ウサギの食滞 (食餌内容物による胃内膨満)

ウサギの疾病で症状として一番多いのは、食欲不振です。

基本的にウサギは寝ている時以外は、口の中をモグモグと餌を咀嚼しているのが普通です。

食欲不振が24時間以上続くのは、要注意です。

食欲不振の原因は、口腔疾患 (臼歯過長症など) あるいは消化器疾患であることが多いです。

以前、ウサギの消化器症候群 (RGIS) についてコメントさせて頂きました。

詳細はこちらを参照下さい。

RGISは、各種原因による消化管うっ滞 (食滞) を総称して呼びます。

原因とは、食餌内容や異物誤飲、消化管への微生物感染、飼育環境によるストレス等などです。

RGISにより、胃内容の停滞・胃内液の貯留・腸管蠕動の停滞・腸内ガス停留が生じ食欲廃絶に至ります。

今回、ご紹介しますのはRGISになり、胃内容が食餌で膨満し、外科的に胃切開を実施して治療したケースです。

ホーランドロップのソラ君(雄、3歳6か月)は朝突然、食欲が無くなったとのことで来院されました。

ソラ君は眼が虚ろで、軽度のショック状態に陥っています。

触診しますと腹部が膨満しており、RGISが関与する食欲廃絶の可能性が高いと思われました。

そのため、レントゲン撮影を実施しました。

下写真の赤矢印は心臓で黄色丸が胃です。

心臓に比べてもかなり胃が、胃内容物で膨満しているのがご理解頂けるかと思います。

一般的に腹部レントゲン検査で腰椎3椎分以上で胃拡張と診断されます。

ソラ君の場合は、腰椎6椎分位あり、かなり胃は膨大しているのが分かります。

下写真の黄色丸は胃です。

胃が内容物で一杯に腫れている一方で、十二指腸から下へ胃内容物が蠕動運動と共に送られていないため、小腸はガスが貯留した状態になっています(下写真赤丸)。

胃内容物が腸まで送り込めていないことは、消化管閉塞を示唆します。

ウサギのRGISは、迅速な対応をしないと死の転帰をたどるケースも多いです。

胃内容が異常発酵してガスが貯留した場合は、胃カテーテルを入れてガス抜きを行いますが、今回はガスよりも多量の胃内容物による胃拡張が原因と思われますので、外科的に胃切開を施し内容物を除去することとしました。

ソラ君の頭側皮静脈に点滴のための留置針を入れます。

ガス麻酔を実施し、お腹の剃毛・消毒を行います。

胃の存在する上腹部 (下写真黄色丸) は外から見ても以上に腫れているのがお分かり頂けるかと思います。

胃が下に位置していると思われる上腹部にメスを入れます。

腫れあがった胃が腹壁を切開すると同時に飛び出してきました。

胃に四方から支持糸をかけて、胃が腹腔内に戻らないように上方に牽引します。

胃壁に切開を加えます。

胃内は食渣で一杯です。

ティー・スプーンで胃内食渣を全て取り出します。

胃内を生理食塩水で洗浄して、バキュウームで吸引します。

内容が空になった胃壁を縫合します。

胃壁を隙間なく、しっかり縫合するため2層縫合法を実施しました。

1層目の縫合は漿膜・筋層・粘膜の全層貫通の縫合です。

2層目の縫合は、漿膜と筋層のみを貫通させる結節レンベルト縫合を実施しました。

これで胃切開部の縫合は終了です。

食渣で腹腔内が汚染されるのを防ぐため、腹腔内を加温生食で何度も洗浄します。

最後に胃縫合部に抗生剤を滴下して閉腹します。

腹筋を縫合します。

最後に皮膚縫合して手術は終了です。

胃内に停留していた食渣の一部です。

食渣からは発酵臭が認められます。

麻酔覚醒直後のソラ君です。

ぐったりはしていますが、意識はしっかりしています。

術後のソラ君の回復は良好で、食欲も翌日から順調に出て来ました。

とはいえ、大きく胃切開をしていますので、犬の異物誤飲のケース同様に流動食の強制給餌がしばらく必要となります。

術後4日目のソラ君のレントゲン写真です。

胃拡張の状態から、ほぼ正常な大きさに胃は戻っています。

加えて、盲腸以下のガスの貯留も抜けて落ち着いています。

ソラ君のRGISの原因は、食餌の内容にあるようです。

ペレットフード、チモシー (一番刈り) 以外に、オオバコやチンゲンサイ、コマツナ、キャベツ、ニンジンの葉等の生野菜を中心とした食生活を送っていたそうです。

一度に多量の生野菜を摂食することで、胃内容が発酵したり、胃液が貯留したりして胃腸の蠕動運動が低下して、今回のRGISに至ったと考えられます。

今回、ソラ君は毛球症対策としてラキサトーンを利用されているとのこともあり、胃内異物としての毛球は認められませんでした。

食餌に関しては、体重の1.5%にあたるペレットフードと後の大部分はチモシーを給餌するようにして下さい。

退院時のソラ君です。

普通にチモシーもしっかり、食べられるようになりました。

元気に退院できて良かったです。

この記事を書いた人

伊藤 嘉浩

伊藤 嘉浩

“小さくてもひとつのいのち”をスローガンに命あるもの全ての治療に全力を注いでいきたいと考えています。

動物医療は我々、獣医師と飼い主様、動物の3者が協調しあうことでよい治療結果が生み出せると考えます。

治療に先立ち徹底したインフォームド・コンセントを心がけております。