リクガメの糞からウネウネとした白い虫がでてきた・・・〔専門獣医師解説〕

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リクガメの寄生虫

「野生のリクガメは必ず体内寄生虫を持っている」「温浴中に糞と一緒に虫が出てきた」という話をよく聞きます。カメの体調はさほど悪くないのに・・・どうして寄生虫がいるのでしょうかと疑問を持たれると思います。リクガメの糞に出てくる寄生虫は、肉眼で確認できるものは、白くてウネウネしている蟯虫か回虫かのどちらかだと思います。

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蟯虫

どんな虫?

蟯虫は小型の線虫で、白色をしています。オスは体長2~5mm、メスは8~13mmなので、まるでシラスのような感じです。生体はピンのような形をしているので、ピンワーム(Pinworm)と呼ばれています。

リクガメ蟯虫

爬虫類への寄生は100種以上が知られていますが、Oxyuris属の蟯虫が主です。リクガメの蟯虫の寄生率は 94%という高率の報告もありました〔Chávarri et al.2012〕。1個体に複数の種類の蟯虫が感染していることも珍しくはありません。

蟯虫は全ての爬虫類に対して非病原性あるいは病原性がとても低いです〔Marcus 1981,Jacobson 1986〕。多数の蟯虫が大腸に集まるため、糞と一緒に排泄するようになり、特にリクガメでは糞の表面が蟯虫だらけというのも珍しくはありません。

リクガメの蟯虫

検査

糞に成体が肉眼で発見されたり、顕微鏡検査で蟯虫の卵や子虫が検出されて診断されます。蟯虫は沢山の種類がいるため、虫卵の形状も異なります。
リクガメの蟯虫卵  

リクガメの蟯虫

回虫

どんな虫?

回虫は大型の線虫で、白色をしています。主にリクガメに寄生し、長さ10~20㎝、太さは1~3mmで、小さいミミズみたいな感じです。回虫は1種類ではなく、カメに寄生するもの以外にも、ヘビに寄生するものなどいくつかの種類が知られています。

回虫はいくつかの種類が知られており、ギリシャリクガメやヘルマンリクガメ、ヨツユビリクガメでは特に Angusticaecum holopterum が検出され、オスの体長は41.2~125.7mm、メスは84.9~150mm で、細いミミズみたいな感じです〔Chávarri et al.2012,Traversa et al.2005,Ceylan et al.2020〕。

糞とともに成虫が排泄されることもありますが、時には口から吐き出されます。排泄された直後はクネクネ動いています。

回虫

直接的に糞の中の卵から感染し、回虫は体内で様々な部位に成長過程で移動するため、多様の症状が見られます。回虫は基本的に病原性はありますが、少数寄生だと無症状です。

腸に大量に寄生すると、軟便・下痢、栄養障害、嘔吐などが見られます。回虫は肺にも移動するため、口を開ける姿勢が多くなったり、開口呼吸したり、肺炎を起こすこともあります。

回虫には小さい孔へ移動する性質があるため、まれに脳や脊髄、眼球などの各種臓器への迷入が認められることもあります(異所寄生)。脳への寄生すると神経症状が起こります。

検査

糞に成虫が発見されたり、顕微鏡検査で虫卵が検出されますが、腸以外に移動している時は検出されません。
回虫卵

治療

駆虫薬を投与します。蟯虫の卵を含んだ糞を口にしてうつりますので、同居個体との接触は注意しないといけません。ケージの綺麗に掃除を行い、衛生管理にも努めましょう。回虫は2~3回の投薬で駆虫が可能ですが、蟯虫は駆虫しても、再び糞に虫体が発見されたり、糞便検査で虫卵が検出されやすいです。

蟯虫の完全駆虫が難しい理由は?

理由して、蟯虫は種類によって感染や繁殖の仕方などが異なることが考えられます。

  • カメの腸内で卵が孵化して逆行感染して増えるタイプ?
  • 蟯虫のオスがメスの体内に寄生しているという特殊な寄生スタイルするタイプ?
  • 薬剤耐性の蟯虫がいる?
  • 駆虫薬は卵には効果ないので、駆虫薬の間隔が短い結果、タイミング悪くて残った卵が再発育する?

いずれにせよ、投与間隔を変えたり、投与期間を長くする必要があるかもしれません。駆虫薬の種類を変える必要もあるかもしれません。

参考文献
■Chávarri M et al.Differences in helminth infections between captive and wild spur-thighed tortoises Testudo graeca in southern Spain:a potential risk of reintroductions of this species. Vet Parasitol6.187(3-4).491-7.2012
■Ceylan C et al.A Case of Angusticaecum holopterum (Rudolphi, 1819) in a Turtle (Testudo graeca). Turkiye Parazitol Derg20.44(1).64-87.2020
■Marcus LC: Specific diseases of herpetofauna. In Veterinary Biology and Medicine of Captive Amphibians and Reptiles. Edited by Marcus LC. Philadelphia: Lea & Febiger; 1981:114–163.1981
■Jacobson ER.Parasitic diseases of reptiles. In Zoo and Wild Animal Medicine. 2nd edition. Edited by Fowler ME.Philadelphia: WB Saunders & Co; 1986:162–181.1986
■Traversa D et al.Epidemiology and biology of nematodofauna affecting Testudo hermanni, Testudo graeca and Testudo marginata in Italy.Parasitol Res98(1).14-20.2005

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。