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副腎腫瘍?副腎皮質機能亢進症?クッシング?
腎臓の頭側に位置する1対の内分泌組織である副腎の皮質部分の働きが異常に亢進され、副腎皮質ホルモン(コルチゾル)が過剰に分泌される病気で、副腎皮質機能亢進症とも呼ばれ、コルチゾル値が高くなる病態をクッシング(Cushing)症候群とも呼ばれます。犬は人や猫よりも多発し、比較的高齢で発生します。
何でなるの?
副腎の腫瘍を伴う疾患と下垂体疾患が考えられます。
副腎の疾患
副腎腫瘍が発生すると、副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されます。ハムスターでは、特に副腎皮質腺腫と過形成が好発し〔Brown et al.2012〕、その他、副腎皮質腺癌〔Bauck et al.1984〕、褐色細胞腫〔Kondo et al.2008〕などの報告もあります。
下垂体の疾患
副腎皮質ホルモンは、脳の下垂体と呼ばれる場所から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) により調整されます。下垂体に腫瘍が発生すると、副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されます。ハムスターでは下垂体嫌色素性腺腫の報告があります〔Bauck et al.1984〕。
その他
医原性と呼ばれ、アレルギーや炎症などの治療に使われるステロイド(副腎皮質ホルモン)の過剰投与により症状が現れます。
どんな症状なの?
多飲多尿、腹部下垂、無気力、左右対称の脱毛(主に体幹)、皮膚の色素沈着や菲薄化、筋肉の菲薄化などが見られます。しかし、副腎に発生する病態によっては、ホルモンが過剰に分泌せずに、症状が顕著に現れないこともあります。
どのハムスターでもなるの?
高齢なハムスターに好発し、主にゴールデンハムスターに見られますが、ジャンガリアンハムスターにも稀に発生します。
どうやって診断するの?
一般的には血液検査で、コルチゾルを測定し(正常値13.8〜27.6nmol/L)、アルカリホスファターゼなども上昇します(正常値8〜18 IU/L)〔Keeble 2001,Orr 2009,Brown et al.2012〕。犬ではACTH刺激試験、デキサメサゾン抑制試験などを実施して病態を判断しますが、ハムスターでは現実的に行うことはできません。ハムスターは採血を行うのに全身麻酔が必要になり、身体が小さいため血液量も制限されるため、ホルモン測定のための十分なサンプル量を得ることが難しいからです〔Martinho 2006,Orr2009〕。特異的な皮膚症状ならびに超音波検査での副腎が腫瘍化している所見で暫定的に診断を下します。
尿検査で検査できるかも
尿中コルチゾール/クレアチニン比は、犬と猫の副腎皮質機能亢進症のスクリーニング検査として行われており〔Goossens et al.1995,Jensen et al.1997〕、ハムスターでも応用されています。ただし、尿サンプルは、コルチゾールへのストレスの影響を減らすために、自宅または身近な環境で収集する必要があります〔Martinho 2006〕。
治療できるの?
腫瘍の場合は外科手術を行うしかありません。しかし、手技が困難な場合は薬剤治療になりますが、多くの場合、薬は生涯にわたって使用しなければなりません。これまでハムスターに様々な薬剤治療が行われてきました。クッシング症候群の治療におけるさまざまなアプローチが試みられてきました。ケトコナソール(5mg/kg BID PO)〔Martinho 2006〕、ミトタン(5mg SID PO)〔Bauck et al.1984〕の治療は効果がなく、1ヵ月の投薬を施しても臨床症状の改善が見られませんでした。効果的な治療薬剤は解明されていない状態です〔Ellis et al.2001〕。一部の文献では下記の薬剤で効果的であったと報告されていますが、症例数も少ない状態です。
メチラポン
メチラポンの内服投与で(8mg SID PO 1ヵ月)で、2頭中1頭のハムスターで効果があり、12週間の治療後に皮膚症状が改善されました〔Bauck et al.1984〕。
トリロスタン
トリロスタンの内服投与で(2.5mg/kg q24h PO)、コルチゾル値が効率的に低下させ、全身状態を改善させた。30ヵ月齢のメスのゴールデンハムスターでは8週間、18ヵ月齢月のメスのゴールデンハムスターは2ヵ月で皮膚症状と全身状態は改善しました。治療の過程で有害な臨床徴候は認められませんせした〔Zadravec et al.2004〕。
参考文献
■Bauck L,Orr JP,Lawrence KH. Hyperadrenocorticism in three teddy bear hamsters.Can Vet J25:247–240.1984
■Brown C,Donelly TM.Disease problems of small rodents.In Quesenberry KE,Carpenter JW, eds.Ferrets,Rabbits and Rodents、Clinical Medicine and Surgery.St.Louis,MO: Elsevier, Saunder:354–372.2012
■Ellis C,Mori M.Skin diseases of rodents and small exotic mammals.Vet Clin North Am Exot Anim Pract4:493–542.2001
■Goossens MM,Meyer HP,Voorhout G et al.Urinary excretion of glucocorticoids in the diagnosis of hyperadrenocorticism in cats.Domest Anim Endocrinol12:355–62.1995
■Jensen AL,Iversen L,Koch J et al.Evaluation of the urinary cortisol:creatinine ratio in the diagnosis of hyperadrenocorticism in dogs.J Small Anim Pract38:99–102.1997
■Keeble E. Endocrine diseases in small mammals.Practice23:570–585.2001
■Kondo et al.Spontaneous Tumors in Domestic Hamsters.Vet Pathol45:674–680.2008
■Martinho F. Suspected case of hyperadrenocorticism in a golden hamster (Mesocricetus auratus).Vet Clin Exot Anim9:717–721.2006
■Orr H. Rodents: neoplastic and endocrine diseases. In: Keeble E, Meredith A, eds.BSAVA Manual of Rodents and Ferrets.Gloucester: British Small Animal Veterinary Association:181–192.2009
■Zadravec M,Racnik J.Treatment of Hypercortisolism with Trilostane (Vetoryl®) in Two Golden Hamsters (Mesocricetus auratus)International Conference on Diseases of Zoo.Wild Animals.2014