ウサギの子宮腺癌・子宮水腫 (その3)

ウサギは繁殖に特化した動物です。

自然界では肉食獣に捕食される立場にありますから、種の保存のためにも繁殖能力は秀でている必要があるわけです。

野生のウサギは年間5~6回出産するとされます。

一方、家庭でペットとして飼育されている妊娠させないウサギの子宮は1年中、過剰量の女性ホルモン (エストロジェン) に暴露されます。

ウサギの子宮疾患が多発する原因は上記の点にあります。

以前、ウサギの子宮腺癌ウサギの子宮腺癌(その2)にもその詳細を記載しました。

興味のある方は上記下線部をクリックして下さい。

前置きが長くなりました。

本日ご紹介しますのは、ウサギの子宮腺癌の第3弾です。

今回は子宮水腫も伴う症例です。

ロップイヤーのタックちゃん (6歳10か月齢、雌) はわずかながら陰部からの出血がしばらく続くとのことで来院されました。

タックちゃんの年齢から推察すると、子宮疾患を持っている可能性は高いように思われました。

飼い主様が避妊手術を希望されたこともあり、またタックちゃんの全身状態も良好なため一般の避妊手術としてお受けすることになりました。

手術を受けて頂くためには、犬猫以上にデリケートな動物なので入念な準備が必要です。

換気不全に陥らないようにICUの部屋 (下写真) で高濃度の酸素を吸入させ、肺を酸素化します。

もし手術中に呼吸停止したとしても、わずか1~2分でもこの酸素化処置が効果を示し、緊急処置に対応できる場合があります。

次に血液検査を実施して、全身麻酔に耐えられるかチェックします。

次に前足の橈側皮静脈に点滴のラインを確保するため、留置針を入れます。

麻酔導入薬を投与した後、ガス麻酔でしっかり寝ていただきます。

これから手術に移ります。

腹部正中線に沿ってメスを入れます。

腹筋を切開したところで、腫大した子宮が外に出て来ました。

下写真黄色丸が子宮腺癌と思われる箇所で、黄色矢印は子宮水腫です。

子宮全体を入念に観察して、この部位以外に腫瘍と思しきものはないことを確認します。

卵巣動静脈をバイクランプでシーリングします。

7歳近くなると腹腔内も内臓脂肪も多くなり、脂肪組織内に潜んでいる血管を傷つけないよう卵巣と子宮の摘出を進めていきます。

最後に子宮頚部を離断します。

摘出した子宮です。

子宮腺癌と思われる部位を切開した断面です。

この断面をスタンプ染色した結果が下写真です。

炎症細胞と腫瘍細胞が認められます。

水腫の箇所を切開しました。

下写真にありますように子宮粘膜が炎症を起こし、一部出血・腐敗が始まっています。

これらの箇所から持続的にタックちゃんは出血があったものと思われます。

特に出血もなく無事卵巣・子宮を摘出し、閉腹します。

ウサギは術後、患部を齧ることが多いためステープルで縫合することが多いです。

縫合後の患部です。

手術直後のタックちゃんです。

ウサギの場合、術後にチモシー(乾草)を食べてくれるか否かで予後が分かります。

タックちゃんは術後しばらくしてチモシーを採食し始めました。

ウサギの手術後でホッとする瞬間です。

翌日のタックちゃんです。

水も飲み、ICU内で動き回れるようになっています。

無事タックちゃんは、元気に退院となりました。

4歳以降の未避妊雌の陰部出血は子宮疾患の可能性が高いとされます。

先に述べたとおり、ホルモンバランスの問題を雌ウサギは抱えています。

毎回、同じことを書いていますが、1歳になるまでに避妊手術を受けられることをお勧めします。

タックちゃんのように、子宮腺癌がまだ子宮全体に広がる前であれば予後良好ですが、子宮腺癌の末期ステージでは肺にも癌が転移するケースも多く、術後の生存率は低くなります。

雌ウサギを雄同様に長生きさせるためにも、避妊手術の必要性を感じます。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。