【病気】カメの甲羅の破損(甲羅骨折時の樹脂固定)

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原因

甲羅の骨折はカメに一般的に見られる外傷の1つで、原因は、落下、自動車にひかれる、芝刈り機に巻き込まれる、ライトによる火傷、犬などにかまれることなどの事故です〔Divers et al.2006,Fleming 2008,Flanagan 2021〕。

症状

甲羅の損傷によって、肺や肝臓の損傷と出血が見られ、死んでしまうことも珍しくはありません。甲羅の端であれば、多くは命に影響することがありませんが、内臓の損傷などがあると、吐血や下血が見られます。歩かせてみて、普通に歩行をするようであれば、四肢の骨折は除外できるかもしれません。

自宅での対処

甲羅が割れた場合は、割れた部分に土などの汚れがついているようであれば、水で洗浄して消毒をしておいて下さい。割れた甲羅の破片があれば、つなぎ合わせることができるので、かならず探しておいて下さい。

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器用な方であれば、割れた甲羅を一時的に結束バンドで固定してもらいます。

治療

甲羅の修復を主に解説しますが、他にも四肢や骨盤の骨折が併発していたり、内臓損傷をしているとカメの致命傷になりかねますので、別に治療が必要となります。X線や血液検査、場合によってはCT検査などを行い鑑別をします。

鋼製器具固定

甲羅の損傷や骨折の修復には、ネジやワイヤー、プレートなどのいくつかの技術が報告されてきました〔Divers et al.2006,Fleming 2008,Richards 2001,Mitchell 2002,McArthur et al.2004,Rosskopf et al.1981〕。これらの方法を使用すると、骨折部位を経時的に監視し、必要に応じて時間の経過とともに壊死組織も除去することもできます。しかし、これらの方法に必要な整形外科用または歯列矯正用の材料が比較的高価であることがあり、そのことが使用を制限する可能性がありました〔Mitchell 2002〕。決して高価な鋼製器具でなく、工具用の安価なもので代用できます。ネジやワイヤーなどを使用した固定法の多くは、甲羅に穴を開けたり、ネジを入れたりする必要があり、比較的軽微な甲羅にさらに外傷を与えるます〔Richards 2001,Bonner 2000,Mitchell et al.2004〕。鋼製器具以外にも、シアノアクリレート接着剤、締結バンド、衣類用フック、粘着テープなども併用することもあります〔Lins et al.2012〕。一般的な整形外科の原則に沿えば、理想的な甲羅の修復は、完全な付着と安定性が求められ、かつ視覚的な治癒評価を可能にするものでなければなりません。甲羅の修復方法を決めるには、甲羅のどの部分が骨折しているか、周囲の構造が損傷している可能性があるのか、甲羅の一部が欠損しているか、既存の甲羅疾患の有無、他の基礎疾患の有無、カメの全体的な状態とサイズ、負傷の年数、創傷の感染または汚染の有無、頭部、首、四肢または尾の同時損傷、および内臓損傷の存在など、多くの要因を考慮します〔McArthur et al.2004〕。さらに水中などのカメの生活様式、成長期などの治癒速度を優先して選択しなければならないこともあります〔Fleming 2008,Joshi et al.2017〕。

エポキシ樹脂固定

甲羅骨折の閉鎖性素材として、エポキシ樹脂とグラスファイバー布を使用した修復が有効視されていましたが〔Reiss 1999〕、修復後に骨折を視覚的に評価することはできず、樹脂の下に壊死組織が閉じ込められる可能性があり、感染や敗血症を引き起こすことがあります〔Bogard et al.2008〕。また、グラスファイバーは樹脂が骨の端の間に入ると治癒が阻害され、使用時の発熱が強く、露出した組織を損傷することも示唆されていました〔Wellehan et al.2004〕。カメの甲羅の骨甲板のすぐ下では感覚線維によって支配されているため〔Rosenberg 1986〕、疼痛も感じます。

甲羅の欠損がある場合は樹脂が皮膚や内臓に付着しないように、サージセル・アブソーバブル・ヘモスタットMDなどで覆ってから樹脂で固定しています。

甲羅欠損部位のサージセルを詰めます。これはセルロース繊維を酸化処理したもので、いずれ体内に吸収されます。

他の部分はプレートとネジの金具で仮固定します。

カメの甲羅損傷

欠損部分を覆うための自家移植片を切り出します。

切り出した甲羅移植片で埋めてから樹脂で覆います。背甲の金具も骨折部位の消毒を数日繰り返した後に外して樹脂で覆います。

カメの甲羅損傷

エポキシ樹脂の使用

サーフボードの修復キッドになります。

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樹脂と硬化剤を混ぜてクロスファイバーも細かく切って混ぜておきます。

