リクガメの甲状腺機能低下症~キャベツを大量に与えてはいけない?

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飼育本に書かれています

昔からアブラナ科のキャベツやカブなどの野菜をたくさん与えると甲状腺のトラブルが起こると言われています。これはウサギやハムスターなどの哺乳類、インコなどの鳥類、カメなどの爬虫類においては、ネットや飼育本に書かれています。しかし、具体的にどの野菜をどれくらいの量や期間与えると影響するのかは明確になっていません。

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甲状腺が腫れてホルモンが出なくなる甲状腺機能低下症

甲状腺ではヨウ素を材料にして甲状腺ホルモンをつくります。エサに十分なヨウ素がないと、代償しようと甲状腺の細胞が大きくなりますが(甲状腺腫)、甲状腺ホルモンの分泌する量は正常よりも少ない状態になることが多いです(甲状腺機能低下症)。もちろん甲状腺の腫瘍や炎症などでも甲状腺は腫れます。

原因は本当にキャベツなの?

餌自体にヨウ素が少ないことが問題ともなりますが、キャッサバ、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、芽キャベツ、ケール、カブなどの野菜は甲状腺腫誘発物質であるゴイトロゲン(Goitrogen)という成分が、ヨウ素の取り込みを阻害することが問題なっています〔Donoghue2006,Frye et al.1974〕。亜硝酸と言う成分も甲状腺の合成阻害を起こし、堆肥用の草や牧草に含まれています〔Gyimesi et al.2008,Donoghue 2006〕。しかし、普段のエサから必要量のヨウ素を摂取できている状態であれば、キャベツなどに含まれるゴイトロゲンは少量なので、主食にしない限りは問題を生じ得ないものと思われます。日常から栄養バランスのかたよったエサを食べている動物に対してのみ、甲状腺腫や甲状腺機能低下症を引き起こすのかもしれません。したがって、動物や個体によって栄養状態が異なるために、甲状腺腫や甲状腺機能低下症を起こすキャベツの量などは決まっていないのです。

症状は?

甲状腺腫の最も一般的な症状は、首の周囲の腫れで、ガラパゴスゾウガメとアルダブラゾウガメでなどの大型のカメで報告されています〔Donoghue 2006,Frye et al.1974〕。他の爬虫類では、ヒガシダイヤガラガラヘビ〔Topper et al.1994〕、グリーンイグアナ〔Griffin 2006〕、カートランドヘビ〔Gyimesi et al.2008〕でも報告されています。なお、甲状腺腫は必ずしも機能低下を起こすとは限りません。甲状腺機能低下症は主にカメで報告され、ガラパゴスゾウガメとアルダブラゾウガメでに発生しています〔Frye et al.1974,Norton et al.1989,Donoghue 2006〕。 他のカメでの報告はしばらくありませんでしたは、ケヅメリクガメでの報告がある程度です〔Franco et al.2009〕。甲状腺機能低下症は、活動性の低下、食欲不振、むくみが見られます。

診断できるの?

甲状腺腫の診断は、首の周囲の腫れの細胞の検査をします。甲状腺機能低下症は血液検査で甲状腺ホルモンを測定します。しかし、爬虫類の甲状腺ホルモン値の異常の基準がまだ明確になっていませんので、診断することは容易ではありません。

治療と予防は?

甲状腺機能低下症であればヨウ素を投与します。発生要因となる生体の栄養のバランスが崩れていないか見直して下さい。日常から爬虫類は植物に含まれる微量なヨウ素を取り込んでいると推測されています。ガラパゴスゾウガメやアルダブラゾウガメの生息する島では火山があり、火山のガスにヨウ素が含まれるために土壌にヨウ素が定着し、植物にもヨウ素が含まれているそうです。

海洋国である日本で栽培されている野菜にも、海水のヨウ素が蒸発して雨として日本の土壌に降り注ぎ、植物へと取り込まれる可能性がありますので、甲状腺のトラブルの発生は多くはないのかもしれません。キャベツはカルシウムが少なく、主食には適していない野菜です。甲状腺のトラブルを心配するよりも、代謝性骨疾患になる可能性が高いです。キャベツを主食するのは避け、他の野菜や野草と組み合わせて、あくまでもバリエーションの一つとして加えるとよいでしょう。

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爬虫類の甲状腺って?

甲状腺の形は爬虫類においても種類で大きく異なります。カメとハビは対をなさずに球形であり、気管の腹側の心臓の直前に位置しています。トカゲとワニの甲状腺は人と同じに対になっていたり、葉のような広がった形をしており、特にトカゲは種類によって多様で、対をなさないもの、対をなすもの、二葉のものと様々です(最も多いのは二葉)〔松井 1988〕。カメやヘビでは対になっておらず、ほぼ球形をしています〔Lynn 1960,1970〕。甲状腺の位置は人と同じようにノドの気管にあるものもあれば、心臓の前方にあるものもいます。甲状腺からは代謝をコントロールするための甲状腺ホルモンが分泌されます。このホルモンは人では体温調節、そして心臓や胃腸の働きを活性化し、脳にも作用します。成長や発達を促す作用もあり、体に必要不可欠なものです。爬虫類では脱皮にも関与しているそうです〔Lynn 1970〕。

参考文献
■Donoghue S.Nutrition.In Reptile medicine and surgery.2nd ed.Mader DR ed.Elsevier Inc.St.Louis.MO.p251-98.2006
■Frye FL,Dutra FR.Hypothyroidism in turtles and tortoises.Vet Med Small Anim Clin69.990-993.1974
■Franco KH.Hoover JP.Levothyroxine as a Treatment of Presumed Hypothyroidism in an Adult Male African Spurred Tortoise (Centrochelys sulcata).Journal of Herpetological Medicine and Surgery 19(2).42-44.2009
■Gyimesi ZS,Garner MM,Burns RB.Goiter and thyroid disease in captive kirtland’s snakes,Clonophis kirtlandi.J Herpetol Med Surg18(3).75-80.2008
■Griffin C.Possible thyroid hyperplasia in a green iguana (Iguana iguana).Proc ARAV38.2006
■Norton TM,Jacobson ER,Caligiuri R,Kollias GV.MEDICAL MANAGEMENT OF A GALAPAGOS TORTOISE (GEOCHELONE ELEPHANTOPUS) WITH HYPOTHYROIDISM.Journal of Zoo and Wildlife Medicine20(2).212-216. 1989
■Lynn GW.Structure and Functions of the Thyroid Gland in Reptile.American Midland Naturalist64(2).309-326.1960
■Lynn GW.The thyroid.In Biology of the Reptilia,GansC,Parsons J eds.Academic Press.London.201-234.1970
■Topper et al.Colloid goiter in an eastern diamondback rattlesnake (Crotalus adamanteus).Vet Pathol31.18.380-382.1994
■松井正文.内分泌系.1形態.本論.第1部総説.動物系統分類学9(下B1).脊椎動物(Ⅱb1).爬虫類Ⅰ.内田亭,山田真弓監修.中山書店.p155ー161.1988

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。