専門獣医師が解説ハムスターの頬袋脱〔Ver.2〕

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頬袋の解剖

ハムスターには2つの発達した頬袋があります。


頬袋は口腔内の粘膜が陥没した憩室であり、広背筋の背側からの頬袋張筋によって牽引された状態で固定されています。

役割は?

頬袋にはいくつかの役割があります。貯蔵領域として機能し、ある場所から別の場所に食物を運ぶ手段として使われます〔Hochman et al.2004〕。素早く食料を集めることも可能になり、一般的には探し出した食料を巣まで安全に運ぶことができるようなります。頬袋の食料の備蓄は、吐き出すことによって取り除かれます。また、泳ぐ時に頬袋に空気を貯めたり、メスのハムスターは危険が迫った時には子を頬袋に入れて運んだりすることもあるそうです〔Nowak 1999〕。

ハムスターの頬袋は免疫系、特に膿瘍や腫瘍の発生の研究にも使用されています〔Williams et al.1971, Brenton et al.1951〕。

頬袋の疾患

頬袋は中に入れた鋭い物や喧嘩などの咬傷、詰込み過ぎ、ケージ内のレイアウト物の外傷などにより、炎症や損傷を受けて、膿瘍あるいは頬袋の逸脱(頬袋脱)が起こります〔Suckow et al.2012〕。その他、腫瘍発生も多くみられ〔Capello 2003,Donnelly 2013〕、粘液肉腫線維肉腫など診断されます。この中でも頬袋脱が最も多く起こります。

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頬袋脱

頬袋張筋が損傷したり、切断された場合、頬袋が反転して口腔外へ逸脱します。

損傷して浮腫が見られ、ブヨブヨとしていることもあります。

頬袋の粘膜が少し硬くなっていれば、慢性の刺激や炎症のためかもしれません。腫瘤(しこり)が形成されていれば、腫瘍の可能性が高いです。また、自らかんで壊死させることもあります。

頬袋脱の治療って?

全身麻酔下での再配置術あるいは切除のどちらかになります。

再配置術

逸脱した頬袋を元に戻して、首の近くの耳下の頬または上腕の根元の皮膚と頬袋を縫合します。脱出が再び逸脱しないように、体に吸収されない糸で縫合します〔Capello 2011〕。吸収性の縫合糸だと分解されるため、数週間しか持続しませんので注意です〔Kudur et al.2009〕。しかし、非吸収糸にも副作用が起こることもあり、遺残した糸の周囲に炎症や肉芽形成が起こることがあります〔Amid 1997,Simons et al.2009〕。基本的には下記の切除の治療をお薦めします。

切除術

頬袋の脱出の重症例では切除を行います。切断して縫合するか、超音波装置レーザーなどで焼灼を行います。 焼灼は出血を止め、創傷治癒を促進します。ハムスターは食料の備蓄のために残った頬袋のみで生活することは可能です。
    

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参考文献
■Amid PK.Classication of biomaterials and their related complications in abdominal wall hernia surgery.Hernia1:15–21.1997
■Brenton R,Lutz,George P, Fulton et al.White thromboembolism in the hamster cheek pouch after trauma,infection and neoplasia.Circulation3(3): 339-51.1951
■Capello V.Common surgical procedures in pet rodents.Journal of Exotic Pet Medicine:Clinical Rodent Medicine20(4): 294–307.2011
■Capello V.Surgical techniques in pet hamsters.Exotic DVM5:32-37.2003
■Donnelly TM.Hamsters. Clinical Veterinary Advisor:285–299.2013
■Hochman B,Ferreira LM, Vilas Bôas FC,Mariano M.Hamster(Mesocricetus auratus)cheek pouch as an experimental model to investigate human skin and keloid heterologous graft. Acta Cirurgica Brasileira19:79-88.2004
■Kudur MH,Pai SB,Sripathi H,Prabhu S.Sutures and suturing techniques in skin closure.Indian Journal of Dermatology,Venereology and Leprology75:425-434.2009
■Nowak R.Walker’s Mammals of the WorldII.Baltimore and London:The Johns Hopkins University Press.1999
■Simons MP,Aufenacker T, Bay-Nielsen M,Bouillot JL, Campanelli G,et al.European Hernia Society guidelines on the treatment of inguinal hernia in adult patients. Hernia13:343-403.2009
■Suckow MA,Stevens KA,Wilson RP.The Laboratory Rabbit,Guinea Pig,Hamster,and Other Rodents.Academic Press.p816-.2012
■Williams DE,Evans DM, Blamey RW.The primary implantation of human tumours to the hamster cheek pouch.Br J Cancer25(3):533-537.1971

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。