ウサギの卵巣嚢腫と子宮腺癌

本日は、ウサギの卵巣嚢腫及び子宮腺癌の合併症のケースをご紹介させて頂きます。

ミニウサギのミニーちゃん(雌、4歳)は以前から乳腺炎と血尿があり、当院でもその都度治療を行ってきました。

血尿については、子宮腺癌の疑いが少なからずあるため、避妊を勧めさせて頂いてきました。

その後、飼主様の避妊手術のご要望があり、実施したところ卵巣嚢腫と子宮腺癌が見つかりました。

本日はその詳細をご紹介させて頂きます。

いつものことながら、全身麻酔を施すウサギは最低でも数時間高酸素(40%)のICUに入ってもらいます。

全身麻酔に関わるリスクチェックのため、血液検査を実施します。

下写真は、ミニーちゃんの耳から採血しているところです。

血液検査結果は肝・腎機能共に正常で問題ありませんでした。

次いで、点滴のための留置針を前足に入れます。

不測の事態に備えるためにも、ライフラインとしての点滴は重要です。

ウサギの麻酔はガスマスクを被って実施します。

この時、息止めを防止するため局所麻酔の点鼻をします。

ガスマスクからイソフルランを流して、全身麻酔に移ります。

ミニーちゃんが寝たところで患部を剃毛します。

バリカンだけでは剃毛は不十分でカミソリで仕上げます。

準備が完了したところで、手術に移ります。

皮膚を切開します。

下写真黄色丸は腫脹している乳腺です。

ミニーちゃんは妊娠はしていませんが、偽妊娠と言われる想像妊娠状態にあり、乳腺を圧迫すると乳が出てきます。

経験的に偽妊娠が長く継続する個体は、子宮疾患が絡んでいるケースが多いです。

次に腹筋を切開します。

すると下写真黄色丸にある左側卵巣に液体が貯留した卵巣嚢腫が飛び出してきました。

加えて黄色矢印は、暗赤色を呈した表面が凸凹に腫大した子宮角です。

早速、いつも登場するバイクランプで卵巣動静脈や子宮間膜をシーリングしながら卵巣から子宮角までを切開していきます。

下写真は子宮頸管を残して摘出した卵巣と子宮角です。

卵巣嚢腫の大きさが際立っています。

子宮頸管を縫合糸で結紮してメスで離断しているところです。

腹筋を縫合しました。

皮膚はステープラーで縫合します。

これで手術は終了です。

イソフルランの吸入を停止しますと、ほどなくミニーちゃんは覚醒を始めます。

意識はほぼ戻りましたが、まだ足元がふらつく状態です。

下写真は摘出した卵巣と子宮です。

下写真の黄色矢印は卵巣です。

草色の矢印は卵巣に生じた嚢腫です。

その内容は漿液です。

この卵巣嚢腫は卵胞嚢腫と思われますが、持続発情によるホルモン分泌異常により卵胞内に水が溜まる疾病です。

卵巣嚢腫は放置すると次第に腫大した嚢腫が破裂する場合もあります。

次に子宮角部の腫瘤箇所です。

この部位を切開しました。

腫瘤部をさらに拡大したのが、黄色丸の部位です。

この部位をスライドガラスにスタンプして染色し、顕微鏡で見た画像が下写真になります。

ミニーちゃんは子宮腺癌(悪性腫瘍)になっていたことが判明しました。

ミニーちゃんの術後の回復は良好で、食欲もあり翌日退院して頂きました。

退院前のミニーちゃんです。

さらに2週間後の抜糸に来院されたミニーちゃんです。

傷口も綺麗に治り、これで邪魔なエリザベスカラーを外すことが出来ました。

毎回、ウサギの産科系疾患の代表格である子宮腺癌をご紹介させて頂いてます。

妊娠していないのに乳が出たり、血尿が出たりする事に加えて、年齢が4歳以上であった時は子宮腺癌を疑って下さい。

ミニーちゃん、お疲れ様でした!

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。