ウサギの検疫対象三大疾患(野兎病)~人にも感染する!

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「ノウサギ病」?「やとびょう」と呼びます!

野兎病は野兎病菌(Francisella tularensis)という細菌で起こる感染症で〔La Regina et al.1986,Magee et al.1989,Quenzeret al.1977〕。ウサギから人にも感染を起こす人獣共通感染症で、特にノウサギや野生のげっ歯類(プレーリードッグなど)からの感染が懸念されいます。日本ではプレーリードッグにおいて野兎病がアメリカで発生した事例から、現在輸入を禁止しています。

プレーリードッグの野兎病の詳しい解説はコチラ!

日本では家畜伝染病予防法における届出伝染病、感染症法における四類感染症に指定され、そのために海外からウサギを輸入する場合などは、空港や港において、検疫が行われています。

日本のウサギの検疫の解説はコチラ!

日本ではノウサギとの接触による感染が多く報告されているためこのような病名がつけられました。アメリカのカリフォルニア州のトゥーレアリ(Tulare)で発見されたことからツラレミア (Tularemia)、日本で野兎病を研究した大原八郎次医師の名から大原病 (Ohara’s disease)とも呼ばれています。野兎病菌は血清学的には単一ですが、菌株の生化学的性状から下記の3亜種があげられ、本菌は亜種により病原性が異なります〔Morner et al.2001,Ellis et al 2002〕。

表:野兎病菌の亜種

亜種特徴
F. tularensis tularensi北米に分布する強毒型で、有効な抗生物質が投与されなかった場合の死亡率は5%です。主にウサギにマダニを介して感染します。Type Aとも呼ばれていました。
F. tularensis holarctica北米~ユーラシア大陸に分布する弱毒性型で、有効な抗生物質が投与されていなくても、死亡率は1%未満で人での死亡例はまれです。日本に分布する野兎病菌もこの亜種です(biovar japonica)。Type B subsp. palaearcticaとも呼ばれていました。
F. tularensis mediasiatica 中央アジア~旧ソ連の一部の地域に分布し、病原性は弱い。ノウサギ、トビネズミ類とマダニ類の感染環で維持されています。

どうやって人に感染するの?

ノウサギや野ネズミなどの野生動物のほか、多種類の哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類、そしてマダニや蚊などの吸血昆虫からも菌が分離されています〔大原 2003〕。野兎病菌は極めて感染力が強く、主に感染したノウサギなどの剥皮や調理の際に血液や肉に接触することで人に感染します。毛皮を扱う従事者、食肉業者、猟師などの特定の職業における感染症です。ノミ、マダニ、蚊などを媒介にして経皮的にも感染します。なお、人から人への感染は起こりません。皮膚の傷からの感染でなく、健康な皮膚からも侵入して感染できるという特徴を持っています〔吉田 2004〕。

どの国で発生しているの?

人での野兎病はアメリカやカナダ、ロシア、北アジアなど主に北緯30度以北の北半球に広く発生しています。日本国内では東北や関東で多発し、ダニの活動する5月と狩猟時期の12月が主で、1924~1998年まで1375例が報告されました。米国やスウェーデンなどの海外の汚染地域では毎年散発的に起っており、時に流行が起こっています。近年の日本での人の野兎病は非常に稀となりました。ノウサギを捕獲・解体する機会が減少したことが、その理由です

症状は?

日本における人への感染の多くはノウサギとの接触によるものです。潜伏期は3~5日で、発熱、頭痛、悪寒、嘔吐、衰弱が見られ、治療を受けないと3割以上の死亡率となりますが、適切な治療が行われればほとんどは回復します。皮膚から侵入した野兎病菌はにより、侵入部位に関連した所属リンパ節の腫脹が見られます〔Ohara et al.1991〕。

ウサギ

ノウサギや野生のげっ歯類は感受性が高く、敗血症を起こして急死することが多いです。家畜では、羊や山羊などが高感受性で、馬、牛、豚は感受性が低いです。症状が発現するとしたら、発熱、過呼吸、嗜眠、食欲不振、下痢、リンパ節の腫脹などが見られます。

野兎病を疑ったら?

野兎との接触歴があれば野兎病を疑い、早急に病院で受診して下さい。感染症法の四類感染症に定められているため、診断した医師は直ちに最寄りの保健所への届出が義務付けられています。

ウサギ

家畜伝染病予防法の届出伝染病に定められているため、対象動物は馬,めん羊,豚,いのしし,兎.診断した獣医師は直ちに最寄りの家畜保健衛生所へ届出が義務付けられてます。.

治療

感受性のある抗生物質(ストレプトマイシンなど)を投与します。人では早期に治療を開始すればそのほとんどが回復します。

予防は

人では、流行地においては死体を含め、野ウサギや野生のげっ歯類との接触回避、マダニなどの媒介動物による刺咬を防ぐことなどがあげられます。関東や東北地方にお住まいのペットのウサギでは、人と同様の予防処置を考えて下さい。アメリカでは実験室のバイオハザード対策として、 人用の弱毒生ワクチンが使用されていますが、日本にはありません〔Petersen et al.2005〕。

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参考文献

■Ellis J,Oyston PCF,Green M,et al.Tularemia.Clin.Microbiol.Rev15.631-646.2002
■La Regina M,Lonigro J,Wallace  M.Francisella tularensis infection in captive,wild caught prairie dogs.Lab Anim Sci36.78-80.1986
■Morner T,Addison E.Tularemia.In Infectious Diseases of Wild Mammals.Williams ES,Barker IK. eds.Iowa State University Press.p303-312.2001
■Magee JS,Steele  RW,Kelly  NR,Jacobs RF.Tularemia transmitted by a squirrel bite.Pediatr Infect Dis J8.123-125.1989
■Ohara Y et al.Clinical manifestations of tularemia in Japan―Analysis of 1355cases observed between 1924 and 1987―.Infection19:1-4.1991
■Petersen JM,Schriefer ME.Tularemia:emergence/re-emergence.Vet.Res36.455-467.2005
■Quenzer RW,Mostow SR,Emerson  JK.Cat-bite tularemia.JAMA238.1845.1977
■大原義朗.野兎病(Tularemia).動物由来感染症―その診断と対策―.神山恒夫,山田章雄編.真興交易医書出版部.東京.p209-213.2003
■吉田眞一,柳雄介編.戸田新細菌学.改訂32版.南山堂.東京.2004

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。