ウサギの目の解剖と仕組み

ウサギの目の病気

ウサギには「涙や目ヤニが多い」という目のトラブルをよく聞きます。全てが目の病気であるかと言うとそうでもなく、他の病気が原因で目に症状が現れることも珍しくはありません。下の写真のウサギのように、鼻炎の原因の細菌が目ヤニを引き起こします。

ウサギの鼻炎と目ヤニ

目なのに体のチェック?

「涙が多い」という原因は不正咬合、「目ヤニが多い」という原因は肺炎やスナッフルなどの呼吸器の病気でもよく起こります。他にもエンセファリトゾーンという寄生虫が目に病気を起こします。そのため、ウサギが目の病気を示した場合は目の検査だけでなく、全身の検査が必要になることもあります。

ウサギの目の病気

ウサギの目のしくみ

ウサギの目の構造

ウサギの眼球の構造は私たち人を含めて他の哺乳類とほぼ同じで、仕組みはカメラの構造に似ています。

目の中に光が入ってきて、光が最初に通過するのは透明な角膜です。角膜は表面の涙や眼球内部の房水(眼球内の水)から、酸素と栄養を受け取っています。ウサギの角膜は、眼球表面の約30%を占め〔Donnelly 2011〕、他の動物と比べて大きく、一方で厚さは人の約6割の厚さで薄いです〔Kaufman 1989〕。

目に入ってくる光の量を調節するのが虹彩になります。眩しければ虹彩が小さくなり、暗ければ拡がり、カメラに例えると絞りにあたります。ウサギの目は黒目が多く見えますが、それはこの虹彩の部分です。なお、ウサギの虹彩の色は、茶褐色、灰茶色、薄青色、赤色と多彩で、左右の眼で虹彩の色が異なることもあります。

ウサギの目
ウサギの目

 

 ウサギの目 ウサギの目

虹彩の一部が違う色が入っていることもありますが、これらの色の相異は病気ではありません。

ウサギの目

虹彩には瞳孔という穴が開いていて、この穴の大きさを変えることで光の量を調整します。次にピント合わせるのが水晶体で、カメラに例えるならばレンズになります。厚みを変えることで遠近調節をし、角膜と同様に水晶体は透明です。

水晶体自身では厚みの調節ができないために、回りにくっ付いている毛様体などが連動します。毛様体の筋肉が緊張や弛緩することにより、水晶体の厚みを変えてピントを調節しますが、また房水も産生する役目もします。ウサギの水晶体は球に近い形をしており、毛様体も未発達なため、遠近調節能が苦手な構造と言えます〔Harcourt-Brown 2002〕。

水晶体で屈折した光は硝子体を通過します。硝子体はドロっとしたゲル状で、眼球の形状を内側から維持しています(眼圧維持)。硝子体を通過した光は、網膜にぶつかり映像に変換します。カメラではフィルムにあたります。網膜にはたくさんの視細胞があり、明るさや色、形を感じ取ることができます。視細胞には錐体と桿体の2種類があり、錐体は明るい所で反応して、形を見分けて色覚もあり、大きく視力に関わっていますが、桿体は暗い所で反応して、形は認識できても色覚はありません。ウサギは杆体が優勢なので、夜間の暗い場所での視覚を保つのに役だっています〔Bagley et al. 1995〕。これはウサギが夜行性であることに起因しています。映像は最終的に視神経を介して脳に伝達されて物が見えます。

眼球の最外側の膜は強膜で、カメラに例えるとボディになります。非常に強い膜で、外部からの衝撃から目を守っています。強膜と網膜の間にある膜は脈絡膜で、眼球や網膜に酸素や栄養を補給しています。虹彩、毛様体、脈絡膜から構成される眼球の中間層に位置する血管が豊富な部分を、ぶどう膜と呼ばれています。視神経の始まる部分は視神経乳頭と呼ばれ、ここから網膜の映像信号が脳へ伝達されます。眼球とまぶたをつなぐ膜が結膜で、まぶたの裏側と眼球の表面から黒目の周囲までを覆っています。まぶたの裏側を眼瞼結膜、白目の表面を覆っている部分を眼球結膜と呼び分けています。

ウサギの涙

涙のでき方

涙は目の表面を常に潤したり、目ヤニなどのゴミを洗い流します。そして角膜へ栄養を供給する役目も担っています。涙は涙腺で産生され、余分の流れ出た涙は鼻涙管という排水経路を通過して鼻の中に流れ出されます。涙は眼窩(頭蓋骨の目のくぼみ)の内側にあるいくつかの涙腺から分泌され、ウサギの涙腺は眼窩の背側に涙腺、腹側に副涙腺があります〔Harcourt-Brown 2002〕。涙は単なる水のように見えますが、実際には外側から油層、水(涙液)層、ムチン層の3層構造になっています。油層は上まぶたと下まぶたの縁にある沢山のマイボーム腺から分泌しています〔Eglitis 1964〕。涙液層は涙の主成分で、涙腺と副涙腺から分泌され、まぶたを閉じた時にポンプのように分泌されます。ムチン層は涙の土台の役割を果たし、土台がないと涙が角膜から容易にこぼれ落ちてしまいます。

