【病気】ハムスターの頬袋脱(戻らなくなっちゃった)

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頬袋の解剖

頬袋は口腔粘膜の両側陥入部で、左右の頬の外側に見られます。

頬袋は頬から背尾方向に伸び、肩を越えて膨張できます。頬袋の長さは4~5cmで、厚さは平均 0.4 mm で、広背筋の背側からの頬袋張筋によって牽引された状態で固定されています。

頬袋の幅は空の状態で4~8mm、満杯の状態で幅20mmまで拡張できます〔Bivin et al.1987〕。頬袋は、角化した重層扁平上皮、緻密な線維性結合組織、横紋筋線維、下層と結合する疎性な輪状結合組織の4層で構成されています。ハムスターはこれらの膨張性の高い袋を、食料や寝床材の一時的な保管にのために運搬時に使用されます。頬袋は、前肢と舌の動きで収納された物を出して空にします〔Bivin et al.1987〕。頬袋の粘膜は淡い桃色の襞があり、血管が非常に豊富で、外頸動脈の 3 つの枝から血液が供給されていますが〔Davis et al.1986〕、血流を損なわずに簡単に反転させることができるため、、微小循環、腫瘍、移植手術の研究に非常に役立ちます〔Harkness et al.1995,Gimenez-Conti et al.1993〕などの研究に使用され、腺組織、リンパ管の供給も隣接リンパ節も欠いていることから〔deArruda et al.1995〕、免疫の研究にも使用されます〔Williams et al.1971, Brenton et al.1951〕。

役割

頬袋にはいくつかの役割があり、基本的に貯蔵領域として機能し、ある場所から別の場所に食物を運ぶ手段として使われます〔Hochman et al.2004〕。

素早く食料を集めることも可能になり、一般的には探し出した食料を巣まで安全に運ぶことができるようなります。頬袋の食料の備蓄は、頬袋から吐き出すことによって取り除かれます。また、泳ぐ時に頬袋に空気を貯めたり、メスのハムスターは危険が迫った時には子を頬袋に入れて運んだりするような逸話的な記事の報告もあり〔Nowak 1999〕、アラビア語で「鞍袋の達人」と呼ばれています〔Harkness et al.1995,Lipman et al.1996〕。

頬袋疾患

頬袋は中に入れた鋭い物や喧嘩などの咬傷、詰込み過ぎ、ケージ内のレイアウト物の外傷などにより、炎症や損傷を受けて、膿瘍あるいは頬袋の逸脱(頬袋脱)が起こります〔Suckow et al.2012〕。脱出した頬袋は口腔外に垂れ下がっており、浮腫みや腫脹、紅斑が見られ、頬袋組織の脱出が長引くと壊死も起こります。

頬袋脱

頬袋張筋が損傷したり、切断された場合、頬袋が反転して口腔外へ逸脱します。

損傷して浮腫が見られると、頬袋自体が浮腫んでいます。

粘膜下の組織が浮腫を起こしており、真皮から剥がれた状態になっります。

浮腫の病理組織像

頬袋の粘膜が少し硬くなってる時は、慢性の刺激や炎症のためかもしれません。粘膜の扁平上皮の角質化が亢進しているため硬くなります。

慢性炎症による軟膜の角質亢進の病理組織像

自らかんで壊死させることもあります。

頬袋腫瘍

腫瘍発生も多くみられ〔Capello 2003,Donnelly 2013〕、粘液肉腫線維肉腫など診断されることが多います。

〔病気〕ハムスターの腫瘍の解説はコチラ

線維肉腫の病理組織像

治療

全身麻酔下での再配置術あるいは切除のどちらかになります。

再配置術

頬袋脱出が中等度から重度の浮腫である場合は、糖溶液が組織収縮に寄与し、湿らせた綿棒で頬袋を元に戻せることを期待して、50% ブドウ糖溶液を組織に直接塗布することができます。重度の浮腫や壊死のない急性の場合、麻酔下で綿棒を使用して正常な位置へ戻し、脱出が再び逸脱しないように4-0 または 5-0 モノフィラメントの非吸収性縫合材を使用して、頬袋に1 本の全層経皮マットレス縫合を施します〔Capello 2011〕。吸収性の縫合糸だと分解されるため、数週間しか持続しませんので注意です〔Kudur et al.2009〕。しかし、非吸収糸での縫合では、遺残した糸の周囲に炎症や肉芽形成が起こることがあります〔Amid 1997,Simons et al.2009〕。

切除術

頬袋脱出が重度に炎症を起こしたり、変色したり、粘膜組織が壊死しているように見える場合、切断して縫合するか、超音波装置レーザーなどで焼灼を行います〔Sato 2010〕。ハムスターは食料の備蓄のために残った頬袋のみで生活することは可能です。


    

術後は、縫合部に付着して問題を引き起こす可能性のある食品 (調理済みのパスタや米など) や寝具 (ティッシュペーパーなど) を避けます。場合によっては、通常の固形食は頬袋に入れないとも限らないため、代わりに3日間くらい流動食の強制給餌を指導する場合もあります。

参考文献

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  • Bivin WS,Olsen GH,Murray KA.Morphophsiology.In Laboratory Hamster.Hossier GL Jr,MacPherson CW.eds. Academic Press.Orlando.Florida:p10-42.1987
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  • Williams DE,Evans DM, Blamey RW.The primary implantation of human tumours to the hamster cheek pouch.Br J Cancer25(3):533-537.1971

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。