【病気】水ガメの目が腫れた(ビタミンA欠乏症/ハーダー腺炎)

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目が腫れる

水ガメの目が腫れた・・・これは実際は目ではなくて、眼瞼やハーダー腺という組織がビタミンA欠乏が原因で腫れたり、炎症が起こっているのです。

多くがビタミンA欠乏症ですが、他にも眼瞼の外傷、肝不全腎不全による浮腫、脱皮不全で白い皮膚がくっ付いているということが原因のこともあります。

眼瞼の外傷
眼瞼の浮腫

ハーダー腺

ハーダー腺とは涙腺の一つで、目の内側の奥にあり、脂質を分泌して目の潤滑作用があります。ハーダー腺はHarder氏によって報告されたので、その名前が付いています。腫れると下のカメのように目の内側のしこりのように見えます。

カメのビタミンA欠乏症

ビタミンA欠乏症

爬虫類のビタミンA 欠乏症は、水ガメ以外でも、エボシカメレオン、グリーンイグアナ、キスイガメ、ハコガメ、ワニなど多くの種類で報告されています〔Cojean et al.2018〕。その中でもカメに多く見られる傾向があります。

カメの症状

特に幼体~若い水ガメでは、目の奥にあるハーダー腺という涙を分泌する腺に影響が見られます。具体的には涙腺であるハーダー腺の涙管や涙腺、結膜の粘膜が変性し、涙管には変性した組織がつまって涙が蓄積することでまぶたが腫れます(眼瞼浮腫)。細菌の二次感染を起こすと炎症を起こすことで、赤くなり、膿がたまります〔Lawton 2006,Brown et al.2004,Boyer 2006〕。冬眠前に十分に脂溶性ビタミンが摂取できていないと、冬眠中に消費され、冬眠から覚醒した後に発生しやすくなります。特に幼体のカメに好発します。

カメのビタミンA欠乏症

多くの場合は目が腫れて開かなくなる症状で発見されます。目の症状は片目のことも両目のこともあります。

カメのビタミンA欠乏症

ビタミンA は皮膚や粘膜を維持するのに役立ち、 爬虫類において欠乏すると皮膚や粘膜が乾燥して変性し、ハーダー腺炎以外にも、皮膚、鼻や肺、中耳などにも感染を起こしやすくなります。皮膚炎やシェルロットなどの発生要因としても上げられています。腸粘膜の変性も起こすので下痢が見られます。活動性や食欲の低下も起こり〔Boyer 2006〕、ビタミンA はそれ以外にも、成長や繁殖、視力にも関与しています。腎臓の細胞も変性して腎不全も起こりえますが、水ガメは常に水を飲んでいるので症状は軽度にすみます。

カメの肺炎

原因

餌のビタミンA不足が主な原因で、水ガメではササミや低品質のペレットなど、ビタミンA含有の少ない餌を給餌していることです。実際はビタミンAだけの欠乏だけでなく、多くの栄養素も一緒に欠乏している可能性が高いです。

発生

近年、爬虫類のビタミンA欠乏症において、体内に存在するビタミンA及びβ カロチンの吸収・代謝の中心的な役割を演ずるβ カロチン中央開裂酵素(β-carotene15,15′-monooxygenase:BCMO)が注目され、研究が進んで色々なことが分かってきました。肉食や雑食性の爬虫類の方がビタミンA 欠乏症を発症しやすく、草食性の爬虫類は発症しにくいそうです〔Mans et al.2014〕。その理由は、肉食や雑食性の爬虫類ではBCMOが発現せず、草食性の爬虫類ではBCMO により植物のβカロチンからビタミンAを転換しているという考えからきています。しかし、BCMOは各爬虫類に存在するのか、ビタミンAにどの程度転換されるのかなどは現在研究されている段階です。

治療

軽い症状であれば、水ガメであれば、ニンジン、レバーやミミズといったβカロチンやビタミンA が豊富な餌やサプリメントを与えます。重症になるとビタミンA の注射が必要になります。しかし、ビタミンAは過剰投与にならないように、投与には十分な注意が必要です。二次感染が見られる場合は、抗生物質の点眼や内服、注射なども行ないます。

予防

普段からビタミンAを多く含む餌をとるように心がけましょう。水ガメならミミズやエビなどの動物性食品や高品質のペレットを選ぶのが無難ですが、それに加えてビタミンAの栄養剤も大量に与えると副作用が起こります。ビタミンAは摂取後もしばらくは体内(肝臓や脂肪)に貯蔵され、そのため多量に摂取すると過剰症が起こり、皮膚の乾燥、炎症、潰瘍などの副作用が見られます。なお、ニンジンなどの野菜に含まれているβ カロチンは多く与えても副作用が起こることはまれなので、水で浮くようにカットして生でも茹ででもよいので与えてみましょう。

