ウサギの胸腺腫~目が飛び出て苦しくなる

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胸腺とは何なの?

胸腺とは胸腔に存在し、リンパ球であるT細胞の分化や成熟など免疫系 に関与する 一次リンパ器官です。胸小葉とよばれる二葉から構成されています。

胸腺の腫瘍

胸腺腫は胸腺実質でなく、胸腺上皮由来の良性腫瘍です。多くの哺乳類では成熟後に胸腺は退縮しますが、ウサギでは退縮せずに残っており、何らかの理由で腫瘍化します。腫瘍化と同時に胸腺はリンパ組織であるため、内容物に正常なリンパ球を含んでいます〔Atwater et al.1994〕。ウサギの胸腺腫はその動向など、解明されていないことが多いです。

初期は腫瘍が発生しているだけで、無症状です。

腫瘍は次第に大きく成長してきますが、その進行は個体差があります。胸腺腫は嚢胞を形成することもあります。

 

腫瘍のほとんどを嚢胞が占めるようなこともあり、肺や心臓を圧迫します。

 

X線検査では胸腺腫と心臓が被さって映るため、一見すると心拡大に見えます。

何歳から発生しやすいの?

ウサギの胸腺腫は,中齢から高齢で発生が認められ、5~10歳、6.1(3~10)歳と報告があります〔Künzel F et al.2012〕。

どんな症状?

呼吸困難,運動不耐性,両側の眼球突出,剥離性皮膚炎,前大静脈症候群などが認められます〔Künzel F et al.2012, Pignon et al.2010,Dirven et al.2009〕。最も認められるのは、呼吸困難(76.9%)で、次いで運動不耐性(53.9%)、両側の眼球突出(46.2%)と言われています〔Künzel et al.2012〕。眼球突出は、胸腺腫が胸腔内を占拠して大きく増殖することで、静脈圧が上昇して眼窩の血管が怒張することで発生します。初期は眼球突出でなく第三眼験の突出がよく見られます。

まれですが、剥離性皮膚炎も起こり、胸腺における異常な抗原提示によるT細胞の関連が考えられています〔Florizoone 2005〕。

診断は?

確定診断は縦郭に発生した腫瘤を一部切除して病理検査になりますが、ウサギに侵襲性が高いために、特徴的な症状やCT検査のみで胸腺腫を診断します。


 

切除でなく、胸郭の外から針を刺して検査(細胞診検査)を行うこともありますが、腫瘍内に含まれている正常なリンパ球しか採取できません。

 

治療あるの?

ウサギ胸腺腫に対する治療としては、以下のステロイドやシクロスポリンの内服投与、外科的切除、定期的な嚢胞穿刺、放射線治療があります。正直言うと内服薬のみで良好な反応を認めた報告は少ないです。

  • ステロイドの内服投与
  • シクロスポリンの内服投与
  • 外科的切除
  • 定期的な嚢胞穿刺
  • 放射線治療

ステロイドの内服投与

ステロイドとは副腎皮質ホルモン剤で、炎症を悪化させたり、肝臓などにも負担をかける恐れがあります。投与前には全身の状態を血液検査などを含めて検査を行ってから投与を行います。ステロイド単独で最小限の副作用と症状が減少したり、生存期間の優位な延長の報告もあります〔Chih AP et al.2021〕。しかし、胸腺腫を完治させる治療でなく、縮小あるいは維持する選択肢として考えて下さい。下記の嚢胞穿刺と併用することも多いです〔Künzel 2012〕。

シクロスポリンの内服投与

免疫抑制剤であるシクロスポリンを投与する方法が試され、胸腺腫が縮小した例が報告されています〔Park et al.2014〕。人でもシクロスポリンの服用で胸腺腫が縮小された例もあるが〔望月ら 2003〕、シクロスポリンの免疫抑制効果による抗炎症作用やアポトーシス誘導などの効果とされているが、その作用効果は解明されていない。

定期的な嚢胞穿刺

全身麻酔下で胸腺腫に発生した嚢胞を穿刺吸引する治療です。しかし、この治療は一時的なものであり、数週間以内に再び嚢胞は大きくなりますので、繰り返して行われます。胸腺腫瘍に大きな嚢胞が形成された症例に限られます。

