 ]
価格:2,750円(税込、送料無料) (2024/3/15時点)楽天で購入!

目からウロコ・・・この本もヤバすぎ!

まとめ

MBDは生体の命に関わる病気ですが、飼育方法を見直して予防して下さい。バランスの取れた食事と適切な日光浴は、爬虫類達の健康な暮らしに不可欠なものです。もし今回の記事を読んで不安な点があれば、一度餌や飼育環境を見直してみてください。

参考文献
■Klaphake E.A fresh look at metabolic bone diseases in reptiles and amphibians Vet Clin North Am Exot Anim Pract13(3):375-92.2010
■Scott PW.Nutritional Diseases in Reptile Medicine and Surgery.BVZS Proceedings 1996
■Innis C.Considerations in Formulating Captive Tortoise Diets.ARAV4(1)1.1994
■Zwart P.Nutrition and Nutritional Disturbances in Reptiles.Proceedings of European Herpetological Symposium, Cotswold Wildlife Park.1980

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。