ビタミンA とβ カロチンの解説

ビタミンA は、レチノール、レチナール、レチノイン酸の総称で、脂溶性ビタミンに分類されます。ビタミンA の主要な成分であるのはレチノールで、肉などの動物性食材に含まれており、そのままビタミンAとして作用を発揮します。人では肌や粘膜、目の健康維持に役立ち、成長の促進にも必要なので、妊婦に必要なビタミンと言われています。しかし、ビタミンA は過剰にとると、食欲不振や皮膚病などの副作用が起こります。一方、緑黄色野菜などの植物性食材には、体内でビタミンA に変換するカロチン(カロテン)が多く含まれています。カロチンは植物の色素で、カロチン(Carotene)の語源はニンジン(Carrot)からで、ニンジンのオレンジ色のもとになっています。カロチンにはα 型、β 型、γ型、クリプトキサンチンなどがありますが、ビタミンA の効果が最も高く、自然界に多く存在しているのはβ カロチンです。しかし、βカロチンも全てがビタミンA に変換されるわけではなく、吸収する効率やビタミンAへの転換率を考慮すると、βカロチンはレチノールの6 分の1の効力でしょう。なお、βカロチンはニンジン以外の緑黄色野菜であるカボチャやブロッコリーなどにも多く含まれています。βカロチンによるビタミンA のとりすぎで起こる副作用ついてはあまり心配する必要はないです。利用されなかったβ カロチンの一部は脂肪組織に蓄えられ、皮膚にも沈着します。そのため、赤カナリヤの色揚げ用のサプリメントにはβ カロチンが配合されています。赤色や黄色のフトアゴヒゲトカゲではも、きれいな色になることが期待されて緑黄色野菜を与えられています。

ビタミンA強化ペレットはコレ!

スペクトラム ブランズ ジャパン テトラ レプトミン スーパー 浮上タイプ

中粒:85g    170g
大粒:310g

獣医師推薦フード!テトラの水ガメ最高峰ペレットと言えるでしょう。赤いペレットで、嗜好性の高い天然エビを贅沢に配合したことにより、嗜好性が高くなり、元気のない時の栄養補助食としても使えます。カルシウムとビタミンD3を強化配合により、甲羅や骨を丈夫にし、カメに多いビタミンA欠乏症を予防するために必要なビタミンAも含まれています。健康なカメを目指したいならば、最初からこの商品を与えても良いでしょう。短いスティック状で、85gと170gの容量があり甲長10cm以上のカメ、スティックが大きくて長くなった310gの商品は15cm以上のカメ用になります。

食欲がない時は、水ガメは生のレバーやミミズなど血生臭いエサを食べる傾向があります。レバーもミミズもビタミンAが豊富に含まれています。カメの大きさに合わせて、小さく切ってあげます。あっ、ちなみにレバーは何のレバーでも良いですが、生のままで与えて下さい。しかし、毎日大量に与えると、上で述べたように副作用の恐れがあるので、食欲をあげるきっかけとして考えましょう。
すでに目が腫れてしまっている場合は、カメ専用の栄養剤などの投与を試みて下さい。

ビタミンAサプリならコレ!

テトラ レプチゾル 50mL

目が腫れたらまずはコレを与えて!カメを水槽から出し、口は開けるので、直接口の中に数滴入れてみて!別水槽にカメを入れて水槽にも数滴垂らして混ぜてみて!総合ビタミン剤の液体なので、特別ビタミンAが多く配合されていないので、数滴であれば過剰症にもなりません。

コレがポイント!

・水ガメの目が腫れる原因はビタミンA欠乏症が多い
・ビタミンA欠乏症は目だけでなく、腸、肺、皮膚、腎臓にも影響がでる
・餌のビタミンA不足が主な原因
・冬眠前に十分に脂溶性ビタミンが摂取できていないと冬眠中に消費され、覚醒後に好発する
・実際は目でなく、眼瞼やハーダー腺が腫れる

動物看護師の教科書!

カラーアトラスエキゾチックアニマル 爬虫類・両生類編 第2版鳥類編 緑書房

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参考文献

  • Boyer TH.Hypovitaminosis A and hypervitaminosis A.In Reptile Medicine and Surgery.2nd ed.Mader DR ed.Saunders Elsevier.St.Louis MO.2006
  • Brown JD,Richard JM,Robertson J et al.Pathology of aural abscesses in free-living eastern box turtles (Terrapene carolina carolina).Journal of Wildlife Diseases40.704-712.2004
  • Cojean O,Lair S,Vergneau-Grosset C.Evaluation of betacarotene assimilation in leopard geckos (Eublepharis macularius).J Anim Physiol Anim Nutr (Berl) 102.1411-1418.2018
  • János Gál,Zoltán Demeter,Elena Alina Palade,Miklós Rusvai,Csaba Géczy.Harderian gland adenocarcinoma in a Florida Red-bellied Turtle ( Pseudemys nelsoni ).Acta Vet Hung57(2).275-281.2009
  • Lawton MPC.Reptilian ophthalmology.In Reptile medicine and surgery.2nd ed.Mader DR ed.Elsevier.St Louis.MO.323-342.2006
  • Mans C,Sladky KK.Diagnosis and management of oviductal disease in three red-eared slider turtles (Trachemys scripta elegans).J Small Anim Pract53.234-239.2012

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。