外科手術

腫瘍サイズが比較的小さいようであれば外科手術が第 1 選択ですが、ウサギは麻酔の管理も難しく、これまで成績がよくありません。7頭の外科切除(胸腺腫全切除また部分切除)をした所、 5頭は術後3日以内に死亡し、2頭は術後良好でしたが、 部分切除であったために、それぞれ6ヵ月後と34ヵ月後に再発が起こり、最終的に安楽死をした報告があります〔Künzel et al.2012〕。ウサギは解剖学的特徴から気管挿管も容易ではなく、麻酔管理や手術の侵襲性の問題もあり、現状として外科治療は高い死亡率を伴うと思われます。

放射線治療

外科的療法が不適応な症例に対しては、犬や猫では放射線治療が適応されます〔Aronsohn et al.1984, Smith et al.2001〕。しかし、放射線治療を施すには全身麻酔で数回の施術が必要なこと、副作用も懸念されています。Andres ら(2012)の治療では、超高圧放射線療法(RT)で19頭での成績は、生存期間は平均313日で、14日以内に急死したウサギ3頭を除けば平均727日でした。死亡個体は体重1.57kg以下の小型であり、合併症は稀でしたが、心不全、肺炎、脱毛などが見られました〔Andres et al.2012〕。Chih ら(2021)の治療では、強度変調放射線治療(IMRT)で5頭での成績は、1頭が麻酔合併症で死亡しましたが、全生存期間は無治療群と有意差なかったということでした〔Chih et al.2021〕。国内では放射線治療を備える動物病院は限られており、さらに具体的な治療も確立されておらず、問題点も多いのが現状です。

まとめ

完治させることが難しい腫瘍ですので、ウサギの状態が悪化しないように胸腺腫のコントールをするつもりで、治療法を主治医と相談して下さい。苦しいのがウサギにとって最も辛い状態だと思います。

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参考文献
■Andres KM et al.The use of megavoltage radiation therapy in the treatment of thymomas in rabbits:9 cases.Vet Comp Onco10(2):82-94.2012
■Aronsohn M,Schunk K,Carpenter J,King N.Clinical and pathologic features of thymoma in 15 dogs.J Am Vet Med Assoc184:1355-1362.1984
■Atwater SW,Powers BE,Park RD,Straw RC,Ogilvie GK,Withrow SJ.Thymoma in dogs:23 cases(1980-1991).J Am Vet Med Assoc20:1007-1013.1994
■Chih AP et al.Outcomes and survival times of client-owned rabbits diagnosed with thymoma and treated with either prednisolone or radiotherapy, or left untreated.Journal of Exotic Pet Medicine38.35-43.2021
■Dirven M,Cornelissen J,Van den Ingh T,Van der Luer R:Case report:Malignant thymoma and uterine carcinoma in a rabbit.Tijdschr Diergeneeskd134:146-150.2009
■Florizoone K.Thymoma-associated exfoliative dermatitis in a rabbit.Vet Dermatol16(4):281-284.2005
■Künzel F et al.Thymomas in Rabbits:Clinical Evaluation,Diagnosis,and Treatment.J Am Anim Hosp Assoc48 (2):97–104.2012
■Park YT,Ito J,Okano S.Diminished Thymoma by Treatment with Cyclosporine in a Rabbit.Journal of Animal Clinical Medicine23(3).115-118.2014
■Pignon C,Jardel N:Bilateral exophthalmos in a rabbit.Diagnosis:Thymoma.Lab Anim.NY39:262-265.2010
■Smith AN,Wright JC,Brawner WR Jr,LaRue SM,Fineman L,Hogge GS, et al : Radiation therapy in the treatment of canine and feline thymomas:Aretrospective study(1985-1999). J Am Anim Hosp Assoc37:489-496.2001
■望月博史、岡田恒人、吉澤弘久、鈴木栄一、下条文武.シクロスポリンによって赤芽球癆の改善とともに腫瘍縮小を認めた再発性胸腺腫の1例.日本呼吸会誌41:755-759.2003

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。