フロッピーウサギ症候群(FRS)

何なの?

Floppy rabbit syndrome(FRS)という英名のウサギの神経疾患です。Floppyとは、「だらりとした」「元気のない」と言う意味で、全身性の虚脱が起こります。ウサギにおいては品種や年齢による傾向はなく、突然の発症のこともあります。全身が衰弱または弛緩して、ウサギは飛び回ることができなくなったり、横臥して寝たきりになることもありますが、 後肢または前肢のみ、または四肢全てが動かなくなることもあります。一般的には食欲低下が起こりますが、低下しないウサギもいます。原因は不明で、多くの症状は治療せずに放置するとに死に至る可能性があります。また、主に 1 歳までのウサギに発生するヘッドダウン症候群(Head-down syndrome)と呼ばれる疾患も、FRSの一種とも考えられています。 これはヨーロッパよりもアメリカでより頻繁に観察され、 ウサギは首の筋肉の緊張が欠如しているため、頭を高く保つことができずに、 頭は前方に曲がります。エンセファリトゾーン症も疑われていますが、詳細は不明で、逸話的な疾患かもしれません。

考えられる原因は?

FRSの詳細な原因や病態は不明で、以下のことが昔から考えられてきました。

  • 低カルシウム血症 (授乳中のウサギに好発)
  • 低血糖 (幼若ウサギに好発)
  • 低カリウム血症(吸収不良が主な原因)
  • 低体温症 (消化管うっ滞が主な原因)
  • 脊髄損傷(脊椎外傷が原因)
  • 脳脊髄炎(エンセファリトゾーン症が好発)
  • 筋ジストロフィー(ビタミンEおよび セレン欠乏)
  • 中毒(植物中毒やマイコトキシン)

実際には原因が特定できないことが大半ですが、エンセファリトゾーン症を含む脳や脊髄の問題がその中でも最も怪しいと考えています。また、新たな見解として、FRSの神経学的所見は、下位運動ニューロンの状態を示唆しており、多発性根神経炎が疑われ、犬のクーンハウンド麻痺人のギラン・バレー症候群と類似していることも示唆されています。これらの神経疾患でさえも、 現時点では生前診断の確定は難しいです。

犬のクーンハウンド麻痺

ターンハウンド麻痔は、アライグマと壊触した北米の猟犬で起こる神経疾患です。接触1~2週間後に発生し、犬は後肢が弱くなり、前方に肢が広がる症状を示しますが、重症だと全身の麻痺が起こります。原因は不明ですが、数週間~数ヵ月で自然治癒します。アライグマの唾液に病原体が含まれている細菌やウイルスが原因である可能性もありますが、自己免疫関連も論議されています。

人のギラン・バレー症候群

ギラン・バレー症候群は、人の自己免疫疾患の一種で、末梢神経が障害を受けて、手足の脱力やしびれ、痛みなどを引き起こす神経疾患です。風邪の症状や激しい下痢を経験した後に発症することが多く、治療としては免疫グロブリンの点滴または血漿交換が行われます。

ウサギのエンセファリトゾーン症の詳しい解説はコチラ!

看護は?

予後は原因によって異なり、不良から良好まで様々です。食欲不振の場合、強制給餌と水分補給を行います。また、自ら動けないため、床敷をクッション性のあるもに変更し、排泄物の掃除をしっかりと行わなければいけません。マッサージなどの四肢の運動や数時間ごとに体位を変えることも必要になります。軽度の原因であれば2 ~ 7 日以内に回復しますが、症状の重症度が回復期間の長さに影響を与え、死に至ることもあります。

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。