水ガメの開甲手術では、術後はプレートなどで最初は固定し、創傷からの漿液が出なくなってから術創を樹脂で固定します。おおよその目安は7~14日後になります。

新たな樹脂固定

これらのエポキシ樹脂に代わる新たな樹脂塗布が検討され、エチルシアノアクリレートが注目されました。これは(グラスファイバーの場合のように乾燥のための適用部位での有害な熱の発生もなく、高強度樹脂の形成が期待できます〔Santos et al.2009〕。シアノアクリレートは、いくつかの外科手術で骨折修復に使用されており〔Lins et al.2012〕、 アカアシガメの甲羅骨折にグラスファイバー製の人工物を固定するために使用されました〔Almeida 2021〕。シアノアクリレートは化学反応性の液体で、湿気や炭酸水素ナトリウムなどの弱アルカリ性物質と接触すると速乾し、硬い固体になります〔Lins et al.2012,Bhaskar et al.1967〕。湿った組織にも付着し、殺菌性があり〔Ferreira et al.2018〕と止血効果もありながら、組織免疫反応は弱いです〔Lins et al.2012,Bhaskar et al.1967〕。直鎖シアノアクリレート化合物は長鎖成分に比べて機械的強度に優れていますが、メチルシアノアクリレートは細胞毒性を示すため、エチルシアノアクリレートが組織修復に適応しています〔Lins et al.2012,.Singer et al.2008〕。これは、商品化のためにマウス、ウサギ、無脊椎動物で実施された生体内試験結果によって証明されています〔TekBond 2011〕。鳥類では、外傷性嘴損傷で人工インプラントで治療されますが、最大の難しさは人工インプラントの固定にあります〔Coles et al.2008〕。これは、嘴が継続的に成長し、種によって使用法が異なるため、異なる機械的相互作用が必要になるためです〔Getty et al.1986,Prazeres et al.2013〕 。シアノアクリレートなどの接着剤は、表面への接着性、有機組成、生体適合性があるため、さまざまなタイプの嘴の人工インプラントを固定するために使用されています〔Bhaskar et al.1967,Prazeres et al.2013,Fecchio et al.2010〕。そこで、甲羅の骨折修復において外科手術の縫合部位などで使用するシアノアクリレートの使用を用いて接着はもちろん、重生成された樹脂に剛性を与える重炭酸ナトリウムとの組み合わせすことで、殺菌性があり、毒性がなく、手術時間が短く、適用しやすい、より耐性のある樹脂の利用が検討されました。de Oliveiraらは、甲羅の骨折の起きたアカアシガメに、強力接着剤の Tek Bond ® (エチルシアノアクリレート) がアルカリ性無機化合物である重炭酸ナトリウム (重炭酸ナトリウム、Sigma-Aldrich ®)と組み合わせて使用して、よい結果をもたらしました〔de Oliveira Horvath-Pereira B et al.2022 〕。甲羅の欠損部位の領域には、樹脂と胸部臓器との接触を避けるために、物理的または免疫反応を引き起こす可能性を避けるため、開いたスペースをガーゼで覆い、シアノアクリレートを骨折の縁とガーゼに滴下しました。次に、骨折部の両側を密着させたまま、重曹をシアノアクリレートの上に散布しました。この混合物は瞬時に高耐性樹脂となり、塗布部位の温度変化もなく、骨折部全体が閉じました。その後、動物の健康や傷の治癒を損なうこともなかったですが、樹脂を塗布してから 8 か月後、再建した断片はガーゼの分解により失われましたが、耐久性がなかった欠点が出てきました。

Frontiers | Case report: An innovative non-invasive technique to manage shell injuries in C. carbonarius

まとめ

甲羅が割れたらすぐに動物病院で受診すべきです。受診を過ぎにできない場合は、食欲や出血の有無、歩行を確認し、割れた甲羅は綺麗にして消毒をします。内臓損傷は致命傷になるので、要観察です。甲羅の修復は最適な方法はまだ確立されていませんので、現在はその状況で最適な方法を選択して行うしかありません。

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。