カエルの全身性浮腫症候群~風船病

皮膚病は浮腫の原因になる

カエルやイモリ・サンショウウオに、全身が浮腫んで(浮腫)体が丸く見える病態が多く起こります。これを両生類の浮腫症候群と呼ばれています。無尾類(カエル)は、広範なリンパ系を持っており、そして皮下に大きなリンパ嚢が構成されているため、浮腫症候群を起こすと顕著に丸くなり、体が風船のように見えることから、カエルの風船病 (Frog dropsy) とも呼ばれています。有尾類(イモリやサンショウウオならびにウーパールーパー)の浮腫症候群ではカエルほどは膨らみません。浮腫症候群の時には、多くは体腔内の過剰な水分蓄積 (胸腹水) も見られます。

風船病の原因は?

浸透圧調節に悪影響を与えて体液の恒常性を損なう疾患で浮腫症候群が起こり、考えられる原因は多数あります。腎疾患と皮膚病 (赤肢病、水カビ病、外部寄生虫) ならびに細菌およびウイルスによる全身感染症 (ラナウイルス、マイコバクテリア) が最も考えられる原因で、不適切な飼育環境もそれらの発生要因になります。その他、肝疾患、、生殖器疾患 (女性の卵の保持)、心血管/リンパの異常 (外傷、低カルシウム血症、リンパ閉塞)、胃腸疾患 (重度の内部寄生虫) などがあげられます。

不適切な環境

飼育の水のpHが低いと電解質の輸送が低下する恐れがあります。もちろん、高温であったり、汚れているなどの水も、生体の体調を崩す原因となり、浸透圧調節に悪影響を与えます。

腎疾患

腎疾患との関連が強く関連しているという意見が多いです〔Pessier 2009, Clancy et al. 2010, Freeman et al. 2008〕。Freemanら (2008) の報告では、浮腫症候群の死亡率は21% (26/122頭) で、26頭のうち42%に腎不全が見られました〔Freeman et al.2008〕。Mangusら (2008) の報告では、浮腫症候群の死亡率は25% (15/62頭) で、15頭のうち80%に腎不全が見られました〔Mangus et al.2008〕。両生類の腎臓は尿を濃縮できず、糸球体濾過率が高いです。尿は腎臓から総排出腔を介して膀胱に運ばれ、 膀胱では水分、尿素、電解質が貯蔵し、一部は再吸収されます。しかし、腎不全ならびに腎炎・膀胱炎などが起こることで浸透圧に悪影響が現れます。

皮膚炎・全身感染症

皮膚炎になると皮膚からの水分吸収(ペルビックパッチ)に障害が見られ、浸透圧調節に深刻な影響をもたらして、特に水生種では浮腫が発生する可能性があります。腎不全とともに全身の細菌感染が深く発生に関与しています〔Clancy et al. 2010, Freeman et al. 2008〕。

循環不全

毛細血管とリンパ管の破壊は、循環器系への体液の戻りを妨害すると考えられています。両生類ではリンパ管にリンパ液を全身に循環させる心臓様構造のポンプの作用をするする構造物があり、胸部と下腹部に位置しています〔Wright 2001〕。リンパ心臓は毎分50〜60拍で拍動し、心臓の収縮と協調はしていません。リンパ液と血漿の組成は非常に類似し、一部の種では24時間で約50倍の血漿量の代謝回転が見られます。 たとえば、血中尿素窒素やナトリウムなどは、脱水していると体内に増加するために浸透圧濃度が増加し、吸水が促進されて浮腫が起こります。また、ホルモンは浸透圧調節において主要な役割を果たし、複雑な発生要因として考えられています。下垂体から分泌される抗利尿ホルモンであるアルギニンバソトシンは、脱水症状に反応して上昇します。皮膚と膀胱の水への透過性を高め、膀胱からの尿素とナトリウムの吸収を高め、腎臓の糸球体ろ過率を遅くすることで尿の生成を減らします。 同じく下垂体から分泌されるプロラクチンとオキシトシンも複雑で、プロラクチンは皮膚の水透過性を低下させ〔Hirano 1986, Hirano 1991〕、オキシトシンは腎臓の糸球体濾過率を低下させて膀胱からの水分吸収を増加させます。副腎から分泌されるアルドステロンは、尿細管からの電解質の再吸収を促進します。 肝臓はアンジオテンシンIIを生成し、これが吸水行動を開始します。

対応

軽度の浮腫では両生類用のリンゲル液の薬浴を行い〔Wright et al. 2001〕、重度の場合は0.8~0.9%生理食塩水を使用します。根本治療は、原因を突き止めてから行われます。
〔Hadfield et al.2001〕。

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参考文献

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。