カメのお尻から何かでています!救急事態です!〔専門獣医師解説〕

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グロい物が出ている!

カメのお尻(総排泄孔)は総排泄腔の開口部で、ここには直腸、膀胱、尿管、ペニス、卵管が開口しています。お尻から何か出ている場合は、総排泄腔自身が反転して逸脱することもありますが、多くは直腸、ペニス、卵管が、それぞれ裏返って出てきた組織です。この中で膀胱脱の発生は最も頻度は少なく、尿管の開口部は小さな穴なので逸脱することはありません。便秘(食滞)や消化管内異物、腸炎、膀胱結石、産卵などの過度に緊張がかかった結果、これらの組織が逸脱します〔Charles et al. 2002,William et al.1988, Rajkumar et al.2014〕。実際に逸脱した組織を見て、どの臓器が脱出したかを判断することは難しいです。多くが炎症や浮腫が起き、特に水ガメは水中にいる時間が長いと、炎症のあった組織は白くふやけて見た目で分かりにくくなります。

膀胱脱

逸脱した膀胱は薄い壁で半透明をしていますが、まれな発生です。膀胱の逸脱の多くは膀胱炎が原因です。

ペニス脱

リクガメのペニスは肉色で、細いキノコのようなペニスをしています。引っ込めたり、飛び出たりを繰り返すこともあります。ペニス脱は発情が原因で、もちろんオスに発生します。出っぱなしになって床に擦りつけた状態だと炎症で戻らなくなります。ペニスの炎症がひどくなければ押し込んで戻して、何針か総排泄孔を縫合しますは、炎症がひどい場合は外科的に切除するしかありません。爬虫類のペニスは尿がでる尿道が通っていなおので、尿が出なくなる心配はありません。もちろん交尾は出来なくなるので、繁殖には使えなくなります。

水ガメのペニス脱

卵管脱

逸脱した卵管の外見は直腸と似ていますが、蛇行した構造なので、一見すると肌色の細いアコーディオ状をしています。下の写真は卵巣卵管摘出手術の写真で、甲羅を開けて卵管を引っ張り出しています。この卵管は正常な色と太さをしています。

リクガメの卵管

産卵すると腹圧がかかり、そして卵管の収縮にも異常をきたして逸脱します。総排泄孔から出てくると、炎症や浮腫がひどくなり、赤色~赤紫色になって原型をとどめていないことが多く、判断が難しくなります。

水ガメの卵管脱

出てきた組織に卵や卵殼の欠片、卵黄や卵白などが付着している時があります。

水ガメの卵管脱

卵管脱の場合は、現在お腹の中で卵や卵胞(卵になる前の段階)があるのか、レントゲンやエコー検査で判断するきとが特に重要です。卵巣や卵管に大きな異常があると数日で亡くなってしまうこともあります。単に出てきた卵管だけを切除すると、その後に産卵できなくなります。場合よっては外科的に甲羅を開いて、卵巣卵管摘出手術が得策なります。

直腸脱

直腸は筒状をして内腔があるため、便が内腔から排泄されます。直腸脱の発生は雄雌関係ありません。便秘や消化管内異物などの慢性の消化器疾患により腹圧がかかることで起こります。炎症が起きていない状態だと表面が平滑です。直腸は基本的に赤色で筒状の構造をしていますが、総排泄孔から出てくると、炎症や浮腫がひどくなると赤紫色をしており、原型をとどめていないと、卵管との判断が難しくなります。出てきた筒状構造物の先端から糞が出ていることで、直腸であると判断できます。

リクガメの直超脱

外科的に直腸を切除し、元に戻します。しかし、出てきている直腸は全てではないので見える範囲で切除して、残りは戻して薬で治療を行います。

リクガメの直腸脱
リクガメの直腸脱
リクガメの直腸脱
リクガメの直腸脱

   

緊急事態なの?

すぐに死んでしまうことは多くの場合はありませんが、カメにとっても痛いし、出てきた組織の炎症がひどくなりますので、急いで動物病院で受診をして下さい。

病院行く前に家で何かできないの?

いずれの突出した組織も、洗浄して乾燥しないように水で濡らし、可能であればとりあえずお尻の中に戻します。早急に動物病院で診察を受けるべきです。しかし、戻す処置は難しくてできない場合は無理をしないで下さい。出てきた組織は床に擦ったりする以外にも、後足でひっかいて炎症がひどくなることがあります。炎症を通りすぎて壊死しているケースも多いです。

水ガメ直腸脱
大きなカメであれば動物用オムツを履かせたり、女性の生理用ナプキンやガーゼをお尻にあててテープで止めて下さい。もちろん水ガメは水からあげておかなければなりません。

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。