ウサギの子宮水腫

雌ウサギでシニア世代(5歳以降)になると何らかの形で産科系の疾患が絡んできます。

子宮腺癌や子宮内膜炎、子宮水腫、乳腺腫瘍等などです。

これらの産科系疾患を防ぐためには、1歳までに避妊手術を受けられることをお勧めしています。

表だって何らかの症状があって来院されるケースがほとんどですが、臨床症状が認められずに一般の避妊手術をご希望され、開腹したら疾病が見つかったというケースもあります。

本日はそんな症例をご紹介します。

ネザーランドドワーフのみかんちゃん(5歳、雌、1.3kg)は避妊手術で来院されました。

当院は手術は緊急以外はすべて予約で対応させて頂いています。

初回の診察ではみかんちゃんは、食欲もあり視診・触診・聴診でも異常な所見は見当たりませんでした。

強いて申し上げれば、偽妊娠になっており乳腺が発達しており、圧迫すると乳房から乳が出て(射乳)きました。

他の記事でもよくコメントしますが、ウサギは常時発情状態にあります。

状況によっては、容易に偽妊娠になります。

2回目の来院で避妊手術を実施させていただきました。

いつもながらの術前の血液検査から始めます。

点滴のルート確保のため留置針を入れます。

イソフルランのガス麻酔で全身麻酔を行います。

患部を剃毛・消毒します。

これから執刀します。

開腹すると膨満したした子宮が飛び出してきました。

良く見ますと子宮角は内部が水で満たされ(下写真黄色丸)、子宮水腫という疾患であることが判明しました。

これもいつもようにバイクランプで卵巣動静脈をシーリングします。

シーリングした卵巣動静脈をカットします。

子宮動脈もシーリングします。

子宮頸管はウサギは発達して厚いため、バイクランプは使用できませんので縫合糸で結紮・離断していきます。

あとは閉腹して手術は終了です。

これで皮膚縫合して終了です。

麻酔覚醒を促すためメデトミジンの中和剤のアチパメゾールを静脈投与します。

アチパメゾールを注射しますと意識が速やかに戻って暴れることもあります。

摘出した卵巣・子宮です。

手術は無事終了してICUにて落ち着いているみかんちゃんです。

疼痛感から表情は硬い印象を受けます。

今回、摘出した子宮は水腫となっていました。

重さを計量しましたら105gありました。

みかんちゃんは以前から偽妊娠はあったようで、卵巣からの黄体ホルモン異常が背景にあったものと思われます。

偽妊娠を繰り返す個体は最終的に子宮疾患になります。

後に調べた子宮内の貯留水は、幸いに漿液性で非細菌性のものでした。

子宮水腫の場合、子宮は腫大して子宮壁は薄くなりますので、腹部を圧迫したりしただけでも子宮破裂する可能性があります。

場合によっては、子宮捻転の原因にもなります。

ウサギの子宮水腫の死亡率は子宮蓄膿症と並んで50%に達すると言われる研究者もいます。

ウサギの腹壁は犬猫の比べて非常に薄いため、開腹時には慎重にメスを運びますが、予想していない子宮水腫でしたのでびっくりしました。

5歳以降のシニア世代のウサギの避妊手術は、たとえ臨床症状がなくても、術前にエコーかレントゲン撮影をして子宮疾患の存在確認が必要と反省した次第です。

下写真は、2週間後の抜糸で来院されたみかんちゃんです。

術後の経過良好で、食欲もあり元気です。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。