ウサギの橈尺骨骨折(外固定法)

本日ご紹介するのは、ウサギの前足(橈尺骨)骨折の症例です。

過去の記事にもこの橈尺骨骨折整復例を載せております。

過去の橈尺骨整復法(創外固定法)はこちらを、ピンニング法こちらを参照下さい。

今回は、非観血的(患部にメスを入れない)整復法としての外固定法を選択しました。

この外固定法は、副子(ギブスなど)を骨折部に当てて骨癒合を目指す固定法です。

外固定法は比較的簡単な処置とも言えますが、状況によっては骨折部位・骨折パターンにより不適となります。

あるいは、飼主様の費用面での事情も絡み、外固定を選択しなければならないことも多いです。

ミニウサギのチョコ君(雄、2か月齢、体重1.0kg)は左前足が折れてブラブラしているとのことで来院されました。

早速、レントゲン撮影を実施しました。

下写真の黄色丸は橈尺骨骨幹部の骨折を示します。

ここで問題となるのはチョコ君はまだ生後2か月齢の幼体であること。

それは、骨がまだ脆弱であることや長時間全身麻酔のリスク(呼吸器・肝腎機能の未成熟による)を持ってることを意味します。

チョコ君の将来を考えた時に外固定による整復法を選択しました。

若いので骨癒合は2ヶ月以内に完了するでしょう。

ただ、好奇心旺盛なので大人しく過ごせるかという点が心配です。

いずれにせよ、ごく短時間の全身麻酔は必要です。

早速、チョコ君にイソフルランによる吸入麻酔を行います。

息止めを防止するため、局所麻酔の点鼻薬を入れます。

イソフルランで麻酔導入を行っています。

次いで、患部周囲の剃毛を実施します。

生体情報モニターの電極をセットします。

副子としてアルフェンス®(9号・アルケア㈱・厚さ1.0㎜トンボ型)を好んで私は使用しています。

アルフェンス(下写真)はアルミ製の副子で、患部の形状に合わせて折り曲げが容易に出来ます。

アルフェンスの裏側はポリウレタンフォームとなっており、ある程度のクッション性が期待できます。

チョコ君の爪先から肘関節を含めて上腕骨までをアルフェンスで型合わせをします。

アルフェンスの翼の部分は、後に折り曲げてテーピングするのに便利です。

患部をストッキネット(下写真の茶色の不織布)で覆い、次にキャッド・パッド・プラス(水色のクッション材)を巻きます。

次に強力な粘着テープで手根関節部を牽引し、骨折部を指先の感覚で整復し、手根部と肘関節部を粘着テープでアルフェンスに固定します。

患部の拡大写真です。

この時点で、骨折部の整復状態を確認するためにレントゲン撮影をしました。

橈尺骨の骨折端の変位があり、骨折してからの時間経緯から筋肉萎縮も認められました。

患部筋肉のストレッチングを試みましたが、限界があります。

結果として、骨折端の完全なる非観血的整復は困難でした。

骨折治癒を成功させるためには、骨折端の皮質骨部が50%以上接触している必要があります。

この条件が満たされないと骨癒合できず、遅延癒合に至るケースもあります。

今回、チョコ君の橈骨は変位して骨折端の接触が困難ですが、尺骨は接触しています。

骨折端をどの程度まで合わせることが出来るかが、外固定の成功するか否かの分かれ道です。

骨癒合が不良で、変形癒合に至った場合は後に脊椎の変形や対側肢の足底部皮膚炎(ソアホック)などが生じるばあいもあります。

後は、チョコ君の若さにかけることにしました。

最後に収縮粘着テープでアルフェンスを巻いて終了です。

麻酔から覚醒したチョコ君です。

最低1か月以上はエリザベスカラーを装着し、このスプリント固定の日々が続くと思われます。

2か月齢の子ウサギには辛い生活となりますが、頑張って頂きます。

1か月経過したチョコ君です。

定期的にスプリントの点検のため通院して頂き、大きな問題なく1か月過ごせました。

スプリントをはずしレントゲン撮影をしました。

下写真黄色丸が骨折部を示します。

尺骨はほぼ骨癒合出来てます。

橈骨は仮骨が過剰に形成されています。

側臥の状態でのレントゲン像です。

骨折部の拡大像です。

骨癒合は1か月足らずで出来上がっていたため、スプリントを外すこととしました。

若齢個体の骨癒合は早いとされますが、その通りの結果となりました。

激しい走り込みは避け、あと1か月位は穏やかに生活するよう指導しました。

時間は流れ、下写真は6か月後のチョコ君です。

体重も250g増加しました。

特に患足をかばうことなく、元気に毎日走り回っているそうです。

伏せの状態でレントゲン撮影を実施しました。

患足は橈尺骨共に健常側と比較して太く、頑丈な骨になっています。

患部を拡大したレントゲン像です。

側臥のレントゲン像です。

下写真黄色丸は骨折部の拡大像です。

橈尺骨共に機能的に可動出来ています。

今回の症例は、本来ならば非観血的整復が不十分であるため、ピンニングなどの観血的整復手術が理想でした。

しかしながら、チョコ君が若齢のため外固定法しか選択肢がありませんでした。

結果として、骨癒合が成功して良かったです。

若齢の個体に並んで高齢のウサギも骨折は多発します。

高齢ウサギの場合は外固定での骨癒合は非常に時間がかかり、若齢個体よりも難しいです。

犬猫の橈尺骨骨折整復では外固定単独で治すケースは少ないと思います。

その一方、ウサギの場合は、諸般の理由で外固定を選択するケースが比較的多いように思います。

いづれにせよ、ウサギはロケットのように突然飛び出します。

その一方、骨は脆く非常に折れやすい特性を持ってますのでご注意ください。

チョコ君、お疲れ様でした。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。