ウサギには瞬膜というまぶたがあり、膜の内側にある瞬膜腺から白濁の涙液も分泌されます。瞬膜は上下に開閉する上まぶた(眼瞼)や下まぶたとは別に、水平方向に動いて眼球を保護する桃色の膜が目頭に存在し、第三眼瞼とも呼ばれています。瞬膜は鳥や爬虫類は発達していますが、哺乳類では動物種によって痕跡的になっています。犬猫やウサギは立派な瞬膜が存在しています。目の内側から瞬時に出てくるために瞬膜と呼ばれ、角膜の保護以外にも、瞬膜の内側にある瞬膜腺(ハーダー腺)からも涙液が分泌されます。瞬膜からの涙液は脂質に富んでいるため濁っています〔Harcourt-Brown 2002〕。なおウサギの瞬膜腺には性差があり、メスよりもオスのほうが発達しています。涙腺と副涙腺からの涙液は透明で、瞬膜腺からの涙液は白濁をしています〔Eglitis 1964・Donnelly 1997〕。

ウサギの目の病気

涙の排泄
液はまばたきの時に分泌し、涙点と呼ばれる下まぶた眼瞼結膜にある内側の小さな孔(涙点)から鼻涙管を通って鼻腔へ排泄されます。ウサギの涙点は下まぶたの結膜の内前側にある小さな孔です。涙点は短い涙小管を介し、少し膨らんだ涙嚢(鼻涙菅のふくらんだ所)に開口します。

ウサギ涙点

それに続く鼻涙管は直線でなく曲がりくねっており、途中から骨の中を通過して上顎の第1切歯の歯根の近くまで走行してから鼻腔内に開口します。そのため、不正咬合によって切歯の歯根が長くなると鼻涙管に影響します。鼻涙管が狭くなることを鼻涙管狭窄、完全に詰まってしまうことを鼻涙管閉塞と言います。

ほぼ360度が見渡せる
人の目は顔の正面に並んでついていますが、ウサギは顔の真横についているため、視野は広くパノラマ的で、片眼の水平視界(単眼視野)は約190度になります〔Harkness et al. 1995〕。ウサギを真正面から観察すると、目が顔の横に少し飛び出しており、全水平視野は両目を開けていると約360度と広いです。肉食動物などの天敵に襲われる被捕食動物であるため、どの方向からの敵もすぐ発見できるようになっているのでしょう。片眼ずつの視野が重なる領域(両眼視野)は立体視が可能となり、物をしっかりと見ることができますが、前方に約10度と後方に約9度の両眼視野しかありません〔根木 2010〕。

なお、口元付近は死角であるため、物の認識はヒゲや口の感覚で補っています。そのため口元にエサやおやつを持っていってもウサギは気がつかないため、ヒゲで感知したり、正面から少し離れて確認しようとします。ウサギは頭をわずかに傾けて目を向ける仕草を示したり、頭を持ち上げて耳を後ろに寝かせる仕草も、後方の両眼視野を生かして真後ろを見ようとしているのです。後方も見えるために、後ろから飼い主さんが現れるとすぐに気づいたり、お尻を触わろうとすると振り返ったりするなど、視野の広いことが分かるシーンが普段の生活で見かけます。

視力はよくない?良いの?
ウサギは視力や色覚を認識する網膜の錐体が乏しいため、視力は良い方ではなく、近視であると言われています。昼間の明るい時間帯では、ウサギは目が悪いはずですが、その分、聴覚や嗅覚を使って行動します。ウサギに遠くから呼びかける時、名前を呼んだり、おやつのパッケージを振って音を出すなど、視力以外で認識させましょう。

暗闇ではよく見える?
ウサギの網膜には暗い時に物を認識できる桿体が優位なので、暗闇でもよく見える夜行性の特徴があります。ウサギは早朝や夕方に活発に動き、薄暗い所でよく見えるようになっています。光に対する感度は人の8倍と言われています。

瞬きをほとんどしない
ウサギは、まばたきの回数がとても少なく、1時間に約10~12回しかしません〔Peiffer et al. 1994〕。これは6分に1回程度の間隔で、人やサルでは5~6秒に1回〔Cruz et al.2011、小野寺2013〕のまばたきをします。ウサギのまばたきが特に少ないことが分かります。ウサギは休んでいる時や寝ている間も完全にまぶたを閉じることが少ないのは、野生では捕食される危険に常に曝されているからです。そのために角膜表面の涙が乾燥しないように、他の動物よりも瞬膜腺が発達して脂質成分が多いのかもしれません。この特徴も天敵が近づいてくるのを見逃さないように、目を長く開いていられるよう進化した結果かもしれません。ちなみに、眠る時も目を半分開けているのが普通です。

白い涙を流す
ウサギが白い涙を流しているとパスツレラ感染症と言われていますが、それは白い膿の時によく言われ、膜腺の分泌物がたまたま多いと、白い涙を流しているように見えてしまうかもしれません。

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参考文献
■Cruz,Antonio A.V,Garcia,Denny M,Pinto,Carolina T.Cechetti,Sheila P.Spontaneous Eyeblink Activity.The Ocular Surface9(1).29–41.2011
■Donnelly TM.Rabbit Ophthalmology.ABVP Proceeding.2011
■Eglitis I.The glands.In The Rabbit in Eye Research. Prince JH.ed.Charles C.Thomas:p38-56.1964
■Harkness JE,Wanger JE.The Biology and Medicine of Rabbits and Rodents.4th ed.Williams&Wilkins.Baltimore:p305-307.1995
■Harcourt-Brown F.Textbook of Rabbit Medicine. Butterworth-Heinemann.Oxford,UK.2002
■Kaufman SR.Problems with the Draize Test.Medical Research Modernization Committee (MRMC) – Perspectives on Animal Research1:p69-72.1989
■Peiffer RL,Pohm-Thorsen L,Corcoran K.Models in ophthalmology and vision research.In the Biology of the laboratory Rabbit,2nd ed.Manning PJ,Ringler DH,Newcomer CE eds.Academic Press.New York:p410-434.1994
■根木昭.眼のサイエンス.視覚の不思議.文光堂.東京.2010

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。